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第十五話 幼なじみと嫉妬

 山村と小島と別れて校門の方へ歩き出す。ちょっと遅れて子リスのような仲山さんがついてきた。女の子と並んで下校しているとなんだか気恥ずかしい。こういう時って何を話せば良いんだろう?


「今日はありがとうございました。みんないい人ばかりで安心です」


 俺が黙って歩いていると仲山さんの方から話しかけてきた。気を遣わせちゃったかな?


「びっくりしなかった?仲山さん。山村って空気読めないところがあるというか自分勝手というか。基本は見ての通りいいやつなんだけどな」


 時間は18時過ぎだがまだまだ太陽は高い。校門を出ると幅6メートルほどの道路があってその向こう側がグランドになっている。正面すぐはサッカー部が練習に使っていて、その奥では野球部がランニングをしていた。


 俺はちらっと野球部のランニング風景に視線を向ける。仲山さんは野球部のマネージャーになりたかったけど応援団に来たと言っていたので、野球部に入れない理由があるのだろう。


「はい、大丈夫ですよ。山村さん、廊下で時々見かけていて、とっても明るくて活発な人なんだろうなって思ってたんです。想像の通りでした。それより、わ、私と一緒に帰ってよかったんですか?」


 仲山さんは俺の方を見上げてちょっとだけ不安そうな顔をしている。何だろう?


「あ、あの、山村さんとお付き合いしてるとか・・・そんな感じじゃないんですか?」


「ん?ただの幼なじみだよ。何で?」


 ◇


「陽佳里、水原くんと仲山さんを一緒に帰らせてよかったの?二人、仲良くなっちゃうかもよ」

 山村と小島は自転車を並べて住宅街の路地を走っていた。幹線道路は交通量が多くて危ないので出来るだけ使わない。この住宅街を抜けると田園地帯に入って、走っているのは軽トラか耕耘機だけだ。


「ん?何で?仲良くなって良いんじゃない?みんな友達だよ」


「うーんとね、友達以上の関係ってやつよ。水原くんが仲山さんと付き合うようになったりしてもいいの?」


 山村はそう言われてちょっとだけ思案する。そして破顔した。


「あはははは。無い無い。勇樹くんまだ子供だよ。恋愛なんて全然イメージ出来ないよぉ」


 小島は無言で山村に笑顔を向ける。


 “子供なのは陽佳里だよ”


 ◇


 仲山さんと駅に向かって商店街を歩いていると、時々知った顔と出くわしてしまう。電車で通学している連中は間違いなくこの道を通るし、帰りに駅前で遊んで帰るヤツも多い。なんとなくみんなから見られているような気がして落ち着かないんだよな。自意識過剰だろうか。


「じゃあ水原くん、私、こっちだからここでね」


 仲山さんの自宅兼酒店は、メインの商店街から横に入ったところにあるらしい。一般向けと言うより、飲食店向けの販売がメインということだった。


「うん、じゃあまた明日」


 俺は仲山さんと別れて駅の方へ向かう。駅裏のマンションに行くには駅の構内を通るのが一番近道なんだけど、誰かに出会う可能性があるのが難点だ。挨拶くらいなら良いんだけどね。


 そんな事を考えながら歩いていると、声を掛けられてしまった。


「勇樹!」


「よお、シンジ!」


 麻雀仲間の雨宮シンジだ。部活帰りなのかスポーツバッグを抱えて小走りで駆けよってきた。


「勇樹、さっきまで一緒に歩いてた女子、仲山さんだよね?付き合ってるの?」


 こういうこと聞かれるのが嫌なんだよな。ちょっと女子と歩いてるだけで付き合ってるんじゃ、生涯に何人彼女が出来ると思ってるんだ?


「バーカ、そんなんじゃねーよ。今日応援団に入りたいって来て、さっきまで部活してたんだよ。帰る方向が同じだから一緒だっただけ。そういやシンジ、仲山さんと同じ中学だっけ?」


 雨宮シンジもそういえばこの近くが自宅だったはず。それなら同じ中学の可能性は高い。


「そうだよ。同じ中学。仲山さん、中学の時は野球部の女子マネしてたんだよな。何か情報知りたい?」


 同じ中学だったシンジに聞けば、仲山さんが泣き出した理由も解るかも知れないなとも思いつつ俺は話を変える。正直込み入った話に首を突っ込みたくはないのだ。


「いや別に。それより、俺と仲山さんが付き合ってるとかウソ情報流すなよ。部活が同じだからこれからもちょくちょく一緒に変えるかもだけど」


 そうなのだ。写真部だったはずなのに何故かなし崩し的に応援団をやる羽目になってるのは不思議でならない。俺はこんなにも流されやすい人間だっただろうか。


「ふーん、まあ、一緒に帰るところから恋いに発展することもあるしな。そん時は応援するよ」


 シンジを適当にあしらって俺は自宅に帰る。しかしシンジのやつ、付き合うとかそういう事ばっかり考えてて脳みそがピンク色にならないのだろうか?そういえば見園みその先生の前でもデレデレしてたし。まあ、思春期のこの時期、異性の誰かを好きになるのが普通なんだろうな。なんか、全然必要性を感じないんだが。


 ◇


「ただいまー」


 山村陽佳里は持っている鍵で玄関を開けて自宅に入る。いつものルーチンで「ただいま」と言うが返事は無い。父は他界しているし母は中学校の教師をしていて、帰ってくるのはいつも夜8時半くらいだ。冷蔵庫から食材を出して、自分と母の夕食を作り始める。父が死んだときにある程度の保険金は入ってきたが、それだけでずっと暮らしていけるわけでも無い。そのお金は陽佳里が大学進学するための資金として、外貨預金や債券へ分散投資していると聞いている。大丈夫だろうか。


 夕食の準備が済んだのでお風呂に入る。母が帰ってくるまでまだ40分くらいあるのでゆっくり温まることができるだろう。


 “新入団員が来てくれて良かった”


 湯船に浸かってぼーっと天井の照明を見上げながら陽佳里は今日一日を振り返る。ちょっと泣き虫な仲山さんが団員になってくれた。まさか女の子が来てくれるとは思っていなかったので、ちょっと驚きはしたがとても嬉しかった。


 “でも何であんなに泣くのかしら?勇樹くんは私にデリカシーがないからだって言うけど、絶対そんな事無いわよね”


 改めて考えてみるが、仲山さんが何故泣いたのかやっぱり解らない。


 “勇樹くんはあんまり詮索するなって言うけど、友達なんだから何でも打ち明けて話すのが絶対言い事よね。勇樹くん、仲山さんと一緒に帰ったけど何か聞き出してるのかしら?”


 そんな事を考えていると、二人が喫茶店かファミレスで一緒に食事をとっている風景が頭に浮かんできた。想像に過ぎないのだが、なんだか二人はとっても楽しそうに談笑している。


 ムカッ


 “?・・・なんだろう?今の変な感じ”


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