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ケナの洞窟

 ケナの洞窟はハルホトの町から東に行った所にあった。

 洞窟の右側に小さな山があって昔は炭鉱だったそうだ。

 炭鉱とケナの洞窟は中でつながっているらしいけど、随分前に炭鉱は閉山していて、人もいなければ魔物もいないそうだ。

 魔物はいないけど念のためにラーシリア(ラーさん)にも洞窟について来て欲しかった。でも出来なかった。

 ラーシリア(ラーさん)は炎で出来ているため洞窟内の酸素を使ってしまうのだそうだ。そうなると俺もイヴマリア(師匠)も酸欠を起こして死んでしまう。

 ラーシリア(ラーさん)の炎は一般的な炎成分だけでなく霊的な成分もあるそうで、ラーシリア(ラーさん)は酸素がなくなっても燃え続ける事が出来るそうだ。

 洞窟の中は暗く、たいまつの灯りがなければ先が見えなかった。

 たいまつはオカリナの作者のおじいさんから借りた。

 オカリナの原料の土の有かも聞いていた。洞窟の構造は単純で道が曲がりくねったりしている所もあるけど基本的には一本道だった。

 洞窟内は足元がボコボコしていて歩きにくかった。

「ねえ、ミカネル(ミカ)

 俺の左肩に座っているイヴマリア(師匠)が言った。

「何?」

ラーシリア(ラーさん)の、フェニックスの事知ってる?」

「フェニックスの事って、フェニックスの生態って事?」

「うん」

「知らない」

「ここに来る前に私長老様に聞いたんだけどさ」

「うん」

「すっごい変わってるんだよね」

「何が?」

「あのね、フェニックスってみんな一霊のフェニックスから産まれるんだって」

 一霊とは精霊の数え方だ。フェニックスは鳥ではなく精霊なので一羽ではなく一霊と数える。

「でね、その一霊のフェニックスの事をマザーフェニックスって呼ぶの。マザーフェニックスから産まれた子供はみんな次のマザーフェニックスになろうとするんだって」

「どうやったらマザーフェニックスになれるの?」

「兄弟同士で戦い合うんだって。それで最後の一霊になるとその人がマザーフェニックスに変化するんだって」

「ふ~ん」

「それでね、その後太陽まで飛んで行って、太陽の中でちょっと眠って、また地球にやって来て、子を数霊産むんだって。何万年も前からそうやってきたんだってさ」

「兄弟で戦い合うか・・・・」

 俺がフェニックスだったら二人の兄さんのどっちかに瞬殺されただろうなあ。良かったフェニックスじゃなくて。

「でも兄弟で戦い合うのは悲しいね」

「そうね・・・・悲しいね」

「でもさ、どうやって他の兄弟を探すんだろう? ラーシリア(ラーさん)は大きいけどさ、世界は広いよね」

 ラーシリア(ラーさん)は羽を横に広げると四メートルはあった。

 俺達から見たら大分大きいけど地球から見たら微々たるものだ。

「何かね、物心ついて時くらいから大まかにわかるんだって。兄弟の位置が。でね、大きくなって力をつけたら戦い合うんだって」

「力をつけるってどうやって?」

「太陽の光を浴びるんだって。太陽に近ければ近いほど、つまり高度が高ければ高いほど光は強くなるからフェニックスは強くなるって。これはねラーシリア(ラーさん)から聞いたの」

「・・・・でもラーシリア(ラーさん)見てるとそんな気がしないね」

「そうね。高い所にいないものね。妖精の岩山(アズロック)に来る前も長老様に人間の事を熱心に聞いてたもの」

「人間の事を?」

「うん。面白いんだって。人間がどうやって文明を発展させてきたかとか、なぜ生きる事に関係のない不必要な事をするのかって」

「ああ、そういえばそんな事俺も聞かれたなあ」

「ふ~ん 何て聞か・・・ちょ!」

 俺が急に立ち止まったので、俺の左肩に座っていたイヴマリア(師匠)が前のめりになって落ちそうになった。

「ちょっとミカネル(ミカ)! いきなり・・・」

イヴマリア(師匠)! シッ!」と言って、俺はたいまつで前方を照らした。

 目の前に猪ほどのサイズのデカい蟹がいた。

「蟹だね・・・」

「蟹ね・・・」

 蟹は振り向いて俺達に気づくと、横向きになっていきなり俺たちに突進してきた。

 俺はたいまつを手前にかざしたけど、デカい蟹はひるまなかった。そしてパイナップルを一撃で粉砕出来そうなデカいハサミで俺を挟もうとした。

 俺は咄嗟に後ろに飛んでかわした。

 バチン、という大きな音が洞窟に響いた。

 挟まれなくてもその威力がわかった。パイナップル所じゃない。腕、足、頭、どこを挟まれても一発で終るというのを確信できた。

イヴマリア(師匠)! 逃げよ!」

「うん!」

 俺達は来た道を猛ダッシュした。

 途中、九十度に折れ曲がった道があり、そこで蟹を巻くことが出来た。

 蟹は直線的な動きは早かったけど、カーブには弱いようだった。カーブを曲がりきれずにドシーンという大きな音を立てて壁に激突していた。

 洞窟から無事脱出する事が出来た。

「ハア、ハア・・・・洞窟に魔物はいないって言ってたよね?」

 俺は肩で呼吸しながら言った。

「うん! おじいちゃんそう言ってたよ!」

「どうしたんだ?」

 外で待機していたラーシリア(ラーさん)が不思議そうな顔で尋ねてきた。

「ハア、ハア・・・実は・・・・」

 俺は洞窟内で起きた事を説明した。

 洞窟の入り口をさっきから見ているけど蟹が俺達を追って来る気配はなかった。出てくればラーシリア(ラーさん)に仕留めてもらうのに・・・・

「でも、まいったなあ・・・・」

 ラーシリア(ラーさん)を洞窟の中には入れさせられない。かといって俺の旧式の魔法では駄目だろう。魔法を発動寸前にして蟹の所までは行けるけど、一撃で仕留める自信はなかった。

 一撃で仕留められなければ、あのハサミで逆に俺が仕留められるだろう。

 電の魔法で麻痺出来れば炎の魔法を連続で使って仕留められないか? いや雷の魔法が確実に利くという保障はどこにもない。効かなかったり、(はず)した日にはやはり終わりだ。これが実戦経験のなさか・・・・ 似たような蟹と戦った事があれば弱点とかわかっていたりして応用が利かせられるんだ。

 俺達は妖精の岩山(アズロック)に一旦帰る事にした。


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