離れていても
東の妖精の森の妖精達から風がよく通る場所を聞いて、そこに妖精の森の皆は腰掛けていた。
リーネが入った小瓶はミカネルが持っていて、ミカネルを中心に皆が座っていた。
誰一人としてリーネの傍を離れようとしなかった。
「リーネちゃん、ヒュー君がすぐに助けられる人を探してくるからね」
「そしたらすぐ元気になれるよ」
辛そうに目をつぶっているリーネに、皆声をかけ続けた。
一陣の風が通りすぎた。
「お~い! 人間のミカネルって人はいるか~い!」
正面から来る風に乗っている風の精霊がいた。
ミカネルは立ち上がった。
「俺だ! 俺だよ! 俺がミカネルだよ!」
「ミカネルはここにいるよ!」
ミカネルの右肩から飛び立ってイヴマリアも言った。
「僕はヒューの友達のフロウ! ここから南に行った所に小さな滝があって、そこに水の精霊がいるから~! 伝えたよ~!」
風の精霊は言葉を伝える時は必ず自分の名前を名乗った。
「ありがとう! ヒュー君にありがとうって伝えて!」
「わかったー!」
風の精霊のフロウはミカネル達の頭上を通り過ぎて行った。
「南にある小さな滝の場所、私わかります」
ミカネルの左肩に乗っているホタルが言った。
「よし、行こう!」
南にある小さな滝まで妖精の森の妖精達は全員で走って行った。
走るのが遅い者も当然いた。
「ヒバさん、ごめん! おいてくから!」
ミカネルがそういうとヒバは、
「後で絶対に追いつくから先に行ってくれ! リーネを頼んだぞミカネル! イヴマリア!」
ミカネル達は森や平原を駆け抜けていった。
途中、話の通じない魔物も現れたが、私が速やかに対処し、ミカネル達の速度を落とさせなかった。
南にある小さな滝につくと風の精霊が言っていた通り水の精霊がいた。
ミカネルと同じくらいの身長で人間の大人の女性の姿をしていた。
ミカネルが事情を説明すると快く精気をリーネに与えてくれた。
薄かったリーネの身体の色が元に戻った。
「もう大丈夫。後は目が覚めるのを待つだけよ」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
ミカネルは小さな滝の水の精霊に何度も頭を下げた。
翌日、東の妖精の森でリーネが目を覚ました。
いつもの通り元気になっていた。
妖精の森の妖精達はもちろんの事、東の妖精の森の妖精達もリーネが回復した事を喜んだ。
「そういえば私、床が崩れて落ちちゃったんだよね・・・・ヒュー君は大丈夫だったの?」
喜んでいた皆が静まり返った。
「リーネ、その事なんだが・・・・」
ヒバが代表して経緯を説明した。
リーネはヒューが無事だった事は喜んだし、自分の為に絵画の部屋を出て行って、小さな滝の水の精霊を探してくれた事も感謝していた。
だが、ヒューともう二度と会えなくなってしまった事はリーネを落ち込ませた。
東の妖精の森の妖精達に見送られて、私達は妖精の森に帰った。
妖精の森への帰り道、妖精の森の妖精達と妖精の岩山の妖精達が縦一列になって歩いていた。
イヴマリアとミカネルは一番前方にいて、私はミカネル達の後方を飛んでいた。
「バカは?」
「う~ん、イマイチかな。ちょっとムカつくって感じかな」
「じゃあ、オジサンは?」
「・・・・それはダメージが強すぎるよ」
先の石像ロボットとの戦いや、ケナの洞窟でのワニ蛇との戦いの時にミカネルが自分以外のすべてが止まっていて自分だけが動いているような感覚があったと言っていた。
なぜそれが出来たか、どこで覚えたのか、というのをミカネルは思い出していた。
妖精の森にミカネルがやってきてから、皆で魔法を木の的に当てるのを競い合う事が流行った時があった。
ミカネルが魔法を習得するための練習していただけなのだが、ミカネルと遊びたがる木の妖精の子供達が一緒にやるようになり、その内若者や大人の木の妖精達も参加するようになっていた。
ミカネルの番になるとイヴマリアはいつもミカネルの耳元で「外して 外して 外して」と呪文のように繰り返した。
イヴマリアは自分が撃つ番になると周りに静寂を求めるがミカネルが撃つ時は必ずミカネルが集中できないような事を言った。当然ミカネルは抗議したがイヴマリアは修行だといってやめなかった。
最初は外しまくっていたミカネルだったが、次第にイヴマリアの言葉を無視して集中する事が出来るようになった。
ミカネルが、これが出来るようになると無敗を誇った。
イヴマリアが耳元で集中出来ないような事言ってミカネルがゾーンに入ると、必ず的に当てるようになった。止まっている的はもちろんの事、動いている的も外す事はなかった。
そのため的当て競い合う事自体数年前から行われなくなった。
だからミカネルもこの事を忘れていたのだった。
ミカネルの集中力が増す発動条件はミカネルが聞きたくない事であった。
それがわかったので、どう言われると一番集中力が増すかというのを、妖精の森へ帰る道すがら、ミカネルとイヴマリアが探していた。
「じゃあ、クサいは?」
「それは嫌すぎるよ・・・・ていうか、俺臭うの?」
「ううん、全然」
「よかった」
「どういうのが良いの?」
「なんかね、その時は聞きたくないけど後に響かないような言葉が良いかな」
「バトルが終った後も引きずらないような言葉って事?」
「うん」
ミカネルが一番集中力が増すのは何なのか、私はわかっていた。
それはイヴマリアの本気の悲鳴だ。
集中の最高点までの速さ、集中の深さ、優れた状況判断、プレッシャーのかかる場面での異常なほどの落ち着き、どれをとっても一番だと思う。これまでの戦闘を振り返ってみて私は気づいたのだった。
だが、二人はその事に気づいていない。
イヴマリアが本気で悲鳴を上げる時というのは、イヴマリアは冷静さを失っておりミカネルの状態だけでなく周りの状況も把握出来ていない状態だ。
一方ミカネルは集中力が極限まで高まっていて、ある意味一点しか見えていない状態でもあったため気づいていないのである。
それにイヴマリアが悲鳴を上げてもミカネルが驚異的な集中力を発動しない場合もある。
それはイヴマリアと同時にミカネルが大声を上げた時だ。
自分の声でイヴマリアの悲鳴が聞こえなくなるのである。こういう事もあったため二人は気づけていないのだと思った。
この事を二人に言うべきかどうか私は迷っていた。
二人がこの事を知る事で変に意識するようになり、ミカネルの驚異的な集中力が発揮しなくなるかもしれないと思ったからだった。
「う~んとね、じゃあさ、頑張れオジサン! とかは?」
「さっきも言ったけどオジサンはダメージが強すぎるよ」
「でも、頑張れ、がついてるよ」
「そんなので中和されないよ!」
イヴマリアはわざと意地悪く言っていて、ミカネルも少しオーバー気味に嫌がっていた。
盛り上げて楽しい雰囲気を出したかったからだ。
ミカネルの首に紐でぶらさがっている小瓶に入ったリーネを元気づけたかったからだった。
リーネはヒューと会えなくなった事で元気を無くしていた。
ミカネル達は楽しそうな雰囲気で話しているがリーネはずっとうつむいていて参加してこようとしなかった。
横から一陣の風が通り過ぎていった。
「あ! リーネちゃん! 風の精霊がいるよ!」
「え!?」
右手上空に風に乗っている風の精霊が見えた。
「そうだ! あの風の精霊にさ、リーネちゃんが元気になったってヒュー君に伝えてもらえばいんじゃない?」
「え? そんな事出来るの?」
「きっと出来るよ! ヒュー君はリーネちゃんの事友達だって言ってたから!」
ミカネルとイヴマリアがそういうとリーネの目に希望の明かりが灯った。
「私、話してみる!」
ミカネルはリーネが入った小瓶のコルクを開けて頭上にかかげた。
「風の精霊さ~ん! 私、水の精霊のリーネ! 風の精霊のヒュー君の友達だよ~! 私元気になったから~! ありがとう!って伝えて~!」
「わかった~ ぼくはヘユー。必ずヒューに伝えるよ」
リーネは風の精霊を見かけるたびに同じように話しかけた。
四回目に話しかけた風の精霊はリーネがヒューに伝言した事をすでに聞いていた。女子の容姿をしていた。
「それは聞いたよ~ 同じ事を何度も言ったらダメよ~ 伝えた相手を信用していない事になるの~ 私達は友達を裏切らないよ~ だから待ってて~」
と言った。
次の日の夕方くらいに私たちが草原を歩いていると風の精霊が風に乗ってきて言った。
「お~い! 水の精霊のリーネちゃんいる~!」
「私よ~! 私、リーネ!」
ミカネルが頭上にリーネをかかげ、リーネは両手を振って応えた。
「ヒューがリーネちゃんが元気になって良かったって言ってたよ~! いつか必ずミュアルの森に行くから待っててって! 僕はホーン! 伝えたよ!」
「わかった! ありがとう、ホーン!」
リーネが両手を振ると、ホーンも両手を振って風に乗って去っていった。
あれから一ヵ月後。
風の精霊から妖精の森の近くの丘をヒューが通れそうだと教えられた。
私と、ミカネルとリーネとイヴマリアは丘に登り、来る日も来る日もヒューを待った。
よく晴れた日だった。
その日の朝の風は微風だったが、徐々に強くなった。
何人かの風の精霊が通り過ぎて行った後にヒューが両手を振ってやってきた。
「お~い! リーネちゃあああん!」
ミカネルは急いでリーネを小瓶から木の桶に移した。
そして桶を頭上にかかげた。
「ヒュー君! 私はここだよ~!」
リーネは木の桶から背伸びをして両手を振った。
ヒューはリーネに気づくと笑顔になり「リーネちゃあああん!」と言って両手を更に大きく振った。
ヒューは風と共にやって来た。
リーネの前を通り過ぎる時、ヒューとリーネはハイタッチをした。
「僕また来るから~! 絶対来るから~!」
ヒューが振り向いて両手を大きく振って言った。
「私待ってる~! 絶対待ってる~!」
リーネも両手を大きく振ってが言った。
リーネはヒューが見えなくなるまでずっと両手を振り続けた。
風の精霊はいたずら者が多い。
風の精霊と知り合いでない者が伝言を頼んでもちゃんと伝える事はあまりなく、嘘を伝える事もあった。
だが風の精霊は友と認めた相手には絶対に嘘はつかなかった。決して裏切る事もなかった。約束は必ず守った。
リーネは水の精霊、ヒューは風の精霊、二人は種族が違っていた。
会える事もほとんどなかった。
だがリーネとヒューは友達だった。
遠くに離れていても、二人はずっと友達だった。




