3 もう一度バスに乗る
結局、トーニャの旦那さんが仕事から帰ってきてから、事情を説明して、ドルマの町まで車で送ってくれることになった。
「すんませんね。」
これは旦那さんの方。
「あんないっぱい薬とお菓子もらっちゃって。」
「あー、いいんすよ。この前借りた金の利子なんで。」
「ああ。そうっすか。なんにしろ、ありがたい。この辺じゃもう、風邪薬も手に入りにくくなっちゃって。」
「そっすか。長距離バスも本数少なくなってきたっすもんね。」
歩いたら二日がかりの百キロを、バギーで二時間ちょっと。やっぱ車ってすごいな。
日が暮れる前にはドルマの町に着いていた。
「お前はさ、ボロールに行くんだっけ?」
お兄さんに聞かれた。
「えーと。まあ、その辺。」
あいまいにごまかしておく。
「そっか。一緒に行くって事でいいんだよな?」
「えーっと。」
改めて聞かれて、困った。ここから乗るバスは、チェルフィまでは行くらしい。カスリナヘナよりは全然手前だ。
だけど、ほとんど手持ちのお金のない僕は、そこまでのバス代だって出せそうになかった。
「そういや、名前も聞いてなかったな。俺はアッシャ。お前は?」
「アティス。」
偽名を使ったほうが良いのかな、と思いながら、つい本当の名前を答えてしまった。
「へー。アッシャとアティスか。なんか似てんな。」
お兄さんは笑って、バスターミナルで一駅分を二枚買った。
「いいか、いつ降りることになるか分かんねぇんだから、とりあえず買うのは一駅分にしとくんだよ。で、降りる時に清算。これ基本な。」
なるほど。目からうろこが落ちた気分。あんなに高額なバス代を払う前に教えて欲しかった。
でもそれぐらいなら、僕にも払えそうだ。
そう言うと、
「いやいや、俺の事情に巻き込んじまったしさ。まあ、まかせときな。」
「事情って何?」
最初は僕のせいだと思ってたけど、このお兄さんだってなかなかだ。只者じゃない。バスを戦闘機で攻撃してくるような追手って、普通じゃない。
「んー。まあ、いろいろあんだよ。ガキが気にすることじゃねぇよ。」
そう言われても。バスを爆破されるような事情って、何。
気になるけど、それを聞いたら、僕の事情も話さないといけなくなる気がするから、やめておく。
「お前はなんで、一人で旅してんの。」
「えーと。」
どれぐらいなら大丈夫だろう、と考えて、
「兄さんがボロールで待ってるから、行くところ。」
まあ行先の方向として、これぐらいなら言っても大丈夫かな。
「へー。お前、いくつよ。」
「十三。」
そっか。十三か。アッシャはそう独り言ちてから、待合室の椅子に足を投げ出すように座った。
もうすぐバスが来る。バスはここで夜明けまで待機して、そこからまた発進する。
ドルマからチェルフィまでは比較的近いし、この辺りには割と住人がいるので、バスの本数も日に一本と多い。
来たバスで夜を過ごして、気が付くとバスは動き出していた。前の座席で、アッシャはやっぱり寝息を立てていた。
僕は眠れなかった。
目の前でバスが炎上するのを見たんだ。またあるかもと思って、ちょっと怖くて眠れない。
それを思うと、こうやって寝れるアッシャってすごいのかもしれない。
一度途中の町で休憩した後、夕方にはもう、チェルフィに着く。
ただ、そこからカスリナヘナに向かうには、違うバスに乗り換えなくてはならなかった。
アッシャが二人分のバス代を清算した後、僕が払おうとすると、
「だからいいって。その代わり、ここからちっと歩くんで、ヨロシク。」
「歩くって、どこまで?」
「えーと、次のバス停に行くまでの間にあるベスカって町なんだけど。」
え、また歩くの?




