第十六話 幼なじみと活動開始
青陽高校は1908年創立の歴史ある高校だ。戦前は旧制の女学校だったのだが、戦後に現在の共学高校になった。そして、毎年応援団が「陽歌」と呼ばれる応援歌を寄贈することが慣例となっていたのだ。
「動画サイトに上がってるのは“青陽高校応援歌”といくつかの陽歌だけなの。陽歌の歌詞をまとめた冊子はあったんだけど、その曲がほとんど解らないのよね」
部室を片付けたときに出てきたガリ版印刷の陽歌集を、山村は自宅でコピーしてもって来た。それを自慢げに俺たちに手渡す。
「すごいな、これ。全部で何曲あるの?」
俺はパラパラとページをめくりながら正直感心していた。歴代の応援団は毎年こんなにしっかりした応援歌を作詞していたのかと。
「ここに収録されているのは全部で45曲よ。収録されていないのもあるんだけどね。そしてこれが、私のお父さん達が作って寄贈した陽歌よ!」
それは今から25年前のページに記載されていて、赤ペンで花マルとハートが書かれている。
「このハート、山村が書いたんだよね?」
「そうよ!文句ある!?」
「いえ、無いです」
なんとも愛情の溢れることだ。山村のお父さん、あなたの娘さんはこんなに立派に育ちましたよ。
「山村さんのお父さんって、応援団の先輩だったんですね。すごい。こんな立派な陽歌を作るなんて」
事情を知らない仲山さんがぼそっと呟く。つやのあるストレートの黒髪で、文学少女的な仲山さんが冊子をめくっているとなんともサマになる。山村とは違うな。
「そういや、仲山さんには言ってなかったわね。私のお父さん、応援団のOBなのよ。そして私の初恋の相手。4年前に死んじゃったんだけどね」
それを聴いた仲山さんは山村の方を見たまま固まってしまった。父親を亡くしているという山村に、どう声を掛ければ良いか解らないのだ。15年という短い人生経験の中で、このリアクションに正解を出せるヤツなんていないだろう。俺も電話口で聞いたときには、何の言葉も出て来なかった。
「気にしなくて良いわよ。暗い顔をしてもお父さんが帰ってくるわけじゃ無いからね。私はお父さんに喜んでもらえるように明るく前向きに生きることにしたんだから。だからみんなも一緒に前進しましょう!反動主義に浸ってちゃだめよ!プログレスなのよ!」
山村は過去の悲しみを振り切るように拳を握って口元を引き締める。山村のこういう所は本当に立派だと思う。ところでプログレスってどういう意味だろう?
平成13年 94期生寄贈 『若鷹飛翔』
起て若人よ 青陽学徒 八洲にはばたけ 若鷹となりて 悠久大河の流れは強く 蒼天仰ぎて 福山望む 熱き想いをたぎらせて 嗚呼 黎明の 時来たり 我らが学び舎 阿智の野に 拓けよ 磨けよ 叡智を着けろ 嗚呼 青陽 青陽高校
「これ、良い歌詞だな。本当に高校生が作詞したのか?」
この冊子に掲載されている陽歌はどれも高校生が作詞したとは思えないくらいのクオリティがある。当時の学生の熱意が伝わってくるようだ。
「そうよ。私のお父さんを舐めないでほしいわね。で、残念なんだけど、この歌のDVDや録音が残ってないの」
山村がネットで見つけたお父さんの動画では、別の応援歌を歌っていたそうだ。それでお母さんにも協力してもらって、お父さんの遺品のDVDやMDを漁ってみたがそれらしい物は見つからなかった。
「それでこのビデオテープの中身を確認したいと?」
山村は“平成13年学園祭”とか“卒業式”などとラベルの貼ってあるVHSテープを4本持って来ていた。山村の家には既にVHSを再生できるデッキは無いので確認できなかったそうだ。その事を仲山さんに話したところ、ちょっと前まで店で販促ビデオを流していたVHSデッキがあるとの事だった。
「じゃあみんなで仲山さんの家に行くよ!」
仲山さん、嫌ならちゃんと嫌と言った方がいいぞ。




