初めての感情
どうやら最初からヒナタを誘拐する事が目的で、今回の件は仕組まれていた、というのが皆で話し合って出た結論だった。
氷の特殊精霊は話の通じない相手ではなかった。
なぜ無差別に攻撃するような事をしたのかを説明してくれた。
精神を混乱させる魔法は人間には効くが我々精霊や妖精には通常は効かなかった。
だが氷の特殊精霊が、人間が不思議で不快な音を出した後に、人間の魔法使い複数人から魔法をかけられたと話した。その魔法がどうやら精神を混乱させる魔法だったようだ。
それからは目に見えるものすべてが敵に思えたそうだ。
人間が出した不思議で不快な音とは、氷の特殊精霊から聞いた形状や色などから、少し前ヒナタと見た黒いローブを着た人間が持っていた角笛と同じ物のようだった。
妖精の森の長老の話ではその角笛は悪魔系の魔物の角で作ったものだそうで、三つの角が絡まっていて吹くと不協和音がするのだそうだ。その笛の音を聞いたものはとても不快になるのだそうだ。
私とヒナタには少し不快な音としか聞こえなかったが、一部の魔物や精霊にはとてつもなく不快な気分にさせるそうで、氷の特殊精霊には特に効いたそうだ。
その状態でも精神を混乱させる魔法は精霊には効く確率は低いが、複数の魔法使いが矢継ぎ早に、しかも継続してかけ続ける事で氷の特殊精霊は混乱し、我を忘れて攻撃してしまったそうだ。
私達は今ロゼスザリアのゼシルの屋敷に来ていた。
この前、光の雫を取りに行く前夜に屋上で作戦会議をしたように、今はヒナタを救出するための作戦会議を開いてくれていた。
ヒナタを救出するためには、ヒナタの居場所を特定しなければならない。
フェニックスには兄弟を感知する能力があった。それを使えばヒナタのいる場所は大まかにわかるはずだった。
だから私は氷の特殊精霊との戦いに専念していたわけだが、戦いが終っていざヒナタを感じようとしても出来なかった。
ヒナタは箱に入れられて連れ去れさられたが、その箱に我々フェニックスが居場所を特定する電波のようなものを遮断する力があるのではないか、という仮説をリョウザが立てた。
ヒナタを誘拐した者達がフェニックス同士で居場所を感知している事を知っていたかどうかは不明だが、意図的でなかったにしてもあの箱にそういう力があると考えた方が自然だった。
妖精の森の長老に風の精霊を使って調べてもらったが黒いローブを着た者という情報だけでは多すぎて特定出来なかった。
ロゼスザリアは多くの人と情報が集まる、という事で我々はゼシル達の屋敷にいた。
「黒いローブだけだと私達もわからないわよ・・・・何か他に手がかりはないかしら?」
ゼシルがミカネルに真剣な顔で聞いた。
最初はミカネル達が会いに来てくれて喜んでいたが、そういう雰囲気でない事を知ると親身になって聞くようになった。
「パっとしか見てなかったからね・・・・後さっきも話した悪魔の角笛くらいかな」
「その笛がどこで売られていて希少なものであればわかるかもしれない。でもその黒いローブの人が自分で作ったらおてあげだけど。一応調べてみましょう」
「そういえばね、左胸に数字の8が三つならんだバッチを付けてたよ」
ミカネルの左肩に座って不安そうな顔をしているイヴマリアが言った。ヒナタを心配しているのだろう。
「それはスリーエイトだ」
リョウザが言った。
「スリーエイト?」
「金で何でもする危ない連中だよ」
「何でそんな奴らがヒナタを・・・・」
「わからない。でもスリーエイトが何かしらで関与しているのは間違いないだろう」
「リョウザ、皆さん、スリーエイトと悪魔の笛について今すぐ調べて頂戴」
「わかりました」
しばらくするとリョウザ達がスリーエイトと悪魔の笛の事を調べてくれた。
悪魔の笛については何もわからなかった。
ロゼスザリアの楽器店では存在すら知られていなかった。魔法使いはその知識はあったがどこで作られているかなどを知っているものはいなかった。
だがスリーエイトについてはすぐにわかった。
そしてヒナタのいそうな所も特定する事が出来た。
スリーエイトはいくつか拠点があるが、妖精の岩山から北東に行った所にジャハという町があり、妖精の岩山から一番近かった。
妖精の森の長老や水の精霊のリーネに風の精霊を使ってジャハを重点的に調べてもらった所、ジャハの近くにある小高い丘の上の立つ屋敷に黒いローブを着た一団が出入りしていて、窓から白くて大きな箱が見えたそうだ。ミカネル達が見たヒナタが入れられた箱も白くて大きい物だった。
我々はヒナタ救出のために出発する事にした。
ゼシルやジンゴロ達もついて行ってくれたが私達は断った。小数の方が目立たないから良かった。
スリーエイトは我々の存在を知っている。我々が向かっている事が知られればヒナタを移動させられる可能性もあった。私とミカネルとイヴマリアだけで行く事にした。
ミカネルはリョウザにフェニックスリボルバーのカートリッジに氷の魔法を入れてくれるように頼んでいた。
森や建物内での戦いに備えてだろう。
ヒナタが連れ去られた時、森の方に逃げられた為フェニックスリボルバーを撃てなかった。撃てば森を燃やしてしまうからだ。
スリーエイトの屋敷の中で戦う事になれば建物は燃えて、関係のない人間や自分達にも被害が及ぶかもしれなかった。
「ではとっておきの魔法を」
そういってリョウザは自身が使える最高の氷魔法を青いカートリッジに装填した。
私と手合わせした時に使った二メートルほどの大きな氷の槍、氷竜槍というそうだが、それを装填していた。
ミカネルはジンゴロにカートリッジを塗装して色分けしてもらっていた。
銀炎の槍と区別するためだった。リョウザが装填した氷竜槍は青、銀炎の槍のレベル1は灰色、銀炎の槍のレベル2は黒にしていた。
リョウザは竜になって氷結の波を最初装填するつもりだったのだが、威力が強すぎるからと言ってミカネルが断っていた。
「しかし、フェニックスリボルバーはラーシリア殿の炎だけではないんだな」
「そうなんですよ。手で直接触れさえすればどんな魔法でも装填出来るんですよ。俺の魔法はショボけど」
「では炎銃士の名前を変えないと」
「え? 何で、ですか?」
「君を呼ぶ時に困るから」
リョウザはミカネル事を炎銃将軍と呼ぶようになっていた。
将軍同士が呼び合う時、将軍の上に役職の文字をつけて呼ぶのが一般的なのだそうだ。
「魔法銃者で良いかな?」
「うん・・・・」
どっちでも良いけど、という顔をミカネルはしていた。
私達はゼシル達に見送られてロゼスザリアを後にした。
私はいつもの通りに飛び立ったのだが、そういえば、と思って私は飛ぶ速度を落として振り返った。
「どうしたの? ラーシリア?」
私が急に速度を落として振り返ったのでミカネルが不思議そうな顔をしていた。
「・・・・いや、何でもない。行こう」
私が振り返ったのはヒナタがちゃんとついて来ているかを見るためだった。
ヒナタはいつも私と一緒に飛びたがった。ヒナタは私よりも速度が遅いので私がいつも通り飛ぶと置き去りにしてしまっていた。だから私は飛ぶ速度を落とすようになったし、最初に振り返ってヒナタがちゃんとついて来れているかを確認するようになっていた。
ヒナタは今私の後ろではなく前方にいる。
ヒナタと出会う前の私と今の私は何かが違うようだった。
だがそれが何なのかはわからなかった。
ジャハは工業都市で多くの物を作り、それを他の町や国に売る事で栄えた町だった。
スリーエイトの拠点の一つはジャハの町から少し北にある小高い丘の上にある大きな屋敷だった。
「どうするラーシリア?」
「ヒナタの了承なしに身柄を拘束するというやり方から、ヒナタをさらった理由は邪なものだろう。だから遠慮するつもりはない。あの建物を破壊しながらヒナタを探すのが一番早いやり方だと思う。ヒナタはフェニックスだから私の攻撃が直撃しなければ死ぬ事はない」
「そうだね・・・・でも関係のない人が中にいるかもしれないよ。例えば雇われた部屋の掃除をする人とかさ。だからまずは話てみようよ」
「そうだな。わかった」
「あ、でもラーシリアも話し合いに参加したいよね? 俺が呼んでくるよ」
ミカネル達が建物に近づいて行った。
玄関のドアを叩いて「すいません!」とイヴマリアと二人で呼びかけていた。
ミカネルが桃色のフェニックスを探しに来たと言うと、中にいる奴等は弓や魔法で攻撃してきた。
「ラーシリア! あいつら話し合う気がないみたい! 好きに壊して良いよ!」
「わかった」
私は上空に飛んだ。
この建物は四階建てだった。
屋根を消し飛ばそうと思った。
ヒナタに当たらないようにするために銀炎の槍の威力を抑えて横幅を広くして屋根の一角を消し飛ばした。
上から部屋の中の様子が見えた。
この部屋にはいなかった。
同じ要領で私は屋根を次々に消し飛ばしていった。
窓からミカネル達を魔法で攻撃していた者達がいて、急に屋根がなくなった事と上空からの攻撃を予想していなかったのだろう、私を見て目を丸くしていた。身の危険を感じて急いで廊下を駆け下りて行く者もいた。
最上階にはヒナタはいなかったので、次のフロアも屋根と同じ要領で部屋ごと消し飛ばして行く事にした。屋根よりも部屋は面積が広いので銀炎の槍レベル2で消し飛ばす事にした。
この建物は四階建てだったので、同じ作業を後二回繰り返せばこの建物はなくなる事になる。それまでにはヒナタは見つかるだろう。
だが、屋敷の中の住人達が手を上げて全員出てきた。
「わかった! わかったから! もうやめてくれ! 捕まえたフェニックスは返す! だからもう家は壊さないでくれ!」
私は攻撃するのをやめた。
主犯格の男がミカネルに話しかけた。
「私はフェニックスの不死について解き明かし、人類に応用出来ないかと思っている! 崇高な理由なのだよ! なぜそれがわからない!」
「そのためにフェニックスの命を犠牲にしても良い事にはならないよ!」
ミカネルが言った。
「誰も命を奪おうとは言ってないだろう? ただ少し体を調べるだけだ」
「じゃあ何で最初からそう言わなかったの? さっきだって話し合いに応じようとしなかったじゃない! 嫌がるような事をするつもりだったんでしょ?」
イヴマリアが言うと男は顔を歪めて言葉をつまらせた。
「今すぐヒナタを返しないさい!」
イヴマリアが言った。
主犯格の男が合図すると数人の男達が家の中に入っていき、ヒナタの入っていた箱を持ってきた。
箱を開けるとヒナタが勢い良く飛び出てきた。
「うわあああああん!」
とヒナタは叫び声をあげた。
「ラーシリア! ラーシリア!」
ヒナタは私を見つけると真っ直ぐに私の元に飛んできた。
「怖かったよぅ! 暗くて怖かったよぅ!」
と叫んだ。
ヒナタの無事な姿を見て私は安堵した。
それと同時に聞いた事がないヒナタの声に、私は心がしぼられたような、妙な気持ちになった。
後でミカネルから聞いたが、これはかわいそうという憐れむ感情なのだそうだ。
「おい! 何をするんだ!」
ミカネルが屋敷にフェニックスリボルバーを撃ち込んでいた。
「あんたは俺の友達を傷つけたんだ」
イヴマリアもイヴランチャーを屋敷に撃ち込んだ。
「そうよ。ヒナタちゃんを泣かせたんだから!」
「これはあんたのためでもある」
ミカネルは悲しいような苦しいような顔で言った。
ミカネルは灰色のカートリッジを黒いカートリッジに取り替えた。
黒いカートリッジには銀炎の槍レベル2が装填されていた。レベル2はレベル1に比べて威力と速度が四倍だった。
ミカネルがフェニックスリボルバーを撃ち込むと、最初に大きな穴が開き、その後盛大に燃えた。
「私のため? 何を言ってるんだ! 家が! 研究が! 燃える~!」
屋敷は火に包まれていた。
主犯格の男は頭を抱えて、膝から崩れ落ちた。
ミカネルが最後に言った「これはあんたのためでもある」という意味は後になってからわかった。
泣いたヒナタを見て私は[かわいそうだ]という感情を初めて持った。そしてその感情はヒナタをそういう目に合わせた主犯格の男への怒りとなりつつあった。あの時ミカネルとイヴマリアが屋敷に攻撃しなければ私は怒りを主犯格の男にぶつけていただろう。
だがミカネル達が攻撃する事によって私の怒りはどこかに行ってしまった。
「こんな所にはもう用はないよね・・・皆、帰ろう」
ミカネルが言い、私達はそれに従った。




