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青大陸放浪記〜末弟の述懐  作者: たかなしコとり


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1/8

1 出会う


あの頃僕は、兄さん達とはぐれて、大陸の真ん中ら辺の街をウロウロしていた。

何しろ、待ち合わせにしている街まで行く手段が、週に一度しか便のない長距離バスしかなかったし、持ってるお金も少なかったし。

なんとか皿洗いなんかしながらお金を貯めて、それでバスが出る町までたどり着いたけど、バス代を払ったら、もう手持ちのお金はほぼゼロって感じだった。


バスでも三日がかりの旅なのに、水も食料もそんなに準備できなかった。

でも乗っていればいずれ待ち合わせの町に着くし、乗れただけましだと思って、そこは我慢することにした。

僕の他には、運転手のおじさんと、もう一人、兄さんと同じぐらいの年の男の人だけ。

旅慣れた感じで、でかいリュックに埃まみれの上着。くしゃくしゃの髪は、肩を過ぎて背中にかかるぐらい。一番後ろの座席でゴォゴォ寝ていた。


早朝、バスが発進すると、僕はホッとした。

僕らを追っている連中に見つかるんじゃないかと心配していた。バスが出てしまえば、とりあえずは大丈夫だろうと思って。

後はもう、ずっと退屈な荒野。

ツェリンの町からカスリナヘナまで、町に近いところは小麦畑だけど、後はずっと石ころだらけの荒野が続いている。


いくつか小さい町をかすめるように、たぶん六時間ぐらいは走ったと思う。途中、朝休憩に一度停まって、トイレに降りたぐらい。

お兄さんは水を買っていたけど、僕はお金がないので、持っている水を大事に飲むしかない。

昼休憩に停まった時も、お兄さんとドライバーのおじさんは降りたけど、僕は中で待っていた。


何枚かあるクッキーを大事に食べていると、

「お前、金ないのかよ。」

声がして、上からパンが降ってきた。

あわてて受け止める。あのお兄さんが、放って寄越したらしかった。

「あの、これ。」

「やるよ。せいぜい感謝して食ってくれ。」      

お兄さんはウインクしたみたいだったけど、前髪が長くて、あんまり分からなかった。


感謝して、チーズが挟んである丸パンを、ちまちま食べた。

ちょっとお腹が膨れたせいか、バスの振動のせいか、昼を過ぎると眠くなってきた。

ふと目が覚めた。


バスは舗装が割れたがたごと道を、なかなかの勢いでかっとばしている。時々大きな石を乗り越えるのか、がっこんと大きく揺れる。

なんだろう、何か気になる。

見回しても、何もない。窓の外も相変わらずの荒野。お兄さんも舟をこいでいる。

横に置いていたリュックを、そっと背負う。

ドライバーのおじさんは、鼻歌を歌っている。

なんだろう。なにか。蚊が飛ぶような音が遠くで聞こえる。


飛行機?

近付いてくる。明らかなエンジン音。早い。

と思ったら目の前をバルカン砲の雨が通り過ぎた。

ガガガガガガ!

「ふわっ」

お兄さんがシートから落ちた。おじさんが急ブレーキをかける。バスは制動に耐えられずにスピンする。

「降りろ!」

ドライバーのおじさんが叫んだ。その手にはサブマシンガンが握られている。バスから飛び降りたおじさんが空に向かってバリバリとサブマシンガンをぶっ放した。


「早く!こっちに!」

お兄さんに抱きかかえられるようにして外へ飛び出した。勢いで転ぶ。ずざざざざっという音に、ドーンという音がかぶさった。

バスが炎上した。熱風が顔をかすめる。でもお兄さんの背中がほとんど遮ってくれた。

破片が飛んでくる。


「危ねぇ~。」

お兄さんの声がした。一度は遠ざかった飛行機の音がまた近づいてくる。

バリバリバリバリバリバリ。バルカン砲の音がする。

「うは、やばい。」

お兄さんに抱き込まれるようにして、横飛びに飛ぶ。

そのまま去るかと思っていた飛行機がまた戻ってきた。バルカン砲の音が響く。

お兄さんの声がした。「こっちだ、早く!」

大きな破片と岩の間に隠れるようにもぐり込む。しばらく飛行機はぐるぐる旋回していたが、しばらくして遠ざかっていく音がした。


どれぐらい時間がたっただろう。

「ああ、どうすっかな。」

お兄さんの声がした。見るとバスは完全に真っ二つになって、その両方とも真っ黒に炎上していた。

ああ。

運転手のおじさんは・・・。たぶんダメだろう。ごめんなさい。


「ま、命があっただけ、めっけもんか。」

お兄さんがあっけらかんと言って、立ち上がった。バスの残骸から離れたところをウロウロするから何かと思ったら、自分の荷物を探していた。そっちも無事だったみたい。

「おい、行くぞ。」

「どこに?」

僕は聞いた。

荒野のど真ん中だ。

カスリナヘナへ行くのに、ここから何百キロあるんだろう。


「どこったって。ここにいたってどうしようもないだろう。どこか町までいかなきゃな。」

だけど、僕にはここがどこだかもわからない。お兄さんは空に光りだした星を見て、「あっちだ。」と指差した。

僕たちは夜が迫る中、おそらくバスの路線とは関係ない方に歩き出した。


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