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再会

 王都の門をくぐってからの城までの道のりは簡単だった。

 城は目の前に大きくそびえ立っていたからだ。

 屋根は茶色で、壁が白く美しい城だった。

 鴉人(あじん)の古城は丘の上に建てられていた事もあって、来訪者を見下ろすような威圧感があったけど、王都の城は横に長く広く、どっしりとしていて、すべてを受け入れるような懐の深さを感じさせた。

 王都に呼ばれるくらいなので王様が褒美をくれるのかと思っていたけどそうではなかった。

 レトリーフ地方の行政担当官という人がいて、その人が褒美をくれるのだそうだ。

 本来なら行政担当官の執務室に通されるそうだけど、ラーシリア(ラーさん)が入れないという理由から中庭で、感謝状と褒美をくれた。

 褒美は金貨十枚で、それぞれもらった。

 もっと盛大に祝ってくれるのかと思っていたけど簡素で事務的だった。

 でもすぐに帰れた方が俺にとってはうれしかった。

 紅茶を買って、ジンゴロさんのおつかいをして帰ろうとして城の出口に向かっていると、

「ああ~~~!」

という大きな声が聞こえた。

 振り返ってみると見覚えのある顔だったので俺とイヴマリア(師匠)も、

「「ああ~~~!」」

と言った。

 この前、妖精の岩山(アズロック)魔法水晶(メラクル)が欲しいと言ってやって来たゴシックロリータの服を着た小柄な女の子ゼシルだった。

 ゼシルの後ろにはこの前も見かけた人が何人かいたけど今日はゴシックロリータの服装ではなくメイドの服を着ていた。

「あなた達、何でここにいるの?」

 ゼシルが俺達を指差して驚いた顔で言った。

「実はさ・・・・」

 ゼシル達とは決して友好的な出会い方ではなかったけど、無視するほど嫌いというわけでもなかったから事情を説明した。

「ふーん、そうだったの」

「君達は何の用?」

「私達は、王様に用があったのよ」

 後で聞いた話だけど、ロゼスザリアは昔、竜人と戦争したのだそうだ。

 竜人は獣人の中でも最強と言われているほどだったから、戦争では竜人が圧勝したのだそうだ。

 でも竜人は人間を支配するという事はしなかった。

 竜人は人間が作り出すものが好きだった。

 人間が作り出す芸術、食べ物から服に至るまで、人間の作り出すものを愛した。

 竜人は戦闘に優れた種族だったけど、これらを生み出す事が出来なかった。

 数百年も昔、別の国を戦争によって竜人が人間を支配した時もあった。

 人間は支配されると偏ったものしか生み出さなくなった。

 竜人に気に入られようとするためのものしか生み出さなくなった。竜人はそんなものには興味がなかった。

 だから竜人はこの国に戦争で勝った後、同盟という形にし、表向きにも実質的にも国は人間に統治させた。

 その方が社会は明るくなり、人間は多くの魅力的なものを生み出した。

 竜人が人間に出した条件は一つだけだった。

 竜人を含めるすべての獣人を人間と同じように接する事、これだけだった。

 竜人はというか獣人もそうなのだけど、基本的には人に姿を変えられるけど、全員が完全に姿を変えられるわけじゃなかった。顔だけはどうしても変えられない者や、尻尾を隠せない者など、少なくなかった。

 そこで竜人は、竜人として人間社会で普通に暮らせるためにこの条件を人間に要求した。

 人間としては悪い条件ではなかった。

 これまで通り人間の手で国を統治出来、外敵には竜人が立ち向かってくれる事にもなっていたからだった。

 ロゼスザリアの門が小さいのは竜人が空から飛んで出撃するからだった。

 竜人を疑う者もいたけど、時の王様は竜人の条件を受け入れた。

 そして三百年前くらいに竜人とロゼスザリアは同盟ではなく一つの国となって、ロゼスザリアは人間と獣人が暮らす国となった。

 ロゼスザリアには全国から獣人が集まるようになり、王都は大きく強く発展した。

 竜人には貴族があって、ゼシルの家は貴族の中でも上位に位置していた。

 ゼシルの斜め後ろにリョウザがいた。

 ゼシルはこの前見たのと同じような白いゴシックロリータの服装だったけど、リョウザは違っていた。

 今日は黒い執事服を着ていた。左肩には銀色の肩当がついていた。

 ゴシックロリータの服装の時は変態チックだったけど、こうしてフォーマルな服を着ると輝き方がすごかった。青い髪と切れ長の水色の瞳が黒い執事服に実に良く似合っていて、気品と聡明さを醸し出していた。

「あれ? 今日はゴスロリじゃないの?」

 イヴマリア(師匠)がからかうような口調で言ったけど、リョウザは乗ってこなかった。

「あの日は特別だと言ったはずだ」

「でも似合ってたよ」

 イヴマリア(師匠)の皮肉に対してリョウザはふんっと言って視線を外した。

 やり合う気はないらしい。リョウザは大人だね。

 ゼシルの後方からぞろぞろと複数の音が聞こえてきた。

 足音の方を見ると、ゴシックロリータの服装の女子を先頭にメイド服をきた女子とリョウザのような執事服をきた男性の一団がやってきた。

 一団の真ん前を歩いているゴシックロリータの服を着た女子はゼシルに良く似ていた。

 ゼシルと同じくらい小柄で、赤くて長い髪、橙色の目、レモン色のゴシックロリータの服を着ていた。

「そこにいるのはゼシル?」

「あら、誰かと思ったらリベカじゃない」

 ゼシルは口元に笑みを(たた)えていたけど、目は笑っていなかった。

 リベカも同じような表情をしていた。

 リベカの横には男子タイプの花の妖精が飛んでいた。

「あら、あなた妖精を飼っているの?」

 ゼシルが花の妖精を見て言うとリベカの表情が不愉快そうに歪んだ。

「ご、ごめんなさい、妖精さん。あの人何もわからない人なの。どうか気を悪くしないで」

 門番の人が花の妖精は繊細な我儘だと言っていた。だからリベカは気を使っているのだろう。イヴマリア(師匠)に繊細さを感じた事はないけどね。

「この妖精さんは、私に協力してくださる助っ人さんなのよ。それを飼ってるだなんて何て失礼な・・・・あら、そこにいるのは花の妖精?」

 リベカが俺の左肩に乗っているイヴマリア(師匠)を見て言った。

「そうよ。私の・・・・まあ配下みたいなものね」

 ああ、ヤバい・・・・

「はあ?」

 イヴマリア(師匠)が怒ろうとするのを俺は止めた。

 本当は止める筋合いはないのだけど、リョウザや取り巻きのメイド達が俺達の方を向いて懇願した顔で手を合わせていたからだった。何か事情があるみたいだった。

イヴマリア(師匠)、ここは抑えて、ね、ね。少しだけ合わせてあげようよ」

 俺がこう言ったくらいで引き下がるイヴマリア(師匠)ではないけども、ゼシルの取り巻きのメイド達とリョウザがイヴマリア(師匠)に懇願した顔で手を合わせていたから、さすがのイヴマリア(師匠)も「もう~」と言って文句を飲み込んでくれた。

「・・・・まさか、あなたも光の雫を狙っているの?」

 リベカが怪訝そう表情でゼシルに言った。

 ゼシルは最初「光の・・・?」と頭を傾けてちんぷんかんな顔をした。

 でもすぐに何かを察したようで、いきなり「そうよ! あれは私のものよ!」と断言した。

「いいえ! あれは私のものよ!」

 リベカが一歩前に出て言った。

 少しの間二人は近い距離で見つめ合った。

「じゃあ、勝負しましょう」

 リベカが言った。

 顔は笑っているけど目は笑っていなかった。

「受けましょう」

 ゼシルも目は笑っていなかった。

「先に手に入れた方の勝ちよ」

「わかったわ」

 そう言うとリベカ達は去って行った。

 後で聞いたんだけど、二人は見た目が似ているだけでなく性格もよく似ているそうだ。

 二人とも負けず嫌いだった。

 二人は、お互いをライバルと認め合う間柄でもあった。

「リョウザ!」

「ハッ」

「今すぐ、光の・・・何でしたっけ?」

「光の雫です」

「そう、その光の雫というものが何なのか、どこにあるのか、調べて頂戴! お金と人はいくらかかっても良いわ!」

「ハッ!」

 リョウザは何人かのメイドの女子達と小声でやりとりして、その後数人を引き連れて出口の方に向かって行った。残ったメイドの女子達はいくつかのグループに別れてリョウザ達とは違う方向に走って行った。

 ゼシルはイヴマリア(師匠)に近づいてすまなそうな顔で言った。

「妖精さん、さっきはごめんなさいね~、あんな風に言って・・・・ 本当はそんな風に思ってないのよ~ 話の流れ上つい・・ね。 お詫びに、あなた達を私の屋敷に招待するわ」

 ゼシルは満面の笑みを作って、両手を広げて言った。

 ゼシルは今回の件で俺達が必要になると勘が働いたようだった。

 そしてその勘は正しかった。

 でも俺は、

「いや、俺達は帰る所だから・・・・じゃ」

と言ってゼシルに背を向けた。

 何か嫌な予感がしたからさ。

 イヴマリア(師匠)もあれくらいで許すつもりはなかったみたいで、ベーっと舌を出して俺のフードの中に入った。

「大きい声で泣くわよ」

 ゼシルは不敵な笑みを浮かべて言った。

「泣けば」

 イヴマリア(師匠)がフードから顔だけ出してそっけなく言った。

「何もわかってないわね・・・・私が泣いたらあそこにいる衛兵さんが飛んでくるわ。そしたらあなた達は逮捕されちゃうのよ?」

 うわ、()たな。

「私、あなた達を牢屋になんか入れたくない!」

 ゼシルは泣きそうな顔を左右に振りながら言った。

 ムカつくな~、この子。

 泣きそうな顔といっても目はカラッカラに乾いていた。

 ラーシリア(ラーさん)が降りてきて言った。

「どうする、ミカネル?」

 そうか、ラーシリア(ラーさん)がいるから大丈夫か。

「わかった。君の家に行くよ。ただし、話しを聞くだけだからね」

 ここでゼシルに泣かれて騒ぎを大きくしたくなかった。

 それに家に招待するというだけだ。話だけ聞いて本当にヤバそうな内容だったらその時は断ろう。ゼシルの家には衛兵はいないだろうし、リョウザ達はいるだろうけどラーシリア(ラーさん)がいれば平気だ。

「うん! 話しを聞くだけで良いの!」

 ゼシルは目を輝かせて言った。

 イヴマリア(師匠)が「ええ~~!」と言った。

イヴマリア(師匠)、話だけでも聞いてみようよ」

「そうよ! 話だけよ! 私の家には何でもあるのよ!・・・・そうだ! 私あなたが着れるお洋服いっぱい持ってるの! お洋服をあげるわ!」

「服・・・・」

 服はイヴマリア(師匠)に響いたみたいだった。

 良いとは言わなかったけど嫌とも言わなかった。

「でも条件があるよ」

「何からしら?」

「|ラーシリア《ラーさんを同席させる事」

 俺は|ラーシリア《ラーさんを指差して言った。

「家の中だと色々と困る事になるだろうから、ここみたいな外が良い。用意出来ないなら俺達は帰るから」

「わかったわ。じゃあ屋上にしましょう!屋上でディナーにしましょう!」

 俺達はゼシルの屋敷に招待される事になった。


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