初めて見る姿
俺がイヴマリアを両手ですくおうとした時、イヴマリアの後ろの台座から魔物が飛び掛ってきた。
「おわあああああああ!」
俺は驚きながらも、フェニクスリボルバーを抜いて撃った。
魔物は体長一・五メートルくらいの紫色のトカゲで足が六本あった。
見た事がない奴だった。
魔物は台座に尻尾を絡ませて体をひねってフェニクスリボルバーの銀炎の槍をかわした。魔物は俺の左側に着地すると同時にまた飛び跳ねて、俺達の後方に飛んだ。
でも魔物が地面に着地した衝撃で遺跡の床がゴロゴロと大きな音を立てて崩れて魔物は地下に飲み込まれるように落ちていった。
「おわーーーーーー!」
俺の足元の床も崩れて、俺も地面に飲み込まれるようにして地下に落ちた。
「ミカネル! 大丈夫!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・イタたた、何とか平気みたい」
尻や足に石が当たって痛かったけど、骨が折れたり血が出たりという事はなかった。
イヴマリアは無事だった。
イヴマリアが座っていた手前から床が崩れていた。
俺は上に上がれる道がないか辺りを見回した。
「ミカネル! 魔物が二十メートルくらい先にいるわ! 気をつけて!」
「え? 生きてるの?」
さっき俺より先に落ちて、俺の方の床が後から落ちたから下敷きになってると思っていた。
「うん! 平気みたい!」
イヴマリアは上から全部見えていたけど俺の位置からは見えなかった。
地下は元々いくつかの部屋だったようだけど、さっき床が崩れたのと、その衝撃で壁も崩れて、どこまでが部屋でどこが廊下なのかわからない状態になっていた。
「フェニクスリボルバーは後一発しか残ってないよね! ようく狙ってね!」
「わかってる!」
俺は石が積み重なって少し高くなっている所に登って魔物を探した。
見つけた。
でも向こうも俺に気づいてバッチリ目が合ってしまった。
俺はフェニクスリボルバーを撃った。
だがかわされた。
とてつもなく速い奴だった。
「もう~! 何してんの!」
「仕方ないよ! あいつ速いんだもん!」
俺は下に降りて身を隠した。
「私、疲れて飛べないし、魔力もつきちゃったからもう何も出来ないよ! どうするのよ~?!」
「ジューイさん、ラーシリアやリョウザさんを来るの待つよ!」
「そうね! もうすぐ追いついて来るは・・・・」
「ふうん。仲間が近くにいるんだ。じゃあ急がないと」
え? 誰? 今の?
「イヴマリア! 今イヴマリアが言ったんだよね?」
イヴマリアの声でない事はわかっていた。
男の声だったから。俺の嫌な予感を否定して欲しくて聞いたんだ。
イヴマリアが真っ青な顔をしていた。
「私じゃない・・・・・その魔物、その魔物が喋ったの!」
「魔物じゃないよ。獣人だよ。珍しい紫トカゲの獣人さ・・・・」
トカゲ獣人は二本の足で立ち上がって言った。
六本あった前足は腕に形を変え、後ろ足は人間の足のようになった。真ん中の二本の脚は腹の前で腕を組むようにして組まれていた。
「さっきの銀色の炎はやっかいだったけど、もう撃てないんだろ?・・・・ふふふ、久しぶりだな、人間の肉を食べるのは」
まずい! まずい! まずい!
奴はフェニクスリボルバーが弾切れだという事を知っている。そしてイヴマリアの魔力も底をついてる事も知っている。さっきのイヴマリアとのやりとりを全部聞かれてたから。
俺の目の前、三十メートルほど先に床や壁が折り重なって上に上れそうになっていた。
でも登ってどうする?
ラーシリアやリョウザさんが来るであろう方向は逆だった。それに奴の動きは速かった。俺があそこにたどり着くまで追いつかれるだろう。フェニクスリボルバーの弾がない丸腰の状態では自殺行為だ。
どうする?
そうだ! 会話をしてみよう! 俺を食べる気満々らしいから交渉は無理かもしれないけど時間を引き延ばす事できるはずだ! ラーシリア達が来るまで時間を稼ぐんだ!
「君は紫トカゲの獣人と言ったね? 普段は人間の姿でロゼスザリアに住んでいるの?」
「ふふふ・・・仲間が来るまで会話でつないで時間を稼ごうっていうんだね。君の考えはわかってるよ」
ダメだ・・・・読まれてた・・・・
「ミカネル! あなたから見て右から魔物が近づいてるわよ!」
「だから魔物じゃないって。獣人だよ」
「どっちでもいいわよ!」
「偉く威勢がいいね。そこにいる人間を食べたら、君も食べてあげるよ。妖精は食べた事がないからどんな味がするかな? ふふふ」
こいつ、俺だけでなくイヴマリアも食う気か?!
どうする? 魔法を使うか? いや駄目だ。あいつは二度もフェニクスリボルバーをかわしたんだぞ! 俺の魔法が当たるわけがない! 当たったって一撃で仕留めないと食われちゃうじゃないか!
どうする? どうする! ・・・・そうだ! 一つだけ手があった! でも俺に出来るか? いや、やるしかない・・・・
「ミカネル! 何で動かないの! もうそこまで来てるのよ!」
俺はイヴマリアの呼びかけには応えなかった。
イヴマリアを安心させるために作戦を話したかったけどトカゲ獣人に聞こえるから出来なかった。
イヴマリアは俺の後ろの上側にいて、俺が背を向けてうずくまっている姿は見えても、俺が何をしているかは見えなかった。
もう少しだ。あと少しなんだ! 急げ!
「逃げてミカネル! 逃げて!」
「おや、怪我をして動けないのかな? そりゃ好都合だ。すぐに行くからね」
奴が近づいてくるのが音でわかった。
俺が動けないと思ったのか遮る壁なんかをどけて大胆に音を出しながら進んできた。イヴマリアの言う通り俺の右側からだった。
俺の右側にはさっきの床の瓦礫の一部があった。その瓦礫の一部は一メートル四方の正方形だった。
トカゲ獣人がその一メートル四方の正方形の瓦礫の裏まで来ているのを感じた。
俺はうずくまっていたからはトカゲ獣人から俺の姿は見えなかったはずだ。
でもトカゲ獣人は一メートル四方の正方形の瓦礫を窓を開けるかのように横にずらした。
見上げた俺と奴の目が合った。
俺を見つけたトカゲ獣人はニタリと笑った。
「いっただきま~す!」
「ミカネル! 逃げて~~~! いやあああああああああ!」
イヴマリアの今にも泣きそうな叫び声が聞こえた。
でもすぐに声は遠ざかっていって全く聞こえなくなった。
あの時の感覚だった。
自分以外のすべてが止まっていて、自分だけが動いているような感覚。
俺は地べたに座ったまま、トカゲ獣人にフェニクスリボルバーを向けた。
奴はフェニクスリボルバーが空である事を知っていたから銃口を向けても全く動じず、口を大きく開けていた。俺はその大きな口、目掛けてフェニクスリボルバーの引き金を引いた。
赤い閃光がトカゲ獣人の口の中に撃ち込まれた。
「ヴッッッッッ・・・・!」
トカゲ獣人は喉の辺りを手でおさえながら地面を転げ回った。
俺はフェニクスリボルバーに火の魔法を入れて撃った。
俺の火の魔法をそのまま撃ってもかわされただろうし、当たったとしてもほぼ間違いなく一撃じゃ仕留められなかった。
でもトカゲ獣人の口の中に直接撃ち込む事が出来れば倒せるんじゃないかって思った。
内臓は鍛える事が出来ない。
それは人間だけでなく動物も魔物も獣人も同じはずだった。床でのた打ち回っているトカゲ獣人にもやはり効いていた。
人間なら内臓に火傷を負ったら長くは生きていられないそうだ。
トカゲ獣人はどうかわからないけどこのまま助かっても、もう悪さは出来ないだろう。
「ミカネル! ミカネル! ミカネル! ミカネル!」
イヴマリアがフラフラと左右に大きくヨロめきながら降りてきた。
もう飛ぶ力がなかったからブレーキをかけながら落ちてきていた。
イヴマリアは俺の首筋に抱きついた。
「ミカネル・・・・」
「ごめんね、イヴマリア。作戦話したかったんだけど、奴は言葉がわかるし、油断させたかったから出来なかったんだよ」
奴が避けられない所まで近づかせて、油断させて口を開けさせなければならなかったからね。
「う、うう・・・・」
「イヴマリア?」
イヴマリアは泣いていた。
俺の首筋にイヴマリアの涙が伝わってくるのがわかった。
俺はイヴマリアが泣いているのを初めて見た。
「イヴマリア、ごめんね。心配したよね。でも、もう大丈夫だよ」
そう言ってもイヴマリアは泣き止む事はなかった。
イヴマリアは俺の首筋を強く抱きしめて、ただただ泣いていた。
上で人の声がした。
「あ、ラーシリア達が来たのかな?」
イヴマリアは応えなかった。
泣いているだけだった。
「行ってみようよ、ね」
俺は上に登った。




