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ハルホトの町

 昨晩はジンゴロさんの家に泊めてもらった。

 ジンゴロさんと談笑しながら妖精の岩山(アズロック)の出口に向かっていると、

「ヒィィィ! 人間! ワタシを誘拐しにきたァァァァ!」

と甲高い声で叫ぶ妖精がいた。

 うっすらと紫がかった魔法水晶の妖精だった。

 人型で、水晶の胴体に同じく水晶の手足が魔力でくっついていた。

「メラクル、彼はそんな事しないよ。彼はミカネル、それとイヴマリアだよ」

 ジンゴロさんは俺達に向き直ると、「彼は魔法水晶のメラクル」と言った。

「ウソよォォォォ! そういってワタシを誘拐するつもりなのよォォォォ!」

 身長は三十センチくらいしかないのだけど声量が信じられないくらい大きかった。甲高い声が岩山に鳴り響いている。魔法水晶の甲高い声は耳障りだった。

「何この妖精(ひと)?」

 イヴマリア(師匠)が不愉快そうな顔で言った。

「この人は、ちょっとね・・・・魔法水晶は魔力を帯びた珍しい水晶だけど、モロいのが弱点でね。彼の右肩少し削れてるだろう? つまづいて転んだだけで削れちゃうんだよ。だから魔法水晶には生まれつきビビリな人が多いんだけど、彼はその中でも特別ビビリなんだ・・・まあ、一度人間に誘拐されかけた事があって、しょうがないんだけど・・・・気にしないでくれ」

「来ないでェェ! 来ないでェェェェ!」

「そこ通らないと出口に行けないから! 通るだけだから!」

 イヴマリア(師匠)がそろそろ怒りそうだなと思っていたら、案の定感情に火がついたようだった。

「ちょっと、あなた! さっきからうるさいんだけど! そこ通るだけじゃない!」

 イヴマリア(師匠)が指差して言った。

「ヒィィィ! そうやってワタシを油断させようってんでしょォォォ! あんた達の考えそうな事はお見通しなんだからぁぁぁぁ!」

「だから、メラクル! 花の妖精も一緒にいるじゃないか! 誰もあんたに危害をくえたりしないよ! それにもう出て行く所なんだ!」

 ジンゴロさんがなだめるように言った。

「ウソよォォォォ! 花の妖精と組んでワタシを誘拐しにきたのよォォォォ! 皆ぁぁぁ! 騙されないでェェェェ!」

 メラクルは甲高い声を上げて周りの岩の妖精達に猛アピールしていた。でも周りにいた岩の妖精たちは見向きもしなかった。それ所かうんざりしているような顔をしていた。

 後でジンゴロさんから聞いたんだけど、メラクルは妖精の岩山(アズロック)の妖精達に普段から良く思われていないのだそうだ。

 岩の妖精は勇気ある者が好きだった。

 勇気を試す成人の儀式みたいなものもあった。だからビビリを極めたようなメラクルは完全に浮いていた。

「本当うるさいわね! あなたみたいなうるさい人一緒に連れて行くわけないでしょ!」

「あんたの目がワタシを狙ってるう! 野獣の目でワタシを見てるゥゥゥ! ワタシにはわかってるうゥゥゥゥゥ!」

「そんなわけないでしょ! あなたみたいな・・・・もう~~~怒っちゃったんだから!」

 イヴマリア(師匠)が魔法を撃つ構えをしたので、俺は慌ててイヴマリア(師匠)の手を押さえた。

「ダ、ダメだよ、イヴマリア(師匠)! こんなとこで魔法使ったら!」

「ちょ、離しなさい! ミカネル(ミカ)! 邪魔しないの!」

「ヒィィィ! ついに尻尾出したわよォォォォォ! 皆見てェェェ! 見てェェェェ! 襲われてるゥゥゥゥ! ワタシ、襲われてるゥゥゥゥ!」

 メラクルはここぞとばかりにわめき散らした。

「だぁかぁらぁ! 誰も・・・・」

 イヴマリア(師匠)の怒りがピークに達しようとした時、

「ヒ! ヒィィィ! ム、ムシィィィィィィィィィィー! 来ないでェェェェ!」

 メラクルがさっきよりも大きな声で絶叫した。

 メラクルの目の前に三センチほどの小さなムカデがいた。

 ムカデは特にメラクルに近づく事なく、俺らと一緒でメラクル前を横切ろうとしているだけなのだけど、メラクルは一人で大騒ぎしていた。

 もう俺達の事はどうでもよく、ムカデ以外目に入っていなかった。

「メラクルは虫が大の苦手なんだ。噛まれる事なんてないんだけどな」

 ジンゴロさんがため息まじりに言った。

「ヒィィィィィィィ! ムシィィィィィィー! 来ないでェェェェェ!」

 この言葉をただただ繰り返していた。

「変な妖精(ひと)・・・・」

 イヴマリア(師匠)は呆れた顔で言った。

 俺達はわめきちらすメラクルを放って妖精の岩山(アズロック)の出口まで行った。

「じゃあな、ミカネル、イヴマリア、また近くまで来たら寄っておくれ」

「どうも、お世話になりました。ジンゴロさん」

「ジンゴロさん、バイバイ!」

 俺とイヴマリア(師匠)はジンゴロさんに手を振って妖精の岩山(アズロック)を後にした。



 妖精の岩山(アズロック)から出発して、草原を歩いていると、目の前を蝶が横切った。

 子供の手の平くらいの小さな蝶だった。イヴマリア(師匠)も気づいたようだった。

「あ! チョウチョ! やだぁ~ どうしよう~」

 イヴマリア(師匠)は困惑した表情でキョロキョロと周りを見渡した。

 イヴマリア(師匠)は花の妖精なので、ほのかに甘い良い香りがする。それに蝶がひきつけられてやってくる時があった。

 イヴマリア(師匠)は甘い匂いを放つけど、花のように蜜はなかった。蝶がやってきてイヴマリア(師匠)を吸おうとするのだけどイヴマリア(師匠)から蜜は出ない。何度かトライするがやはり出ない。すると蝶は、おかしな花だな、みたいな顔をして去って行く。

 それがイヴマリア(師匠)には面白くなかった。

 でも蝶に悪気がないのもわかっていたから怒る気にはなれず、かといってガッカリされるというのは嫌な気分になるので蝶を見かけると姿を隠すか逃げた。イヴマリア(師匠)だけでなく花の妖精は大体皆同じように対応した。

「あ!」

 イヴマリア(師匠)は俺の背中にあるフードの中に入った。

 そして中から閉じた。

 俺は蝶を手で触れないように払いながら急ぎ足で通り過ぎた。

 振り返ると蝶が「何だよー」と言っているような感じがした。

「もう大丈夫だよ、イヴマリア(師匠)

「ふー」といってイヴマリア(師匠)はフードから顔を出した。

「ここ、良いわね。知らなかったぁ~」

 イヴマリア(師匠)はフードを触りながら言った。

 これ以後俺のフードは、蝶が現れた時の避難場所になった。それだけでなく、イヴマリア(師匠)が飛ぶのに疲れた時の休憩や仮眠場所となった。


 ハルホトはこの辺りでは大きい町で、俺が生まれ育った町の三倍くらい大きかった。

 当然人も多く、町の大通りは人であふれていた。

 俺は大通りを前にして先に進むのをためらっていた。

 ついこの間のギルドの出来事が思い出されて、町を行き交う人達が全員嫌な人間に思えた。まだ何もしていないけど帰りたくなっていた。

「どうしたの? ミカネル(ミカ)?」

 イヴマリア(師匠)がフードから出て、俺の左肩に乗って言った。

「何かさ、町に入るの気が引けるな~って思って」

 フェニックスさんは町の外の上空で待機してもらっていた。

「この前みたく嫌な事があったらどうしようって?」

「うん・・・・」

「大丈夫よ」

「何で?」

「私がついてるじゃない」

 イヴマリア(師匠)は俺よりずっと体が小さいけど、俺より怖がりではなかった。

 さっきまでいた妖精の岩山(アズロック)も、そこまでの道のりも、イヴマリア(師匠)は初めての場所だった。妖精の森を出た事が今までなかった。

 俺は知らない場所に不安を感じるけどイヴマリア(師匠)は不安を感じていないようだった。

 蝶は苦手であって恐れてはいなかった。

「まずフェニックスさんの金塊をお金にかえるでしょ~ 次に笛買うでしょ~ それだけじゃない。簡単よ」

 イヴマリア(師匠)が俺の肩をポンポンと触れた。

 不思議と簡単に思えた。

 それにイヴマリア(師匠)がいるのが心強く思えた。

「そうだね。行こう・・・・あ、でもイヴマリア(師匠)はフードの中に隠れてて。人目を集めたくないんだ。妖精は珍しいから」

「オーケー」

 イヴマリア(師匠)はフードの中に入った。


 俺はフェニックスさんから預かった金塊を通貨にかえた。

 そこでオカリナが売っている楽器屋がどこにあるか聞いた。

 楽器屋はそれらしい看板が出ていたのですぐに見つける事ができた。オカリナや木琴をかたどった木製で出来た看板だった。

 店に入るとカウンターに店主らしい中年の人と、人の良さそうな老人が話していた。

 俺は店内にオカリナがないか探してまわった。見つければそれを手に取り、金を払って出るつもりだった。

 でも、オカリナを見つける事が出来なかったのでしょうがなくカウンターにいる店主らしい人に話しかけた。

「あのう、すいません。ハルホトのオカリナってありますかね?」

「ああ、あるよ」

 そういうと店主はカウンターの中でしゃがんだ。

 ガサゴソと音をたてて、「ほら、これだよ」といってカウンターに乗せた。

 店内にはないわけだ。

「これをください」

 俺は金を支払った。

「最後の一つだから大事にしておくれよ」

 カウンターの横にいた人の良さそうなおじいさんが足をひきずりながら言って来た。

「この人はね、そのオカリナを作った作者なんだ」

 店主が言った。

「そうなんですか?」

「ああ、昔は毎月作ってたんだ。窯はこの店の反対側にあるワシの家にある・・・・もう歳でね。この前引退したんだ。で、それが最後に焼いたやつなんだ」

 オカリナは陶器で出来ていた。

 落としたらすぐに割れるだろう。

「わかりました。大事にします」

 俺がそう言うとオカリナの作者のおじいさんは嬉しそうに笑った。

 ああ、この人は良い人だな・・・・そうだよ、この世にはギルドで会った嫌な奴らばかりなんかじゃないさ。

 ヒバさんの言っていた通り、オカリナを買いに来て良かったとこの時は思った。

 店を出て晴れやかな気分になっていた。

 後は帰るだけだ。

 怪しい人影が俺の後をつけてきているのを、俺は全く気づいていなかった。

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