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青大陸放浪記〜末弟の述懐  作者: たかなしコとり


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2/8

2 歩く


夜中じゅう、歩いた。

あんなに高いチケット買ったのに、まだ三分の一ぐらいの所で放り出されるなんて、ちょっと悔しい。納得できない。あのままあそこにいたら、代替のバスが来たんじゃないかな。


とは思うものの、追手に僕の居場所がバレたのかもしれないと思うと、あそこにとどまり続けるのは危険だった。

むしろ巻き添えを食ったお兄さんの方が、大迷惑だろうし。あと、死んじゃったドライバーのおじさんも。


明け方、灌木が固まって生えている所に体を突っ込んで眠る。

手持ちの水が無くなって、どうしようかなぁと思っていると、お兄さんが分けてくれた。クッキーも。

数時間寝て、昼近くになって目を覚ますと、お兄さんはまだ寝ていた。

いい天気なのに、出発しないのかな。

そう思っていると、遠くで飛行機の音。キィン、という音が近づいてくる。

低空飛行の飛行機が、すぐ上空を通過していった。


「探してんなぁ。」

お兄さんの声がした。

見ると、お兄さんの目が飛行機を追っていた。

「探してる?僕たちを?助けに来たんじゃない?」

「そうかもしれないけど、ハチの巣になる可能性も半分ある。」

ああ。

僕らの乗っていたバスを攻撃してきた飛行機。

もしかしてこの人も追われているのかな。

飛行機の音がすっかり聞こえなくなってから、やっと灌木から這い出してまた歩き始めた。


「もしかして、お兄さん、追われてるの?」

歩きながら聞いてみる。

「へへ。かもな。」

「何やったの。」

「なんもしてねぇんだけどな。いや、なんかしたから追われてるんかな。」

どっち?悪い人には見えないけど。

ザッコザッコと荒れ地を踏みしめて歩く。

足跡が残らないように、石や砂利の多い所を選んで歩いているんだろう、すごく歩きにくい。


「ほんとにこれで、方向あってるの?」

「たぶん。」

やだなぁ。

普段、車で移動するのに慣れているから、徒歩で長距離は足にくる。

休憩する時に足を揉んでいるけど、回復が追い付かない。

これで方向間違ってたらがっかりだけど、だからと言ってもう戻る気力もない。


その日、もうずいぶん夜が更けてから、やっとのことで何か小さな村にたどり着いた。

お兄さんは、村の中にある一軒の家のドアを叩いた。

「おーい。トーニャ。もう寝てんのかー?」

時間を置いてもう一回。すると三度目でようやく中から人が顔を出した。

「もう。何時だと思ってんの。この寸借詐欺師。」

女の人だった。びっくりする。

栗色の長い髪。ちょっと釣り目気味の目元が色っぽい。急いで着たらしいブラウスとスカートが、左に歪んでいた。


「よぅ。久しぶり。その寸借詐欺師はやめろって。人聞き悪いだろ~。」

「だって、返さないじゃないの。」

「あー返す返すって。はい、百ソル。」

ポケットを探って、紙幣を一枚渡す。

「そんでさ、お願い。ちょっと泊めてくんねぇ?ずっと歩いてきたんだよ~。」

「えー。」

トーニャは、ちょっと頬を膨らませたが、後ろにいる僕に気づいて、お兄さんをにらんだ。


「まさか誘拐?」

「違うって。バスでボロールまで行こうとしたら、アレックスの手前で爆発しちゃってさ。仕方ないからここまで一緒に歩いてきた。」

「爆発した?爆破されたの間違いなんじゃないの?」

「そうかも。」

「あきれた。」

トーニャは肩をそびやかすと、中に入るように促した。

「旦那が寝てるから、静かにね?あと、うちの子起こしたら、追い出すから。」


古いなじみだ、というだけで、お兄さんは詳しく説明しなかったし、僕も聞かなかった。

部屋の隅っこで毛布を借りて、そこから昼過ぎまでぐっすり眠った。

目が覚めたら、お兄さんはお昼ご飯を食べていた。シリアルに牛乳かけてすすっている。

「お前も食っとけよ。」

まるで自分ちみたい。

向こうで子供たちの相手をしていたトーニャも、あきれている。


「そんで?これからどうするのよ。」

「ベスカの町まで送ってくれねぇ?」

「遠っ。シェンカのとこ?」

「そーそー。」

「嘘でしょ。日帰りムリ。子連れの私にどうしろと?ムリムリ。」

「えー。そんじゃ、三百ソル貸して?」

「さっき百ソル返してきたとこでしょ?」

「だからさ。改めて金貸して?ドルマの町まで行けば、そこからチェルフィの町に行くバスに乗れる。あ、それとこれは百ソルの利子。」


お兄さんは、リュックの中からなんかいっぱいお菓子の袋を出した。薬の瓶っぽいものもある。

「ほんっとに、そう言う所が、気に食わないのよ。典型的な寸借詐欺師なんだから。」

トーニャはぶちぶち文句を言っていたが、結局折れた。

「ドルマだったら、二時間ぐらいでつくわ。そこまでなら送ってあげる。」

「ありがとう!さすが!頼りになる!」

「ちゃんと、三百ソル返してよ?」

「大丈夫!そこはちゃんとしてるから。まかせろ。」


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