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ハルホトの町

 ジンゴロさんの家は高さ四メートルほどの丸い岩をくりぬいた家だった。

「さあ、入ってくれ、汚い所だけど。今水を持ってくるよ」

 ジンゴロさんは妖精の岩山(アズロック)の鍛冶屋的存在でもあったけど、自称発明家でもあった。

 家の中にはジンゴロさんが発明した物が所狭しと並べられていた。

「最近合金作りにハマっててね。金属は面白い! 違う金属を合わせると強く出来ればしなやかにも出来る! 最近作ったのはこれさ」

と言って俺に三十センチほどの白い棒状の金属を手渡した。太さは人差し指ほどあった。

「何です、これ?」

「こいつはただの白い金属じゃない。魔法を溜める事が出来る金属なんだ」

「どうやって溜めるんですか?」

「この金属を握って魔法をそのまま発動させれば良いのさ。あんた魔法使えるんだよな。試しにやってごらん。金属から手を離さず触れ続けてないと駄目だよ」

「わかりました。でも俺の魔法は旧式だから遅いすよ」

「旧式? 何だそれ?」

 俺はジンゴロさんに旧式の魔法と今の魔法の説明をした。ジンゴロさんも今の魔法は知らなかった。

 俺は白い金属に人差し指と中指を当てて魔法を使った。

 水の魔法にした。この距離で撃った事はないけど、もし撃ったら白い金属が水流で濡れて床もビシャビシャになるだろう。でも水流は白い金属に吸い込まれるようにして消えた。

「おお!」

「あ! 今見えたよ! 水が吸い込まれたよね!」

 イヴマリア(師匠)が俺の左肩に両手をついて白い金属をマジマジと見て言った。

「この溜まった魔法はどうなるんですか?」

「この前出来たばかりでどのくらいもつかはまだわからんが、一日前に溜めた魔法は次の日でも出す事が出来たよ」

「どうやって取り出すんですか?」

「それはこの金属を使うのさ」

 ジンゴロさんが黄色い金属を棚から取り出した。

 さっきの白い金属と同じような長さと太さの棒状の物だった。

 ジンゴロさんは俺から白い金属受け取るとその先端に、黄色い金属で触れた。すると俺の水の魔法が飛び出てきた。

「おお! すごい!」

「魔法よ! さっきの!」

 魔法は威力もそのまま再現されていた。

 俺とイヴマリア(師匠)が驚いたらジンゴロさんが誇らしげな顔をした。

 でも水の魔法が出た先にはジンゴロさんの上着がかけてあったのでビショ濡れになってしまった。

「ああ! やっちまった!」

 ジンゴロさんは発明の事になると少し周りの事が見えなくなるようだった。

 俺達は水を飲みながらこれまでの経緯を話した。

 この日はジンゴロさんの家に泊めてもらった。



 妖精の岩山(アズロック)から出発して、草原を歩いていると、目の前を蝶が横切った。

 子供の手の平くらいの小さな蝶だった。イヴマリア(師匠)も気づいたようだった。

「あ! チョウチョ! やだぁ~ どうしよう~」

 イヴマリア(師匠)は困惑した表情でキョロキョロと周りを見渡した。

 イヴマリア(師匠)は花の妖精なので、ほのかに甘い良い香りがする。それに蝶がひきつけられてやってくる時があった。

 イヴマリア(師匠)は甘い匂いを放つけど、花のように蜜はなかった。蝶がやってきてイヴマリア(師匠)を吸おうとするのだけどイヴマリア(師匠)から蜜は出ない。何度かトライするがやはり出ない。すると蝶は、おかしな花だな、みたいな顔をして去って行く。

 それがイヴマリア(師匠)には面白くなかった。

 でも蝶に悪気がないのもわかっていたから怒る気にはなれず、かといってガッカリされるというのは嫌な気分になるので蝶を見かけると姿を隠すか逃げた。イヴマリア(師匠)だけでなく花の妖精は大体皆同じように対応した。

「あ!」

 イヴマリア(師匠)は俺の背中にあるフードの中に入った。

 そして中から閉じた。

 俺は蝶を手で触れないように払いながら急ぎ足で通り過ぎた。

 振り返ると蝶が「何だよー」と言っているような感じがした。

「もう大丈夫だよ、イヴマリア(師匠)

「ふー」といってイヴマリア(師匠)はフードから顔を出した。

「ここ、良いわね。知らなかったぁ~」

 イヴマリア(師匠)はフードを触りながら言った。

 これ以後俺のフードは、蝶が現れた時の避難場所になった。それだけでなく、イヴマリア(師匠)が飛ぶのに疲れた時の休憩や仮眠場所となった。



 ハルホトはこの辺りでは大きめな町で、俺が生まれ育った町の三倍くらい大きかった。

 当然人も多く、町の大通りは人であふれていた。

 俺は大通りを前にして一歩を踏み出せないでいた。

 ついこの間のギルドの出来事が思い出されて、町を行き交う人達が全員嫌な人間に思えた。まだ何もしていないけど帰りたくなっていた。

「どうしたの? ミカネル(ミカ)?」

 イヴマリア(師匠)がフードから出て、俺の左肩に乗って言った。

「何かさ、町に入るの気が引けるな~って思って」

 フェニックスさんは町の外の上空で待機してもらっていた。

「この前みたく嫌な事があったらどうしようって?」

「うん・・・・」

「大丈夫よ」

「何で?」

「私がついてるじゃない」

 イヴマリア(師匠)は俺よりずっと体が小さいけど、俺より怖がりではなかった。

 さっきまでいた妖精の岩山(アズロック)も、そこまでの道のりも、初めての場所だった。妖精の森を出た事が今までなかった。

 俺は知らない場所に不安を感じるけどイヴマリア(師匠)は不安に感じていないようだった。

 蝶は苦手であって恐れてはいなかった。

「まずフェニックスさんの金塊をお金にかえるでしょ~ 次に笛買うでしょ~ それだけじゃない。簡単よ」

 イヴマリア(師匠)が俺の肩をポンポンと叩いた。

 不思議と簡単に思えた。

 そしたら勇気もわいてきた。

「そうだね。行こう・・・・あ、でもイヴマリア(師匠)はフードの中に隠れてて。人目を集めたくないんだ。妖精は珍しいから」

「オーケー」

 イヴマリア(師匠)はフードの中に入った。


 俺はフェニックスさんから預かった金塊を通貨にかえた。

 そこでオカリナが売っている楽器屋がどこにあるか聞いた。

 楽器屋はそれらしい看板が出ていたのですぐに見つける事ができた。オカリナや木琴をかたどった木製で出来た看板だった。

 店に入るとカウンターに店主らしい中年の人と、人の良さそうな老人が話していた。

 俺は店内にオカリナがないか探してまわった。見つければそれを手に取り、金を払って出るつもりだった。

 でも、オカリナを見つける事が出来なかったのでしょうがなくカウンターにいる店主らしい人に話しかけた。

「あのう、すいません。ハルホトのオカリナってありますかね?」

「ああ、あるよ」

 そういうと店主はカウンターの中でしゃがんだ。

 ガサゴソと音をたてて、「ほら、これだよ」といってカウンターに乗せた。

 店内にはないわけだ。

「これをください」

 俺は金を支払った。

「最後の一つだから大事にしておくれよ」

 カウンターの横にいた人の良さそうなおじいさんが足をひきずりながら言った。

「この人はね、そのオカリナを作った作者なんだ」

 店主が言った。

「そうなんですか?」

「ああ、昔は毎月作ってたんだ。窯はこの店の反対側にあるワシの家にある・・・・もう歳でね。この前引退したんだ。で、それが最後に焼いたやつなんだ」

 オカリナは陶器で出来ていた。

 落としたらすぐに割れるだろう。

「わかりました。大事にします」

 俺がそう言うとオカリナの作者のおじいさんは嬉しそうに笑った。

 ああ、この人は良い人だな・・・・そうだよ、この世にはギルドで会った嫌な奴らばかりなんかじゃないさ。

 ヒバさんの言っていた通り、オカリナを買いに来て良かったとこの時は思った。

 店を出て晴れやかな気分になっていた。後は帰るだけだ。

 怪しい人影が俺の後をつけてきているのを、俺は全く気づいていなかった。

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