4 シェンカ
ベスカってどこ。聞いたことない。
つまり聞いたことないぐらい小さい町だってことだ。
すると、アッシャが僕の耳に顔を寄せた。
「どうもヤバいからさ。街道を外れて行く。この前のバスの事故の噂が、この辺にまで広がってるみたいなんだよな。」
週一しか走らないバスが、爆破されたら、困る人はいっぱいいるだろう。大事な路線だ。
だけど、残念ながら、その路線からはここははずれている。そんな、三日とかそこらでここまで噂が流れて来るなんて、早すぎる。
「乗客を探しているらしいんだよ。誰かが爆破したんじゃないかってさ。変に疑われたら面倒だろ?だから街道を外れて行く。ちょっと歩きにくいけど我慢な。」
ふわ~。ありそうでもっともらしいけど、理由としてはちょっと疑わしい。
まあいいけど。
この人、何者なんだろう。
僕らだって、追手を撒きながらの旅だけど、そんな人が他にもいるとは思わなかった。まして、同じバスに乗り合わせるなんて。
「ここからだと、三十キロってとこかな。」
えー。やだなぁ。
この前もすごく歩いたけど、夜中、灯りのない所で歩くのはかなり辛い。
今は月明かりがあるから歩けなくはないけど、速度は落ちる。
今から三十キロ歩いたら、朝までかかる。
いつもだったら、適当な仕事を探してバス代とか宿代とかを稼ぐんだけど。
でも今回は、このお兄さんに興味がわいてきたのでついて来た。大変過ぎて後悔してる。
僕の、「やだなぁ」っていう表情を見て、アッシャは笑い出した。
「頑張れ。そこまで行ったら何とかなる。」
何とかって。どうなるんだろう。
とりあえず、街道に沿ってベスカまで歩いた。
もうくたくた。
明け方、町までもう少し、というところで、向こうから車が来るのが見えた。
バギーだ。
慌てて物陰に隠れようとしたけど、アッシャは逆に手を振った。
「おーい。」
街道から逸れてきた車が、目の前で止まった。
降りて来たのは、癖のある黒髪をボブにしたお姉さん。
「やっぱりね~。トーニャから連絡貰ったの。そろそろこの辺じゃないかと思った。」
「鋭いなぁ。助かる。」
「足代わりにされても困るんだけど。まあ、暇だから。」
そして、僕を見て言った。
「弟?」
「似てるか?」
「全然。」
「連れだよ。一緒にバスに乗ってたんだけどさ、バスがやられちゃって。」
「うわ。ひど。災難ね~。」
手招きされて、バギーに乗り込む。
バスが爆発炎上したのを、「災難ね」で済ますって。すごいな。
慣れてる?
たぶん、こういうのも初めてじゃないんだろうな。
「今回はどこまで行くつもりだったの?」
「ボロール。」
「何しによ。」
「この前聞いたんだけどさ、俺のマシンに実装出来そうな超電磁砲を開発しているおっさんがいるらしい。」
「やめときなよ。今徒歩ってことは、どこかでバイク壊したんでしょうよ。」
「ははは。ツェリンの向こうで、バラバラになった。」
「ほらもう。死んでも知らないよ。」
「なんだ、そんなこと。やりたい事は全部やる。そうでなきゃ、死んでるのと同じだ。そんな人生に、どんな意味がある?」
「相変わらずねぇ。命がいくつあっても足りない人生と、一個の命を大事にする人生だったら、どっちもそんなに差がない気がするけど。」
バギーは、町の中の一軒の家の前で止まった。
「それで?いくらなんでも、ボロールまでは送れないわよ。」
「ん。わーってるって。カーラんとこに、一機預けてるからさ。取りに行く。」
外階段をそっと音をさせないように上がる。
ベランダから部屋の中に入った。
「とりあえずこの部屋使って?」
「助かる。」
アッシャは、尻ポケットから三百ソルを出した。
「これで頼むわ。」
「了解。」
ソバージュボブのお姉さんは、またそっと階段を下りて行った。
「あのー。どういう知り合いなんですか?恋人?」
「ばーか。昔、一緒に悪さをやった仲間だって。」
悪さ。どんな?ちょっと怖いな。
部屋の中にはソファーとベッドが一つずつあって、安ホテルの客室という感じだった。あんまり生活感がない。
「お前ベッドで寝ろ。俺はソファーで寝る。」
「はぁい。」
とりあえず眠たい。寝よう。




