小さなフェニックス
東の妖精の森から更に北東に行った所にセーヴという妖精達が暮らしている森があった。
その近くに魔物が棲みついてセーヴの森の妖精達は困っていた。
東の妖精の森に助けを求めに来たが東の妖精の森に魔物と戦える妖精はいなかった。そこで妖精の森の私達の事を話し、風の精霊に頼んで私達がセーヴの森の魔物を倒しに行く事となった。
討伐のメンバーは当然私とミカネルとイヴマリアだった。
魔物は岩場にいたので私一人で十分だった。
魔物を倒した後、東の妖精の森の妖精達やホタルと再会した。思い出話に花を咲かせ、数日東の妖精の森で過ごした。
我々は東の妖精の森やセーヴの森の妖精に見送られながら、妖精の森へ帰った。
帰り道、違った道を行ってみようという事で、来た時と違うルートを私達は進んでいた。
ミカネルがイヴマリアの悲鳴を聞くと集中力が増す事を私はイヴマリアにだけ話していた。
ミカネルに話すと変に意識して集中出来なくなるかもしれないが、イヴマリアがこの事を知っていても悲鳴は恐ろしさを感じた時には自然と出るものだそうだし、意図的に出来てミカネルの集中力が増す事が出来れば私が戦いに参加出来ない時、大きな力になると思ったからだった。
カドクアッタに行く前にイヴマリアに話していて、カドクアッタの手前の森で魔物と戦闘になった時イヴマリアは試してみたそうだ。だがこの時はミカネルはびっくりしただけで集中力が高まる事はなかったそうだ。
しかしカドクアッタでトカゲ獣人と戦闘後、イヴマリアが泣いた姿をミカネルが見た後は、イヴマリアが意図的に悲鳴をあげてもミカネルは集中力が高まるようになった。
イヴマリアが泣いた姿はミカネルの心によほど強く衝撃を与えたようだった。
もう二度とイヴマリアを悲しませたくない、その思いから集中が高まるのだろう。
ミカネルがイヴマリアを特別に思っているようにイヴマリアもミカネルを特別に思っていた。
旅をするようになってミカネルの存在がイヴマリアの中で更に大きくなったようだった。
イヴマリアが一番恐れるもの、それはミカネルを失う事だ。
カドクアッタでミカネルが目の前でトカゲ獣人に倒されそうになっていた時、イヴマリアは動く体力も魔力もなく、ただ見ているしか出来なかった。ミカネルを失うかもしれない恐怖と悲しみ、助かった喜びから涙が止まらなかった。
イヴマリアの意図的な悲鳴であの集中力が出るのだから、イヴマリアが本気で悲鳴を上げたらミカネルはどうなるのだろうか?
見てみたいという好奇心が一瞬よぎったが私はそれをすぐに振り払った。
イヴマリアが本気で悲鳴を上げるという事はミカネルが命の危機に直面しているくらいの事態に陥ってる場合で、それを望んでいる事にもなると思えたからだ。二人が危機的状況にある事を私は望んでいなかった。むしろ逆で、私が共にいる時はそんな事態にさせないつもりだ。
二人には、今もそうであるように笑顔でいてもらいたい。
ミカネルと、ミカネルの左肩に座っているイヴマリアがセーヴの森での出来事を思い出し、笑い合っていた。
私は二人が醸し出す朗らかなで穏やかな雰囲気を心地良く感じていた。
「あれは・・・・やはりな」
「どうしたの、ラーシリア?」
「・・・・兄弟がいる」
私達の進行方向の斜め前の、かなり低い位置に私の半分ほどの体の小さいフェニックスがいた。
我々フェニックスは兄弟の位置をおおまかにだが把握出来る能力がある。
イヴマリアが来る時と違う道を行こうと提案した時からこの方向に兄弟がいる事は私にはわかっていた。
「行ってくる」
「うん」
「気をつけて、ラーシリア」
「ああ」
小さなフェニックスは私の存在に気づいていないようだった。
小さなフェニックスの視線を追ってみると、どうやら花を見ているようだった。小さなフェニックスは夢中で花を見ていた。
私が近づいて行くとさすがに私の存在に気づいたようで体をビクっと震わせて私を見てギョッとした表情を浮かべた。だがすぐに目を伏せた。
小さなフェニックスとの距離が二メートルほどで私は静止した。
小さなフェニックスはうつむいたままだった。
小さなフェニックスは、内炎は桜色で外炎は白色だった。
私は相手の反応をしばらく待ったが桜色のフェニックスはうつむいたままで話す事もなければ動く事もなかった。
私はミカネル達の元に戻った。
「どうやら私に用はないようだ」
「ふ~ん、そういうフェニックスもいるんだねえ」
うつむいている桜色のフェニックスを横目に私達は通り過ぎて行った。
「ラーシリア、あれ!」
「ん?」
しばらく進んでから振り返ってみると桜色のフェニックスが後を付いて来ていた。
たまたま同じ方向に用があるのかと思っていたがどう進んでもついて来ていた。
「ラーシリアと話しをしたいんじゃないかな?」
「ほう。では話しかけてみよう」
私は小さなフェニックスに話しかけに行ったが、すぐにミカネル達の元に戻ってきた。
「何て言ってたの?」
「何も・・・・何を話しかけてもうつむいているだけだ」
進む方向がたまたま同じだっただけなのだろうか。
だがどれほど進んでも桜色のフェニックスは後を付いて来た。
「今度は俺が話しかけてみるよ。ラーシリアはちょっと待っててね」
ミカネルがそう言って桜色のフェニックスに近づいて行った。
「やあ、俺の言葉わかるかい?」
桜色のフェニックスはうなずいた。
ミカネルとイヴマリアがいくつか言葉をかわしてわかった事は、桜色のフェニックスは私に興味を持ったという事だった。
だが、どうしたら良いか、どうしたいのか、という事が本人にもわからなかったようだ。
なぜならば桜色のフェニックスは自分以外のフェニックスに会うのが初めてであったし、自分以外のフェニックスに興味を持つという感情自体も初めての事だった。だから戸惑っているようだった。
それを聞いた私も困惑した。
なぜならば今まで出会ったフェニックスは私に挑戦してくる者ばかりで、そうではないフェニックスに出会うのは私も初めてだったからだった。
「敵意はないみたいだし、多分これからもラーシリアの後をついて来そうだから、しばらくの間一緒に行動してもいんじゃない?」
ミカネルが提案した。
私は了解し、桜色のフェニックスも了解した。
だが、桜色のフェニックスは私と直接話す事が出来なかった。でも私に興味はあるようでミカネルとイヴマリアに私の事を質問していた。ミカネル達が私に質問を伝え、私が答えると、ミカネルとイヴマリアが桜色のフェニックス伝えに行った。
無意味なやりとりだった。
私も桜色のフェニックスもテレパシーで話しをしているからだ。私はミカネル達だけでなく桜色のフェニックスにも聞こえるようにしていたし、桜色のフェニックスもそうしていた。でも桜色のフェニックスはミカネル達を通さなければ会話が出来なかった。
ミカネル達は、私と桜色のフェニックスの間の二十メートルほどを行ったり来たりしなければならなかった。
イヴマリアが桜色のフェニックスは私の事を恐れているのではなく照れているから話せないのではないかと言った。
私はそれが理解できなかった。
でも桜色のフェニックスはミカネルかイヴマリアを間に入れないと私と話す事は出来ないという事は理解出来たので、この話し方に合わせる事にした。
「花は好き?」
桜色のフェニックスが聞いてきた。
「好きでも嫌いでもない」
私は答えた。
「何で?」
「意識した事がないからだ」
「体大きいね」
「これまで出会った兄弟達と比較すると私は多分一般的なサイズだと思う」
「何で灰色なの?」
「不明だ。物心ついた時には灰色だったから多分産まれた時からそうなのだろう。君は何で桜色なんだ?」
「わかんない」
という他愛ないやり取りが続いた。
ミカネルとイヴマリアは私達の間を行ったり来たりしていた。
桜色のフェニックスのある言葉を言った後、ミカネルとイヴマリアは顔を見合わせた。テレパシーなのでミカネル達から聞くまでもなくすでに知っていた。
「どうしてあたしを殺さないの?」
桜色のフェニックスは私の方を見ていた。
私と目が合うとすぐにそらした。だがチラチラと私の反応を伺うように横目で見ていた。
「殺したくないからだ」
「あたしを殺さないの?」
「殺さない」
桜色のフェニックスは初めて私をまっすぐに見た。
私と目が合っても目をそらさなかった。少し微笑んだようにも見えた。
桜色のフェニックスに名前をつけようという事になった。
「サクラってどう?」
イヴマリアが提案した。内炎が桜色だからだろう。
「あなたは何でラーなの?」
桜色のフェニックスが聞いてきた。
もうミカネルやイヴマリアを通さずに私に直接聞いていた。
「ラーシリアとは地方名だ。昔の人間は地名から名前をつけたそうだ。それに習ってつけた。ミカネル達が住む妖精の森を含めた一帯をラーシリアというのだ」
「ラーシリアの隣は何ていうの?」
「ヒナタ地方だよ」
ミカネルが言った。
「じゃあ、あたしはヒナタで」
「じゃあヒーちゃんだね」
「そうだね、よろしくヒーちゃん」
とミカネルとイヴマリアが言うと、ヒナタは[ナタは?]と小首をかしげていた。
ニックネームと言うのだと、後で説明する事にした。




