7 快適な旅
「預けてたの、取りに来たんだけど。」
「あー。修理は終わってる。だけどさー。うちのかわいいコたちを、こんな度々壊されたんじゃ、私も悲しい。」
「それは本当に申し訳ない。それで申し訳ないついでに、ツェリンの向こうでバイクやられてさ。引き取りに行って欲しいんだけど。」
「嘘やん。」
胸の大きいお姉さんは、天を仰いだ。
「ツェリンからどうやってここまで来たん?」
「バスとか。あとシェンカとかに乗せてもらって。他は歩き。」
「その子を連れて?」
急に話を振られたので、僕はびっくりして肩がきゅっと上がってしまった。
「あー。こいつはたまたま。途中で乗ってたバスがやられてさ。放っておくわけにもいかないから。」
「ふーん。」
カーラは、口の端でにやっと笑った。
「放っておかれた方が、ましだったかもよ~ん。まあいいわ。マシンはこっち。」
カーラの後に続きながら、アッシャは
「ちぇ、なんだよ。ほっといた方がマシかよ。」
とぶちぶち愚痴る。
「そんなことないよ。楽しかったし。」
急いで慰める。
ほんとに、楽しかった。
カーラが、牛舎の隣にある、背の高い建物のシャッターを開けた。
まず目に入るのが、大きな、たぶん牧草ロールを作るための機械。
なんだろうけど、前にもいっぱい手がついていて、カニクレーンみたいな様相だ。
カーラが乗り込んで、それを一旦外に出す。
そして改めて壁のスイッチを押すと、ゴーという音とともに、下の段がせりあがって来た。
すごい。
でかいバイクだ。
ていうか自動車?背もたれまであるシートに、タイヤは三輪あるように見える。
いやでも、またがって乗るっぽいから、バイクなのかな。
見たことない形だ。
「イオンクラフトではフル充電で一時間が限度だね。」
「レールガンを搭載したいんだけど。」
「無理。」
「全長二メートルぐらいのコンパクトサイズなんだって。」
「無理。イオンクラフト機構を外して、タイヤ走行オンリーにするならいいけど。」
「えー。」
「重いんだって。今でもギリだから。」
「ちぇ~。」
「ツェリンから引き取って来たバイクが生きてたら、そっちにつけなよ。」
「へぇへぇ」
アッシャはそのバイクに乗り込んで、エンジンをかけた。
ドュルンっと腹に響く低音。
「バカでしょー!」
カーラが叫んだ。
エンジン音を惚れ惚れと聞いていたアッシャは、カーラの声というより表情にびっくりしてエンジンを切った。
「何?」
「こんなところでエンジンかけたら、すぐ見つかるでしょ。もうちょっと先まで行ってからにして。」
「あ、そうか。」
よっぽど、このマシンに乗れたのが嬉しかったらしい。
アッシャはうきうきと、自分の荷物をシートの下に詰めて、それから僕に、後部座席に座るように言った。
やっぱりバイクだ。
僕もまたがって乗る。だけど背もたれがちゃんとあって、シートベルトも付けられるようになっていた。
「安全にね。」
「俺はいつも安全運転だって。」
手元で何やらカチカチ操作していたかと思うと、今度はモーター音が聞こえ始めた。
マシンがふわっと浮く。
見たところ数センチってところだけど、確かに浮いている。
「これ、ドローンなの?」
アッシャの腰を掴みながら聞くと
「そんなに浮かない。まあ、電動バイクとドローンのあいだってとこかな。」
だけど、ドローンみたいな甲高いウィーンって音があんまりしない。プロペラもない。
すごいな。
「じゃあな、カーラ。後はよろしく。」
「修理代は月末引き落としだから。」
「ほんと、それな。」
「払ってもらえないと、ツェリンくんだりまでバイク引き取りに行けないよ。」
「うー。そりゃそうか。」
アッシャはカーラに手を振って、マシンを発進させた。
三輪あるタイヤは、格納されたっぽい。
すごい。恰好良い。
滑るように、倉庫から出た。音が静かだ。
ただ、結構風が吹き出すので、後ろに砂埃が舞う。
「よっしゃ。飛ばすぞ。ここからボロールまで、二時間ぐらいで着くからな。」
楽し気な、アッシャの声がした。
「しっかり掴まってろよ!」




