勇気の塔
勇気の塔は妖精の岩山から北東に三十分くらい歩いた所にあった。
勇気の塔はレンガを積まれて出来ていて四階まであったから妖精の岩山からでも見えた。ずいぶん昔からあったそうだけど、誰が何のために建てたかは誰も知らなかった。塔の中には誰もいないし、何かに使われたような跡跡もなかった。
妖精の岩山の岩の妖精は勇気ある者が好きだった。
岩の妖精達は自分の勇気と仲間の勇気を試すために、成人になるとこの塔から飛び降りた。
岩の妖精は固いから滅多な事では砕けないけど、塔は四階建てで高かったから着地した場所が岩だったりすると砕けてしまう事があった。へたをすると命を落とす場合もあった。
この儀式をクリアした者は一人前の岩の妖精として妖精の岩山の岩の妖精達に認められた。
いつしかこの塔は、勇気の塔と呼ばれるようになった。
勇気の塔に近づくと、窓から何匹もの魔物が顔を出してガウガウと怒鳴り散らしてきた。
真っ赤な目、むき出しの敵意、話の通じない魔物だ。
ジンゴロさんから話しを聞いていたから驚く事はなかった。
「じゃあ、中に入ろっか」
俺の右肩に乗っているイヴマリアが「うん、行こう」と言い、俺の後ろにいる戦士姿のラーシリアが「ああ」と言った。
俺は勇気の塔の扉を開けた。
中には数十匹の狼っぽい魔物がいて、さっきは窓から盛大に吠えていたけど、俺達が中に入ると全員が後ろの窓から逃げて行った。
ラーシリアが俺の後ろにいるからだ。
人型になっても、この状態で銀炎の槍を撃てなくてもラーシリアの強さを彼らは感じとったみたいだった。
こうなる事もわかっていた。
勇気の塔に俺らが近づくと怒鳴り方は大きくなったけど向かってくる事はなかったからね。
俺達は二階の階段を見つけて上がった。
二階にいたのは全長二メートルほどの黄色い毛並みの熊っぽい魔物、アプリコットグリズリーだった。ジンゴロさんが言っていた魔物だ。
数頭いたけど、これまたラーシリアを見かけると窓から我先に飛び降りて逃げて行った。
「逃げて行っちゃったね」
俺の右肩に乗っているイヴマリアが言った。
「うん」
「だが上の階にも魔物の気配を感じるな」
「そうだね。最上階まで行こうよ」
三階に上がると、大型犬くらいの大きなネズミがいっぱい居た。
大ネズミはラーシリアを見かけてもひるまなかった。
雄叫びを上げながら一斉に向かってきた。
俺はフェニックスリボルバーを抜くと大ネズミの一番密度の高いグループ目掛けて引き金を引いた。
銀炎の槍に撃ち抜かれた大ネズミは五体ほど動かなくなったけど、それを見ても他の大ネズミはひるまなかった。
「ミカネル、私の背に隠れると良い」
「うん」
ラーシリアが銀炎の剣で向かってくる大ネズミを斬り、俺はラーシリアの後ろからフェニックスリボルバーで大ネズミを撃ち抜いた。
大ネズミは多かったけど大して怖くなかった。この前までのタイプⅡは総弾数が12発しかなかったけど、タイプⅢはカートリッジ型になって切り替えると三十発は撃てから、残弾を気にする事なく撃てた。銀炎の槍の供給元のラーシリアもいるしね。
大ネズミの三分のニを片付けたら、残りの三分の一が逃げ出して三階は静かになった。
俺達は最上階である四階に上がった。
勇気の塔は上に行くほどに各階が狭くなっていた。四階は一番狭く、柱が四本あるだけだった。
四階の真ん中にいたのは身長2.5メートルほどの、人型のバッタの魔物だった。
他の魔物は群れていたけど人型バッタは一匹だけだった。
「ギギ・・・」
と人型バッタが言った。
「ん? 話が通じるタイプ?」
「でも目が赤いよ」
とイヴマリアが言うと、人型バッタは目の前から消えた。
「右だ」
ラーシリアが言った右側を見ると人型バッタは、五メートルほど向こうの右側の柱まで一瞬で移動していた。
柱を両足で蹴ると猛スピードで飛んで来た。
「おあ!」
俺は後ろに避けてかわした。
人型バッタの動きを読んで避けたわけじゃない。びっくりして後ろにのけぞったら避けれただけだった。つまり運が良かっただけだ。
人型バッタの肘は刃物のように鋭利になっていた。
高速で移動してすれ違い様にあの肘で斬撃を浴びせるのがあいつの攻撃方法なのだろう。
「ミカネル、私の後ろへ」
「うん」
俺はさっきと同じくラーシリアの後ろから人型バッタを狙った。
「クッ、何て速いんだ」
全く当たらなかった。
フェニックスリボルバーから銀炎の槍が出た時にはもう違う場所に移動していた。
人型バッタは高速で移動し、すれ違い様にラーシリアに斬撃を浴びせた。
鎧の胸の部分に傷がついた。
ラーシリアも手を炎の剣の形にした銀炎の剣で斬撃を浴びせるのだけども、かすりもしなかった。
目にも止まらぬ速さとはこの事だ。
人型バッタは自分がスピードで俺達を圧倒している事をわかったようだった。
それまでは移動時以外は結構距離をとっていたのだけど、今は割と近くでも平然としていて、速く動ける構えをとらなくなっていた。
でもラーシリアに関しては得体のしれない奴と思っているみたいだった。
それもそうだ、人型バッタはラーシリアの顔、腹、腕、足、と鎧に覆われていない部分を狙っていて、人間や他の生物だったらとっくにやられていたからね。
ラーシリアは炎なので全く効いていない。
鎧が傷つくのが嫌みたいで、人型バッタの攻撃が鎧に行きそうな時は自分から身体の部分が当たるようにズラしていた。それが人型バッタにもわかったようで、普通とは逆の行動に怪訝そうな表情を浮かべていた。でも脅威には感じていないみたいだった。
人型バッタは、俺の目を見て手をクイクイと動かした。
撃ってきてみろ、と言っているようだった。
俺はフェニックスリボルバーを二発連続水平に撃った。
一発目は人型バッタ目掛けて、二発目は人型バッタの移動先を予測して撃った。一発目はあっさりかわされたけど二発目は予測した移動先と同じ方向だった。それでも奴の方が速く当てる事は出来なかった。
人型バッタの最高速度はあれが限界だと思っていたけど更にその上の速度があった。
人型バッタの速度に俺達は全くついていっていなかった。
「当たって!」
イヴマリアがイヴランチャーを肩に担いで俺の左腰辺りから人型バッタを狙って撃った。
人型バッタは俺のフェニックスリボルバーを見ていたから結構良い不意打ちだったと思う。実際奴は少し驚いた表情をしていた。でも、それでもかわされた。
人型バッタは肩を回した。
次は俺の番だとでも言っているようだった。
最高速度で突っ込んで来るつもりなんだ。
正面にはラーシリアがいるから後方か左右のどちらかに飛んでくるに違いなかった。それがわかっていても、あの肘の攻撃をかわす自信がなかった。
俺は立て続けにフェニックスリボルバーを六発撃った。
人型バッタは大きく避ける事もなく、ギリギリでかわすようにすらなっていた。一発もかすりもしなかった。
「ミカネル! ムキになったらダメよ!」
「私もそう思う」
「大丈夫、考えてるから!」
俺はフェニックスリボルバーのカートリッジをかえた。
人型バッタは余裕の表情で俺に向かって真っ直ぐ歩いて来た。
俺がフェニックスリボルバーを構えて奴に銃口を向けている。フェニックスリボルバーに当てられる事はないと思っているんだろう。
俺はフェニックスリボルバーの引き金を引いた。
人型バッタの胸を狙って撃った。
人型バッタはさっきとはスピードが段違いに上がった銀炎の槍に驚いた。
そして避けようとしたけど避けれずに当たり、右半身が無くなって倒れた。
「何で当たったの?」
「カートリッジを銀炎の槍のレベル2のやつにしたから」
「あ・・・・」
今まで撃っていたのは銀炎の槍のレベル1が装填されていたやつだった。銀炎の槍のレベル2はレベル1に比べて威力も速度も四倍だった。
さっきフェニックスリボルバーを連発したのはやけになっていたのではなく銀炎の槍レベル1の速度に人型バッタを完全に慣らす為だった。あの速度より速いものでくると思わなかったから命中したのだった。
「これで勇気の塔から魔物はいなくなったね」
「そうだね」
「ジンゴロの所に戻ろう」
俺達は妖精の岩山に戻り、ジンゴロさんに報告した。
勇気の塔は中に光を入れるために窓を多くしていた。
窓と言っても扉はなく、ただ開いているだけだった。そのため魔物が入ってきやすく、棲みつかれてしまっていた。
俺達が魔物を倒した後は、全体の半分ほど窓に木の板を貼って減らして、残りの半分は開閉式にして内から閂をかけて入って来れないようにした。
これで妖精の岩山の岩の妖精達は成人の儀式を行えられるようになった。




