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第十四話 幼なじみと幼なじみの彼氏

「ほら台ふき。これで拭け」


 俺はテーブルの端っこにあった台ふきを小島に手渡す。ちゃんと自分で拭けよ。


「ごめんごめん。見られてた?家の方向が違うから一緒には帰らないんだけど、ときどき駅前の方とかでね・・・」


 小島は苦笑いを浮かべながら、吹き出した紅茶で汚れたテーブルを拭いている。


「へぇ、いいなぁ彼氏。ねぇ、どんな人?」


 あいかわらずがっつくヤツだな。男の俺がいる前じゃ話しづらいだろう。そういう配慮の無いところがダメなんだぞ。


「う、うんとね、彼氏というか何というか、付き合ってるというかいないというか・・・」


 小島がモジモジしながら顔をまっ赤にしている。これだけ日に焼けて小麦色なのに、それでも赤くなるのがわかるってどれだけ恥ずかしがってんだよ。


「山村、小島も男の俺がいる前じゃ話しにくいだろ。恋バナは女子だけの時にしろよ。そういうのをデリカシーが無いって言うんだぞ」


「あ、勇樹くん、また非道いこと言った!デリカシーくらいありますよーだ!」


 山村は俺に向かって舌を出しあっかんべーの仕草をした。舌長いな。舌の上の味蕾のブツブツがちょっとエロい。


「じゃ、俺ももう帰るわ」


 時計の針は5時半を回っている。これ以降の部活動は延長活動届けを出しておかないといけない。まあ、ほとんど形骸化しているのだけど。


「そういや、勇樹くんって家はどのあたりなの?」


 以前は山村の自宅のすぐ近くのアパートに住んでいたのだが、今は駅裏の20階建てマンションに住んでいる。徒歩15分といったところだ。父親が転勤族なので、もちろん賃貸マンション。


「あ、あの新しく出来たマンションですか?私の家と近いんですね」


 仲山さんの自宅は駅の東側にある商店街で酒店を営んでいるそうだ。創業60年の老舗らしい。


「勇樹くん、一緒に帰ってあげなよ」


「うん、でも、男の俺と帰るのって迷惑じゃ無い?」


 念のために聞いておく。もし彼氏がいるようなら俺と帰るのはまずいだろう。


「なに男アピールしてるのよ。自意識過剰だぞ、勇樹くん」


 山村がからかうようにケラケラと笑う。


「お前にとって俺は幼なじみ枠だから男じゃないかもだけど、普通は気にするんだよ。お前が子供なだけだ」


 俺と山村の間で仲山さんがモジモジしている。山村の無遠慮な発言で困っているようだ。


「あ、あの、彼氏とか、今は居ませんし・・・その、良かったら一緒に帰ってもいいですか?」


 仲山さんは消え入りそうな声をなんとか絞り出す。本当に俺と帰りたいのかどうかは不明だが、この状況で断るのも失礼だと思ったのかも知れないな。しかし、彼氏は“今は”居ないんだ。この辺りが泣いてしまった理由だろうか。


 カップを片付けて部室の鍵を閉めた。鍵はドアノブに掛けてあるダイヤル式の鍵ボックスに入れる。この番号を知ってる人だけ部室のドアを開けることができるのは便利だ。


「じゃあ、私たちは自転車置き場に行くね!勇樹くん、ちゃんと仲山さんを送るんだよ!変な気を起こして胸とか揉んじゃダメだからね!」


 ペシッ


「いったぁ~。何すんのよ、京子!」


 隣に立っていた小島が山村の頭をはたいた。小島は山村より10センチほど背が高く、丁度はたきやすい高さに頭があったようだ。ほとほと呆れたという顔をしている。


「陽佳里、外でそんな下品な事言わないの!ごめんね~仲山さん。この子、新しい友達が出来てコーフンしてるみたい。長い目で見てやってね」


 出来の悪い妹に手を焼いているお姉さんのようだな。


「うん、ありがと。私も今日一日で友達が三人も増えて嬉しい。また明日ね!」


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