魔法の銃
「ああ、そいつは洞窟蟹だな。洞窟を住処にする変わった魔物だよ。でもおかしいな、ケナの洞窟に魔物がいるなんて聞いた事がないぞ」
俺達は妖精の岩山のジンゴロさんの家にいた。
「でもいたんすよ・・・・妖精の岩山に魔法を使える人、それかあの蟹と戦える人っていませんかね?」
「う~ん、すまないがいないな。ワシたちの魔法はおまえさんと同じ旧式の魔法だし、おまえさんほど使える奴もいない。剣など使える者もいないしな」
「そうですか・・・・・」
「でも何とかなるかもしれんよ。昨日おまえさんから聞いた銃を参考にして、魔法を溜められる金属を作り直してみたんだ」
昨日の夜、ジンゴロさんに俺は自分の前世の事を妖精の森の長老様から聞いている話をした。
ジンゴロさんは俺の前世の加藤頼路の時代の科学に強い興味を持った。
加藤頼路は銃という武器を模したオモチャを集めている事も話した。ジンゴロさんはオモチャの銃ではなく本物の銃の方に興味持ち、俺に聞いてきた。俺は自分が知っている銃の知識をすべて話した。
ジンゴロさんは俺の話を元に魔法を溜められる金属を銃の形に加工していた。
「これ、本物の銃っぽいかな?」
ジンゴロさんはそういって、俺に手渡してくれた。
「俺も本物見た事ないんすよ。でも俺がイメージしてた銃のイメージはこういうやつでした」
握る部分があって、その上に銃身と呼ばれる細長い部分が乗ってあった。全体は白い艶のない金属だった。銃口は真四角だった。本物の銃は銃口が円だったけどその事をジンゴロさんには話していなかった。でも弾丸を発射するわけではないから、四角でも円でもそれほどかわらないだろう。
引き金は細い棒状で銃口まで伸びていて、引くと銃口に当たった。昨日見た白い金属の棒に黄色の金属を当てて魔法を出したけど、黄色の金属が引き金になっていた。銃口は魔法を出すための穴ではなく引き金となる黄色の金属が入るために開けてあった。中にバネが仕掛けてあって引き金は引けば自動的に元の位置に戻った。
「おお! これに魔法を溜めておけば、俺の旧式の魔法でもすぐに撃てる!」
「そうだろ? これならいけるんじゃないか?」
「う~ん・・・・多分ダメだよ・・・・俺の魔法にあの固い装甲を撃ち抜けるものはないんだ」
「そうか・・・・確かにあいつの装甲は強力だ。一般的に蟹は背中側が固くて腹側は柔らかい。でも洞窟蟹は陸上に適応したから腹側も背中側と同じように固い。海や川辺にいる蟹と違って立って歩くしな」
「うん、そうだね。俺が見た時も立ってた・・・・しかもスゲー速かった・・・・でも待てよ! 電の魔法を先に溜めて、次に炎の魔法溜めて、それを交互にいっぱい入れておけば・・・」
「いやそれは出来ない。魔法は数十発くらいは溜められるけど一種類しか溜めておけないんだ」
「ああ・・・・そうなんだ」
炎の魔法を数十発溜める事は出来るから炎の魔法を連射する事は出来る。でもそれで洞窟蟹を倒せるか?
あいつに炎の耐性があったらどうする? それにあいつだって黙ってやられっぱなしという事はないだろう。炎の魔法が効いたとしてもやけくそになって突っ込んできて俺の体のどこかをあのデカいハサミで挟んでくるかもしれない。そうなったら終わりだ。
打つ手なしか・・・・まいったな
「ねえ! ラーシリアの炎ならどうかな?」
俺の左肩に座っていたイヴマリアが足をブラブラさせて言った。
「「あ・・・・」」
俺とジンゴロさんは顔を見合わせた
俺達は外に出て、ラーシリアに事情を説明した。
ラーシリアが魔物を倒す時、いつも羽辺りから銀色の棒状の炎を出していた。銀色の棒状の炎を、魔法を溜める事が出来る金属に入れる事が出来るか試す事にした。
「銀色の棒状の炎か、長いな」
ジンゴロさんが言った。
「ラーシリア、この技に名前はある?」
「名前はない」
まあないよね。自分に名前がなかったのに技に名前があったら変だよね。
「短い呼び方を考えよう」
「銀炎の槍ってどう?」
イヴマリアが提案し、銀炎の槍に決った。
銀炎の槍は長さ五十センチ直径十センチの円柱状の銀色の炎で出来ていた。
銀炎の槍の成分はよくわからない。
炎の成分があるのは見た目からわかるし、木などに触れると燃える事からも間違いなく炎であるとは思うけれども、炎であるのにどういうわけか物を貫く力があった。
魔法を溜める事が出来る金属は、ラーシリアの銀炎の槍も溜める事が出来た。
でも銀炎の槍は威力が強すぎて六発しか溜める事が出来なかった。
ラーシリアは銀炎の槍の威力を変える事が出来た。でも最低レベルの銀塩の槍から一つレベルを上げただけで、一発しか溜める事が出来なかった。最低レベルで六発しか溜められなかった。
六発でもかなりギリギリらしく、銀炎の槍を溜めた直後は熱くてしばらくは持てなかった。
「この魔法を溜められる銃の名前は何にする?」
ジンゴロさんが言った。
「弾が六発か・・・・」
確か俺の前世の加藤頼路の世界に六発しか弾が入らない銃があったなあ。名前は確かリボルバー。
「じゃあ、フェニックス・リボルバーで」
弾となるものがラーシリアの銀炎の槍だからフェニックスは名前から外せないよね。
ジンゴロさんが、名前長くないか? という視線を送ってきた。俺は気づかないふりをした。
「ジンゴロさん、試し撃ちって出来るかな?」
「あ、ああ、出来るよ。裏に来てくれ」
魔法の撃ち方は大きく分けて二つあった。
掌から撃つ方法と指から撃つ方法だ。
指から撃つ場合の構えは、人差し指と中指を二本立て、薬指と小指を握る。親指を立て、親指にターゲットが重なるようにして、人差し指と中指から魔法を撃つというのが一般的だった。
「おまえさんの撃ち方独特だな」
「うん。でもこの方が良く当たるんだよ」
俺は魔法を指で撃つ方だったけど普通の人と角度が違っていた。
俺は、一般的な魔法の撃ち方の構えを、手の甲が上になるように横に倒した。親指にターゲットを合わせるのではなく、人差し指と中指の拳の部分のくぼみにターゲットを合わせた。拳の部分のくぼみは人差し指と中指を第三間接から少し曲げる事で出来る。
こうする事でターゲットに照準を合わせていてもターゲットが隠れる事がなかった。一般的なやり方よりもこっちの方が俺には狙いやすく命中率も高かった。
俺は妖精の森では魔法の命中力が一番だった。
止まっている的でも動いている的でも俺より当てられる妖精はいなかった。俺があまりに命中させるものだから、俺の撃ち方を妖精の森の皆が真似をするようになった。
だからイヴマリアも俺と同じく手を横に倒して魔法を撃つ。ちなみに俺の撃ち方を一番早く真似したのはイヴマリアだった。
フェニックスリボルバーの試し撃ちをしてみる事にした。
二十メートルほどの離れた所に棒を立てた。棒の先には十センチ四方の板をつけ、墨で円と十字を書いた。
フェニックスリボルバーも魔法を撃つ時と同じように手の甲を上にして構えた。
いつも魔法を撃つように標的を真ん中でとらえては駄目だった。
魔法は俺の人差し指と中指から出るけど、フェニックスリボルバーは銃口から出る。フェニックスリボルバーを握っているからその分、魔法の出所がいつもより左にズレる。だから俺はフェニックスリボルバー少し右にズラして標的を狙った。
「じゃあ、撃つね」
俺は引き金を引いた。
撃った時、ボゥっという炎が風であおられた時の音がした。衝撃は全くなかった。
銀炎の槍は木の板の真ん中より少し左に当たった。もう少し、ほんの数ミリ、フェニックスリボルバーの銃口を標的より右にズラせば次は真ん中に当たるだろう。
しかし威力がすごかった。
木の板の真ん中に当たらなかったのに、木の板を丸ごと消滅させた。それだけでなく、木の板の数メートル後ろにあった一メートルくらいの厚さの大岩をも貫いていた。
「おお・・・・すげぇぇ・・・」
「確かにすごいな・・・・この威力ならあの洞窟蟹の装甲がいくら硬くても貫く事ができるだろう」
そうだよ、簡単だよ。ていうか当たりさえすればどんな奴でも一撃で倒せるよ。
俺はラーシリアが今まで戦った姿を思い出した。どんな大きな魔物でも銀炎の炎一発で倒していた。
直径十センチ、長さ五十センチの極太の円柱状の炎が体を貫いていったらどんな奴でも立ってはいられないよ。手足だけだと倒せないだろうけど。
「でもさ、洞窟蟹一匹とは限らないんじゃないの? 他にもいるんじゃないの?」
イヴマリアが不安そうに言った。
「大丈夫だ。洞窟蟹は群れない。一匹狼なんだ・・・・蟹だけど」
「他に魔物とかいないよね?」
「あんな奴がいるんだ。他に魔物がいるはずないさ。さっきも言ったけど、そもそもケナの洞窟に魔物がいたって聞いた事がない」
俺達は再びケナの洞窟に向かった。