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「ヒナタ、太陽に近づいて光を浴びよう」

「いい」

「なぜだ?」

「お花が見たいから」

「太陽の強い光を浴びないと大きく、強くなれないぞ」

「大きくも強くもならなくていい」

 我々フェニックスの体を大きく、強くするのは太陽だ。

 太陽がフェニックスを育てるとも言えるだろう。だから我々フェニックスは太陽に近づき、太陽の光や熱を浴びる。体を大きく強くしたければ太陽の近い所でずっと過ごせば良い。

 ヒナタと私は似ていた。

 私は地上に住む者、特に人間に興味があったので、それらを観察しに地上に近い位置で飛んだりたたずんだりする事が昔から多かった。ヒナタは花が好きだった。他の兄弟達はほとんどが空で過ごすが、私達は地上に近い位置にいる事の方が多かった。

 ヒナタは花を見る為に私よりも地上に近い位置にいる事が多かった。そしてこれまでほとんど上空に上がり太陽の日を浴びる事がなかったそうだ。

 だから私や今まで出会ったフェニックスに比べてヒナタは体が小さかった。ずっと花を見て過ごしていたそうだ。好きな花を見つけるとしばらくその花の近くいて、枯れるまで見続けるのだそうだ。

 太陽の日を浴びて体が大きくなったり炎の温度が上がると花に今よりも近づけなくなる、というのが嫌で太陽に近づかなかったそうだ。

 太陽は我々フェニックスを成長させるだけでなく、体や魔力も回復させる。

 太陽の下では我々はどんな攻撃を受けてもたちどころに回復する。攻撃する者がフェニックスであってもだ。そしてどれほど炎の攻撃を放ってもエネルギーが尽きる事がない。だからフェニックスの決闘は夜に行われる。太陽が出ていると勝負がつかないのだ。

 ヒナタは戦う事自体に興味がなかった。

 だから戦う術もなかったし知らなかった。私の銀炎の槍をみて、そういう事が出来るのかと驚いていた。だが真似をしようとか私にやり方を聞くという事もなかった。

 ヒナタは、以前は花さえ見ていれば満足だったが、今は隣に私がいてくれないと嫌になったそうだ。

 私は最初それが理解出来なかった。

 だが、しばらくヒナタと過ごすようになったら、私の隣にいて花を見て満足そうなヒナタを見る事で自分の何かが満たされていく感じがするようになった。

 私とヒナタが花を見ていると、後ろで妙な音がした。

 振り返ってみると、黒いローブを着た人間が二人立っていた。

 一人は奇妙な形をした角笛を吹いていた。フードで深く被っていて口元から出ている角笛しか見えなかった。紫色の三つの角が絡みあっている変わった形をした角笛だった。オカリナと違い、非常に不快な音を出していた。

「・・・はり、フェニックスには効かんか」

 隣にいた黒いローブを着た人間が言った。声から男であると思った。

 私が近づいて行くと男達は去って行った。

「あの人達、前にも見た事あるよ。前もね、さっきみたいにあれ吹いてた」

「・・・・それだけ?」

「うん、それだけ」

 この時、彼らの目的が何なのか全く検討もつかなかった。



 私達は妖精の岩山(アズロック)にいた。

 妖精の岩山(アズロック)に咲く花をヒナタが見たいと言ったので、ミカネルやイヴマリアと共にやって来ていた。

 妖精の岩山(アズロック)までの道中でヒナタは花を見つけるたびに止まって鑑賞していたので、妖精の岩山(アズロック)着く頃には辺りは暗くなっていた。

「ん?」

「どうしたの? ラーシリア(ラーさん)

 ミカネルが私を見上げて言った。

「わからない。向こうから何かがやってくる」

 私は上空に上がった。

 不快な音、動物の叫び声と激しい足音、木々が折れる音、それらが混じって徐々にこちらに近づいて来ていた。

 混沌としていた。

 そして混沌の中心には、ミカネルの前世の時代にあった超高層ビルくらいの大きさの物が浮いていた。

「あれは・・・・氷か?」

 超高層ビルのようなものは巨大な氷の塊だった。

 巨大な氷の塊は、地上の生物や飛んでいる鳥などに人の大きさくらいの氷の塊で攻撃していた。

 私はミカネル達に見た様子を説明した。

「あれは多分、氷の特殊精霊だ。長老から前に聞いた事がある。我々火の特殊精霊が絶え間なく燃えているように、氷の特殊精霊は凍った状態を保ち続けるのだと。どんな環境下でも氷は溶ける事がないそうだ」

「その氷の特殊精霊がどうして動物達に攻撃してるの?」

 イヴマリアが理解出来ないという顔をしいた。

「わからない。だがこちらに向かって来ている」

「こっちはまずいよ。妖精の岩山(アズロック)にはジンゴロさんや他の妖精達が・・・・動物達に見境なく攻撃って、氷の特殊精霊って皆そうなの?」

「わからない。とにかく接触してみよう」

 私は氷の特殊精霊に近づいて行った。

「そこで止まれ、氷の特殊精霊よ。この先は私の友人達の領域だ。それと見境なく動物達に攻撃する事もやめるのだ」

 氷の特殊精霊の体がボンヤリと光ると、子悪露の特殊精霊の体から全長三メートルほどのゴツゴツとした氷の塊が私に向かって飛んで来た。

 私の要請への氷の特殊精霊の答えだった。

 氷の塊は私を貫通して行った。

 何かが私の身体を貫通しても私がダメージを受ける事はない。いつもの事だと思っていたが、貫通する瞬間、私は痛みを強く感じた。

「今の感覚は・・・・」

 兄弟達と喧嘩をした時の感覚とよく似ていた。

 これまで魔法の氷はどんなものでも何も感じなかった。以前竜になった時のリョウザの強力な氷の波動も私にダメージを与える事は出来なかった。だが、この氷の特殊精霊の攻撃だけは違っていた。

 氷の特殊精霊の攻撃には我々フェニックスの炎と同じく精霊にダメージを与える事が出来る霊的な要素があるようだった。

 私は銀炎の槍を氷の特殊精霊に撃った。

 だが銀炎の槍は上空に弾き返された。

 銀炎の槍は貫く能力がある。かわされた事はあったが弾き返された事は初めての事だった。

 しかし、氷の特殊精霊は「アア・・・」という声を上げた。

 銀炎の槍は弾き飛ばされはしたが、私がさっきの氷の特殊精霊の攻撃でダメージを受けたように氷の特殊精霊もダメージを受けたようだった。

「止まらなければ更に攻撃する」

 氷の特殊精霊は何も言わなかったが止まろうともしなかった。

「では実力で止めよう」

 銀炎の槍のレベル2で攻撃しようとも思ったが、さっきのように弾き返されて上空に行けば良いが地面に弾き返されたらミカネル達に被害が及ぶと思ったので、私は近距離攻撃を仕掛ける事にした。

 氷の特殊精霊は大きい上に動きも遅かったので、私はすぐに間合いに入って羽の斬撃をあびせる事が出来た。

 何度か羽で斬ったが氷の特殊精霊の体には傷一つつかなかった。

 だが「ギャアアアア」というさっきよりも大きな声を上げた。

 私の羽での斬撃を銀炎の刃と呼んだ。名づけたのはミカネルだ。

 私が再び銀炎の刃で斬りかかろうとしたら、目の前から無数の氷のトゲが現れて、私の体を貫いた。

「ムゥ・・・・」

 貫かれた部分に痛みを感じた。

 無数のトゲは速かったが、かわせないわけではなかった。

 私は銀炎の刃で斬りかかり、無数のトゲが出る前に後ろに下がったり横に移動したりして全てかわした。

 氷の特殊精霊は無数のトゲと同時に氷の塊も飛ばしてくるようになった。

 私は兄弟の一人の四枚の羽を使う内炎が赤、外炎が金色のフェニックスの事を思い出した。

 私は羽を四枚にして、下の二枚の羽で氷の特殊精霊に攻撃しながら、飛んでくる氷の塊を上の二枚の羽で斬り落とそうとした。

 だがうまくいかなかった。

 あの赤いフェニックスは、四枚の羽を別々の生き物のように扱う事が出来ていたが、私は左右でバラバラの動きは出来ても上下ではバラバラする事が出来なかった。

「相当に訓練をしたのだ。おまえを倒すためにな・・・・」

 赤いフェニックスがそう言っていたのを思い出した。

 あの芸当は簡単に真似は出来ないようだった。

 私は羽を二枚に戻した。

 これまでの戦いにおいて攻撃を避ける必要があまりなかった私は攻撃を避けるのが上手くなかった。

 氷のトゲには当たる事はなかったが氷の塊には二回に一回は当てられた。

「ああ! ヒナタ(ヒー)ちゃああん!」

ヒナタ(ヒー)ちゃーん!」

 ミカネルとイヴマリアの悲鳴にも似たような声で叫んでいた。

ラーシリア(ラーさん)! 早くぅ~! 早く来て~! ヒナタ(ヒーちゃん)が!」

ラーシリア(ラーさん)! 早く来て~!」

 ミカネルとイヴマリアが私を呼んでいた。

 ヒナタの事を叫んでいるがヒナタがどうしたのだろうか?

 私が戻るとミカネル達が、かなり狼狽していた。

「大変だよ、ラーシリア(ラーさん)! ヒナタ(ヒーちゃん)が連れ去られた!」

「何?・・・・・どうやって?」

ラーシリア(ラーさん)があの氷の化け物と戦っている時、ヒナタ(ヒーちゃん)を箱で閉じ込めて持っていったんだ。何人かの人間が・・・・」

「箱・・・・人間・・・・」

「あっという間だったんだ。林の方に担いで逃げて行ったからフェニックスリボルバーで撃てなかったし、あいつら俺らに向かって魔法を使って来て手も足も出なかった・・・・ヒナタ(ヒーちゃん)をさらったのは黒いローブを着た人間だった・・・・」

 確かに燃えない材質のもので私を囲めば運ぶ事は可能だった。

 私なら銀炎の刃で斬ったり銀炎の槍で穴を空けて脱出も難しくなかった。だがヒナタは攻撃手段がなかった。しかし・・・・

「ミカネル、イヴマリア、ヒナタは大丈夫だ」

「何で?!」

「そうよ、何で?! さらわれたのよ! ラーシリア(ラーさん)と違って強くないし技とかもないじゃない!」

「落ち着けイヴマリア。ヒナタはフェニックスだ。攻撃手段はないが閉じ込められて死ぬ事はないし、物理攻撃も魔法も基本的には効かない」

「「あ・・・・」」

「それよりも今はあれを何とかした方が良いだろう」

 私は氷の特殊精霊を羽で指して言った。

 私は氷の特殊精霊に近づくとさっきの攻撃を繰り返した。

 ミカネルは地上からフェニックスリボルバ(タイプⅢ)ーを撃っていた。

 氷の特殊精霊に攻撃するのではなく氷の特殊精霊が放つ氷の塊が他の動物に当たるのを撃ち落していた。氷の塊を撃ち落しながらも氷の特殊精霊に当たるような角度で撃つのは見事だった。しかも跳ね返った銀炎の槍が地上ではなく空に跳ね返るようにも計算していた。あんな芸当はミカネルにしか出来ないだろう。

 氷の特殊精霊も応戦していたが、私達の攻撃力が上回ったようだった。

 氷の特殊精霊の身体の色がだんだんと黒ずんできていた。

 そして反撃する回数が少なくなり、威力も弱くなった。

 氷の特殊精霊は自分を保てなくなり、近くの地面に落ちて行った。

 ゴオオオオオという岩が砕け、木々が折れるすさまじい音がした。

 氷の特殊精霊は死んでいなかったが、戦う意志がない事がわかったので私は攻撃をやめた。

 フェニックスを傷つけられるのはフェニックスだけだ、というのは間違いだった。

 氷の特殊精霊は私を傷つける事が出来ていた。この事から、さっきミカネル達にヒナタはフェニックスだから大丈夫だと言ったが、そう言いきれない事に気づいた。

 心に霧がかかったようにモヤモヤしていた。

 私はそれが不快だと感じた。

 こんな気持ちになったのは初めての事だった。


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