古代遺跡カドクアッタ
竜の背中の乗り心地は快適とは言えなかった。
まず掴む部分がない。だから俺は羽の付け根部分を掴んでいるけど、皮膚が分厚くてグニグニ動くから掴みにくかった。腕の力だけだとバテてしまうから両腿で竜の首のつけね辺りを挟むようにと、ジューイさんから言われてそうしているけど、大きいし固いので挟みづらかった。
でもジューイさんは俺に風が当たらないように首を縦に長くして風を受けてくれている。頭と背中を水平にした方が空気抵抗が減るから速くもなると思うけど、速さも犠牲にしてくれている。
飛んでいる時も揺れないように気を使ってくれているのが何となく伝わってもきていた。
だから俺も不平と思わずに耐えなきゃとは思うんだけど、全身で全力で竜にしがみついているのは中々に大変だった。
イヴマリアは背中のポーチが風の勢いで飛ばされるかもしれないと思って、俺の襟から服の中に入っている。
実際右側のボタンからポーチが外れていて、あのまま背中のポーチの中に入っていたらイヴマリアは投げ飛ばされていた。イヴマリアは飛べるから落ちて死ぬ事はないけど竜に追いつくほど速くは飛べないし、このだだっぴろい森にポツンと一人になったらと思うとぞっとした。
ジューイさんの背に俺が乗っていて、俺の背にイヴマリアが乗っているという二重ライダーになっていた。
何となく後ろから視線を感じて振り返ってみると、赤い竜が猛スピードでこっちに迫ってきていた。
赤い竜なのでリベカ陣営だろう。
「あの、ジューイさん! 後ろから赤い竜がついてきてますよ!」
「・・・・あいつ」
普段なら追いつかれる事はないかもしれないけど俺を乗せているから速度が出ないのだ。
「お客人! いずれ奴に追いつかれる! 後ろから狙われては避けるのが難しい! 一度あなた達を下ろして奴を迎撃したいのだがよろしいか?」
「ええ。それで良いっす!」
俺達は森で下ろされた。
正しい判断だったと思う。
俺は人間だけどリベカ陣営の人はそれを知らないし、知っていたとしても敵陣営なのだから遠慮はしてこないだろう。
後で聞いたのだけどあの赤い竜はリベカ陣営の精鋭の中の一人なのだそうだ。
「奴は必ず俺が食い止める。地図は?」
「はい。持ってます」
「では光の雫は頼みましたよ!」
「ジューイさんも怪我しないように!」
彼はふっと笑って、うなずいて飛び立って行った。
ジューイさんやリョウザさん、ゼシル陣営の人達の熱が俺やイヴマリアにも移っていたから森に降り立った当初はやる気がみなぎっていた。
彼らから俺達は光の雫を手に入れる事を託されたのだ。
彼らの犠牲は無駄にはしない・・・・誰も死んではいないけど、妙な使命感が俺達に芽生えていた。
俺とイヴマリアはお互いの顔を見て、目が合っているのに何も言わずにうなずいて、カドクアッタの方へ歩き出した。
俺達の目の奥には小さな炎が宿っていた。
でも森を進んで行く内に不満の方が強くなって行った。
「うわ! また魔物だ!」
「ええ~?! またなの~!」
そう、この魔物の数の多さだ。
カドクアッタには魔物はいないのかもしれない。でも森には魔物が多かった。
竜人にとってはこのくらいの魔物は脅威でも何でもないし、魔物も竜人が相手なら挑もうとしないから遠目から見て近づく事もないのだろう。だから彼らはこの森には魔物はいないと思っていた。
でも魔物からしてみたら俺達は脅威でも何でもなく、遠くからでも俺達を見かけると迷う事なく飛びかかってきた。
話の通じる魔物と話の通じない魔物は一目で見分ける事が出来る。
目が赤く敵意があるのが話の通じない魔物だ。
目の赤い魔物のほとんどは話が通じない。彼らは獲物を倒して食べる事と、寝る事と、繁殖する事しかしない。稀に目が赤くても話が通じるものもいるそうだけど、この森にいる魔物は見てわかる通り敵意はむき出しだった。
この事は東の妖精の森のホタルさんから教えてもらった事だった。
森を火事にはしたくなかったから、ただフェニクスリボルバーを当てれば良いだけでなく、魔物を撃ちぬいた先が木々のない所を狙わなければならなかった。
だからとにかく神経を使った。
ここは森だから当然見渡す限り木がほとんどだった。魔物の後ろが空になるようにして撃たなければならなかった。
俺は魔物から距離を保って、イヴマリアが魔法で気をそらしたり、囮になってくれた隙に、俺がフェニクスリボルバーを下側から撃って仕留めていった。
俺とイヴマリアは妖精の森で生活していたから、この森は初めてだけど、あの木の下は大体こんな感じになっている、という風に地形が何となくわかった。あとイヴマリアは俺の意図を完全に理解してくれているから呼吸を合わせるのは簡単だった。
それにしてもこの数にはまいった。
「本当! この森、魔物多いね!」
イヴマリアが肩で息をしながら言った。
「そうだね。これじゃケナの洞窟の時と一緒だよ。最初魔物いないって言っててさ、実際に行ってみたらいたパターンだよ」
「そう、同じだよね! クレーム案件よ! クレーム案件!」
「イヴマリア、俺さ、ロゼスザリアに戻ったらこの事ゼシルに言うからさ、援護射撃してね」
「うん! 超援護するから!」
でも実際には逆の形になった。
最初は俺がゼシル達に魔物が異常に多かったクレームを言っていたのだけど、俺の肩に座っていて俺に合いの手を入れていたイヴマリアが段々口を挟んでくるようになり、俺の肩に立ち上がった時には俺より喋る量が多くなっていて、最終的には俺の目の前に腰に手を当てて指を差して文句を言っていた。
俺はイヴマリアの後ろで、
「そうだ! そうだ! イヴマリアの言う通りだ!」
と援護射撃をする側になっていた。
カドクアッタにつく頃にはフェニクスリボルバーは二発しか残っていなかったし、イヴマリアの魔力も底をついていた。
イヴマリアは相当に頑張ってくれて、自力では飛べないほどクタクタになっていた。魔力だけなく体力も底をついていた。
背中のポーチに下半身を入れた状態で、上半身を俺の左肩に乗せてぐったりしていた。
カドクアッタは古代遺跡だ。
天井がなく、壁も壊れて建物の中が見えた状態で半壊していた。ツタやコケなんかが所々についていた。
光の雫はこの遺跡のどこかにあるとしか聞いていなかったけど、すぐにわかった。
中央付近に台座があり、その下の床の割れ目から自ら光を発している花が咲いてあった。
「あれだよね光の雫」
「絶対そうよ。だってあんなに光ってる花なんて見た事ないもん」
俺達は光の雫に近づいていった。
確かに光の雫は美しかった。
花びらや茎がガラスのように透き通っていて、淡く全体が光っていた。
俺は用意されていた入れ物を開けた。
入れ物は鳥籠のように半楕円系で格子状になっていた。中には植木鉢があって当然土も入っていた。
光の雫の周り床をどけて、スコップで土ごとすくって植木鉢に入れれば花の妖精でなくても入れられそうだけど、光の雫は敏感で自らの移動を感じ取ると輝きを失ってしまうらしい。
同族である花の妖精が触れる事で移動している事がわかっても安心するから輝きを失わないのかもしれない。
イヴマリアが光の雫を抜き取ろうとした。
「ウゥ・・・ お、重い」
普段でもイヴマリアとっては軽くはないと思うのだけど、今はクタクタに疲れているからよけいに重く感じるのだと思う。
「イヴマリア、頑張って!」
「重い~~~」
俺はイヴマリアを励まし続けた。
イヴマリアはフラフラになりながらも光の雫を引き抜き植木鉢に入れた。
「ふー、超~~~~~疲れたぁ~~」
イヴマリアが珍しく地面に腰を下した。
いつもなら俺の方に飛んで来て肩か背中のポーチで休むのだけれど、飛ぶ力もないようだった。
「お疲れ様」
「ミカネル、抱っこ! 背中のポーチまで運んで」
イヴマリアが両手を広げて言った。
「うん、待ってて」
俺がイヴマリアを両手ですくおうとした時、イヴマリアの後ろにある台座から魔物が飛び掛ってきた。
「おわああああああ!」




