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妖精の岩山アズロック

 妖精の森(ミュアルの森)を出て、俺は自分が甘かった事、何も考えていなかった事がわかった。

 妖精から習った魔法は実践では全く使えなかった。

 妖精の森(ミュアルの森)を出て魔物や動物と遭遇して初めてその事に気づいた。

 相手は俺が魔法を撃てる状態になるのを当然だが待たない。プレッシャーのない状態でなくても時間がかかるのに、襲われるかもしれないというプレッシャーの中では集中しづらく魔法を撃つのに時間は更にかかった。

 俺がこの事に気づけなかったのは、実戦経験がない事もあるが、そもそも生命のあるものに魔法を使った事がなかったからだった。

 俺が妖精の森(ミュアルの森)で魔法の試し撃ちをしていたのは、木の葉や枝だった。木の葉を蔦で動かして動きのあるものを狙うという事はした事があるけど、それを動かしてくれる妖精は俺が魔法を撃てる状態になるまで待ってくれていた。

 妖精の森(ミュアルの森)の皆と的当大会みたいな事はよくやっていたけど、万事がそういう感じだったので、実践で役に立つわけがなかった。

 妖精にとっての魔法は、他者を攻撃するものではなく自分を高めるためのものだった。

 そして俺は魔法使いになった後何をするかという将来について何も考えていなかった。

 魔法を使ってギルドから仕事を受けるとか、冒険するとか、魔法使いとしての道を究めるとか何も考えていなかった。魔法を習得するのが俺のゴールだった。

 魔法使いとして将来どうしようかと考えていれば、実践での訓練など思いつくのだろうけど、何も考えていなかった俺はそんな疑問すら浮かんでこなかった。

 改めて将来どうしようか? と考えた時、このまま妖精の森(ミュアルの森)で妖精の皆とゆるく生きていこうかなと思った。

 十五年妖精の森(ミュアルの森)に居れたのは、それまでの生活が辛かったからというのもあったけど、一番はあそこでの生活が自分に合っていたからだった。

 人によっては刺激が足りないと思う人もいるだろうけど、俺は刺激よりもまったりとした生活の方が合っていた。妖精の森(ミュアルの森)ではそれが出来た。

 父さんや兄さん達、厳しかったけど優しい所や良い所もいっぱいあった。決して嫌いではない。ただ合わないんだ。

 あの人達は強くなる事が当然の事だと思っていて、あそこにいる人達は皆そう思っている。強くならなくても良いという俺の気持ちが理解出来ない。

 ギルドにいた人達も目がギラギラしていて、皆せかせかして忙しいようにも見えた。

 何であんな風になれるのかが俺には疑問だ。

 この世界は魔法は存在するけれど、回復魔法というものは存在しなかった。俺の前世の加藤頼道の時代のゲームというものには登場していたけど俺の世界にはなかった。怪我をすれば病院に行き治療を受けなければならなかった。

 冒険も命がけなのだ。

 この前は軽い気持ちで冒険者になろうと思っていたけどならなくて良かったと今は思うようになった。

 人間の世界は妖精の森(ミュアルの森)の世界とは正反対だ。

 俺は人間の世界で生活していた時よりも、妖精達と暮らしている時の方が心地が良かった。

 幸いな事に妖精の森(ミュアルの森)の皆に俺は受け入れられている。

 このまま妖精の森(ミュアルの森)で一生暮らそうかなと本気で思うようになっていた。

 しかし、フェニックスさんがいてくれて良かった。

 フェニックスさんの強さは嘘ではなかった。

 肉食動物は俺を見るとよだれをたらして近づいてくるけど、俺の頭上にいるフェニックスさんを見ると逃げ出した。

 野性の動物は火を恐れる。

 火の塊であるフェニックスさんは恐怖の対象でしかなかった。フェニックスさんはの炎の色は赤ではなく灰色だったけど、効果は同じだった。フェニックスさんを見ると驚愕し、フェニックスさんが近づくだけで逃げて行った。

 それは魔物も同じだった。

 魔物も基本的には自分より格上の相手は戦わなくてもわかる。

 でも中にはフェニックスさんに向かってくる魔物もいた。

 フェニックスさんの戦い方は決まっていて、最初は相手に近づく、相手が逃げなければ銀色の棒状の炎を相手の足元に撃つ、それでも向かってきたら相手の体のどこかに銀色の棒状の炎を撃った。

 銀色の棒状の炎は羽から出るのだけど、ノーモーションで出た。相手からしてみたら避けにくい事この上ないと思う。そして銀色の棒状の炎は、炎であるのに貫く性能があった。

 これだけですべて切り抜ける事が出来た。フェニックスさんに近づける奴すらいなかった。

 仮に銀色の棒状の炎を突破出来たとしても、フェニックスさんの体は炎そのものであるたから物理攻撃が効かなかった。

 まさしく精霊最強だった。

 平原を歩いていると、前方が何やら騒がしかった。近づいて行くと人の声とモンスターの叫び声だとわかった。

「た! 助けてくれ!」

という声がハッキリ聞こえたので俺達はその方向に走った。

 木の妖精が走っていた。

 妖精の森にいる木の妖精のヒバさんに背格好が似た男性タイプだった。後ろには五匹の魔物がいた。

「大変だ! コモテドロンだ!」

 コモテドロンは全長二メートルくらいの大型のトカゲで、体が大きいくせに動きは早く、人間でも動物でも妖精でも何でも食べる奴だった。

 発動に時間のかかる俺の魔法では、魔法を繰り出す前にやられてしまうだろう。

 だが今の俺達にはフェニックスさんがいた。

「フェニックスさん、コモテドロンを倒せますか?」

「ああ、可能だ・・・・あの妖精は君達の知り合いか?」

「違いますけど、でも助けてあげてください!」

「わかった」

 フェニックスさんはコモテドロンの位置までひとっ飛びするとコモテドロンと木の妖精の間に割って入った。

 コモテドロンはフェニックスさんを見ても退く様子はなかった。

 フェニックスさんは威嚇射撃をした。

 銀色の棒状の炎が飛んでいき、コモテドロンの足元に撃ち込まれた。

 コモテドロンはそれでも退く様子はなく、五匹が同時にフェニックスさんに襲いかかった。

 フェニックスさんは銀色の棒状の炎を五本同時に放った。

 四匹は胴を撃ち抜れて一瞬動きが止まってから、その場にドサっと崩れ落ちた。運良く足に当たった奴は、やられた方の足をひきずって逃げて行った。

 フェニックスさんは逃げたコモテドロンに対して攻撃しなかったし追う事もしなかった。

「強ええ~」

「すごいわね。あのコモテドロンを、しかも五匹も一瞬で・・・・」

「あの~、大丈夫ですか?」

 俺が木の妖精に駆け寄って行くと、「ああ、大丈夫・・・・」と笑顔で言い掛けたけど俺を見て「人間・・・・」と言葉に詰まって笑顔が消えた。

「この人は大丈夫よ。人間だけどあなたに危害を加えたりしないよ」

 イヴマリア(師匠)が俺の右肩からひょっこり顔を出して言った。

 イヴマリア(師匠)の姿を見て、木の妖精は心底安心したようだった。



 アズロックは大小の岩の塊や溶岩が隆起して出来た岩山だった。

 人間の身長ほど大きな岩もあれば四階建てのビルくらいの巨岩などもある。麓には木々があるがポツポツと所々にあるだけでほとんどが岩だった。

 ここにいるのは木の妖精と岩の妖精だけで、岩山のくぼみや岩をくりぬいて住処としていた。

 魔物(コモテドロン)から救った木の妖精は名をジンゴロといい、妖精の岩山(アズロック)の住人だった。

 風の精霊から俺たちが訪ねて来る事を聞いてもいた。

 ジンゴロさんを助けた事もあり、俺たちは妖精の岩山(アズロック)の妖精達に好意的に迎えられた。

 妖精の岩山(アズロック)はほとんどが岩で出来ているのでフェニックスさんも妖精の森(ミュアルの森)に比べれば色んなものに近づく事が出来た。

 フェニックスさんは俺らの後を五メートルほど宙に浮いてついてきている。ここでもフェニックスの存在自体が珍しく、俺らよりも注目を集めていた。

 木の妖精は妖精の森(ミュアルの森)にもいたけど、岩の妖精を見るのは初めてだった。

 丸かったり、横長だったりと、個体によって大きさも形も違っていた。移動の仕方も個体によって違っていて、ズリズリとすり足して進む者もいれば、ジャンプして移動する者もいた。

 ジンゴロさんの家は高さ四メートルほどの丸い岩をくりぬいた家だった。

「さあ、入ってくれ、汚い所だけど。今水を持ってくるよ」

 ジンゴロさんは妖精の岩山(アズロック)の鍛冶屋的存在でもあったけど、自称発明家でもあった。

 家の中にはジンゴロさんが発明した物が所狭しと並べられていた。

「最近合金作りにハマっててね。金属は面白い! 違う金属を合わせると強く出来ればしなやかにも出来る! 最近作ったのはこれさ」

と言って俺に三十センチほどの白い棒状の金属を手渡した。太さは俺の人差し指ほどだった。

「何です、これ?」

「こいつはただの白い金属じゃない。魔法を溜める事が出来る金属なんだ」

「どうやって溜めるんですか?」

「この金属を握って魔法をそのまま発動させれば良いのさ。あんた魔法使えるんだよな。試しにやってごらん。金属から手を離さず触れ続けてないと駄目だよ」

「わかりました。でも俺の魔法は旧式だから遅いすよ」

「旧式? 何だそれ?」

 俺はジンゴロさんに旧式の魔法と今の魔法の説明をした。ジンゴロさんも今の魔法は知らなかった。

 俺は白い金属に人差し指と中指を当てて魔法を使った。

 水の魔法にした。この距離で撃った事はないけど、もし撃ったら白い金属が水流で濡れて床もビシャビシャになるだろう。でも水流は白い金属に吸い込まれるようにして消えた。

「おお!」

「あ! 今見えたよ! 水が吸い込まれたよね!」

 イヴマリア(師匠)が俺の左肩に両手をついて白い金属をマジマジと見て言った。

「この溜まった魔法はどうなるんですか?」

「この前出来たばかりでどのくらいもつかはまだわからんが、一日前に溜めた魔法は次の日でも出す事が出来たよ」

「どうやって取り出すんですか?」

「それはこの金属を使うのさ」

 ジンゴロさんが棚から黄色い金属を取り出した。

 さっきの白い金属と同じような長さと太さの棒状の物だった。

 ジンゴロさんは俺から白い金属受け取るとその先端に、黄色い金属で触れた。すると俺の水の魔法が飛び出てきた。

「おお!」

「魔法! さっきの!」

 魔法は威力もそのまま再現されていた。

 俺とイヴマリア(師匠)が驚いたらジンゴロさんが誇らしげな顔をした。でも水の魔法が出た先にはジンゴロさんの上着がかけてあったのでビショ濡れになってしまった。

「ああ! やっちまった!」

 ジンゴロさんは発明の事になると少し周りの事が見えなくなるようだった。

 俺達は水を飲みながらこれまでの経緯を話した。

 この日はジンゴロさんの家に泊めてもらった。

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