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リーネのために

「助けて」

 やはりはっきりと聞こえた。

 だが声ではなくテレパシーだった。テレパシーが届くギリギリの距離なのでか細く聞こえたのだろう。

「ん? 今何か聞こえなかった?」

 ミカネルはテレパシーに気づいたようだった。

「多分、古城にいるヒューの声だ」

「そうだよね。風が足りなかったのかな? 今朝・・・ああ!」

「何? どうしたの?」

 ミカネルが驚いて大きな声をあげたのでイヴマリアがビクっと体を震わせて言った。

「リーネちゃん連れて来るの忘れてた!」

「ああ!」

 リーネはヒューの所にいるはずだった。

 鐘を下す作業に入る前にミカネル達は皆よりも早く古城に来ていた。

 そしてミカネルはいつものようにヒューを風で扇いで回復させた後、ヒューの望む位置まで移動させて、隣にリーネが入った水の小瓶を置いたのだった。

「ヒュー君、何か困ってるみたいだし行ってみよう」

 私達はヒューのいる絵画のある部屋に向かった。

 最初はヒューがミカネルに風を扇いで欲しいのだろう、と思ってのんびり歩いていた。だが、古城に入り、部屋に近づくにつれヒューの声が、

「助けて! 誰か! 早く来て!」

 悲痛なものであるとわかってミカネル達は走りだした。

 妖精の森(ミュアルの森)の妖精達もヒバを先頭について来ていた。

 ヒューのいる部屋を開けると、ヒューは泣いていた。

「ヒュー君、どうしたんだい? 何で泣いてるんだい?」

 ミカネルがなだめるように言った。

 ヒューは泣きながら言った。

「リーネちゃんが! リーネちゃんが!」

と言って床を指差した。

 ヒューが指差した床は抜けていた。

 恐らくスロータイガーがやりあっていた時の衝撃で、床が抜けたのだろう。

 これだけでミカネルには何が起こったか理解出来た。

 抜けた床にリーネの小瓶を置いたのがミカネルだったからだ。あるべきはずのリーネの入った小瓶がなかった。

「そんな・・・・」

 床が崩れてそれにリーネが巻き込まれたのだろう。

 ミカネルとイヴマリア、ヒバなど妖精の森(ミュアルの森)の妖精達は事態を理解して青ざめた。

 崩れた床を皆で覗き込むと大分下の階まで崩れていた。暗くてどこまで落ちているか見えなかった。少なくともすぐ下の階の部屋やそのまた下の部屋ではなかった。

「リーネちゃあああん!」

 ミカネルが叫び声が反響した。

 そして皆黙った。

 リーネの反応を待った。

「・・・・ミ」

 かすかにリーネの声が聞こえた。

「下に行こう!」

 イヴマリアが言うと全員が部屋を出ようとした。

「皆待て!」

「何で?! ヒバさん! 早く行こうよ!」

「そうよ! 早くいかないとリーネちゃんが!・・・・」

「皆で行ったら建物がまた崩れるかもしれいない!」

 ヒバの懸念は正しかった。

 スロータイガーがやりあって床に穴があいて以前より建物がもろくなっていると考えて間違いないだろう。全員で移動すると全員の重さと衝撃が集中する事になり更に崩壊する恐れがあった。

「じゃあ、どうすれば?」

「・・・・捜索はミカネルとイヴマリア、あとホタルさんだっけ、この三人が良い。イヴマリアとホタルさんが先導して、床や天井が大丈夫か確認して、それからミカネルが進んでくれ。壁や床が崩れてるならミカネルが取り除いてくれ。でも無理するな。一つの破片を取り除くと雪崩的に崩れる事も考えられるからな。破片を抜くと上から崩れないかどうかを見極めるんだ。一人でダメそうな時は人数を増やしたりしよう。残った人は城の外に出て待とう。皆静かに間隔をあけて移動してくれ」

 イヴマリアとホタルは全速力で飛んで下の階に向かい、ミカネルは走りたいのを我慢して注意深く進んで行った。

 ヒバは城の外に出ると東の妖精の森(モスクラウド)の木の妖精達に事情を話し、東の妖精の森(モスクラウド)にいるすべて花の妖精達をリーネの捜索に協力するよう要請した。

 東の妖精の森(モスクラウド)の木の妖精達はただちに花の妖精達を集め、古城の地下に向かわせた。

 捜索の結果、リーネを見つける事が出来た。

 リーネは地下三階の部屋にいた。

 リーネのいる部屋のドアはつぶれていて開ける事が出来なかった。ドアは木製だったので削る事はできたが、削る事によってドアの強度がなくなり上から崩れる可能性があったため削る事は出来なかった。

 だが絵画のある部屋からリーネのいる部屋は縦につながっていた。

 これを元にリーネを救出する作戦が練られた。

 水の入った小瓶をロープでつないで絵画のある部屋から垂らし、イヴマリアとホタルが小瓶をリーネのいる所まで誘導して下ろす。リーネ回収後、ミカネルがロープを引いてリーネが入った小瓶を回収するという方法で行く事になった。

 日が沈んでいて辺りは暗くなっていた。

 絵画のいる部屋だけでなくその下の階も当然暗かった。古城は暗闇に包まれていた。当然リーネのいる部屋も暗くて見えなかった。リーネの位置は声でわかったものの、リーネは話せる状態ではなく、どんな状態になっているかもわからなかった。

 ミカネル達が先ほど調査に行った時、リーネのいる地下三階から油の臭いで充満していたと言っていた。そのため松明を焚いての作業は危険だったので出来なかった。

 リーネはどんな状態かわからないが弱っているのは確かであり、急がねばならなかった。

 暗闇の中で煌々と光っている私をみてミカネルが閃いた。

 城にいくつか鏡があり、それを何枚か用いて私の発する光を反射させて下で作業するイヴマリア達に光を届ける事になった。

 私はリーネ救出のために何かしたかったため、張り切って全身の炎を高めた。

ラーシリア(ラーさん)! 熱すぎるよ! もっと炎を下げて! 光は十分なんだから!」

 私は炎をレベルを下げた。

 私の炎から鏡が光をリレーし、光は無事イヴマリア達の元に届けられた。

 そしてリーネを救出する事に成功した。

 だがリーネはぐったりしていて元気がなかった。

 リーネのいた部屋は油の貯蔵室だった。

 スロータイガーが決闘した際の振動で、古城が揺れ、三段に詰まれていた油の入っていた樽が崩れて脂が流れ出ていた。

 運が良かったのは樽が倒れて、床が油で浸された事だ。

 このおかげでリーネが入った瓶が落下して割れたが、水が油に浮いて地面に染み込む事がなかった。だがその油は良くないものでもあった。油と水は混ざらないが、油は水に臭いなどを移す。

 リーネは水の精霊だ。綺麗な水はリーネを元気にするが汚い水はリーネの元気を奪う。油に接する事でリーネは体調が悪くなっていた。

 ミカネルが持っていた綺麗な水にリーネを急いで移しかえたが体調は戻らなかった。

「リーネちゃん!」

「リーネちゃん!」

 皆リーネに声をかけたがリーネは目を開ける事はなかった。

 リーネは生命が危険なほどに弱っていた。

「ヒバさん、どうしたらいいの?」

 ミカネルが辛そうな顔で言った。

「同じ水の精霊に精気を分けてもらうしかない。それか・・・・土の精霊だ。水の精霊は風の精霊に精気を与えられるように土の精霊は水の精霊に精気を与えられるはずだ」

「水の精霊や土の精霊はこの辺にいますか?」

 ミカネルが東の妖精の森(モスクラウド)の木の大人の妖精に聞いたが木の大人の妖精ははすまなそうに頭を横に振った。

「すまない。この辺には水の精霊も土の精霊もいないんだ」

「・・・・そうですか・・・・・・・・そうだ! 水の精霊なら一人知ってる! シュタ湖までリーネちゃんを運んでいけば・・・・」

「シュタ湖だって? ここからずいぶん遠いぞ。何日もかかる」

 ジンゴロが言うと場が重い空気で満たされた。

 ジンゴロの意見は建設的なものではなかったが、現実的であった。

 私が運べれば良いのだがそれは出来なかった。

 軽いものであっても私が念力で持つにはある程度ひきつける必要があった。

 私の熱で水はお湯となってしまうだろう。ロープにつないでもロープは燃えてしまう。鎖でも熱が伝わってガラスでも陶器でも熱してしまう。今の弱った状態のリーネではお湯に耐えられないだろう。

「シュタ湖は遠いけど・・・・それでもやっぱりシュタ湖まで行くしかないよ! 何日もかかるけど・・・・それしかないならやるしかないよ!」

「そうね! 行こう!」

 ミカネルの提案にイヴマリアが賛同した。

 私も賛成だった。

 このままリーネが弱っていくのを指を加えて見ているよりは、リーネが助かる可能性が少しでもある方へ進むべきだ。

「僕が探してくるよ」

 ヒューが言った。

 さっきまでヒューは泣いていたが、今は涙は止まっていた。

「僕がここから一番近くにいる水か土の精霊を探してくるよ」

「どうやって?」

「僕がここを出て他の風の精霊に聞くんだ。皆はいろんな事を知ってるし多分協力してくると思う・・・・」

 風の精霊は風に乗る事が出来る。

 風に乗って遠くへ行く事も出来る。だが風自体をコントロールする事は出来なかった。

 風に乗ってここを出るという事はもう二度とここに戻って来れない事を意味していた。

 ヒューは絵画を見上げた。

「ちょうど絵に飽きてきた所だったんだ」

 ヒューが嘘を言っている事は私だけでなく、ミカネル達もわかっていた。

 ヒューは一生ここにいると言っていたのだ。

 ミカネル達が古城の探索をしている時もヒューだけはこの部屋から出ようしなかったそうだ。

「床に穴もあいてさ、風も少し吹くようになってどうせいられないしね・・・・」

 ヒューは絵画をじっと見つめていた。

 もう二度と観れない絵画を自分の目に焼き付けようとしているようだった。

「・・・・リーネちゃんは僕の友達だ・・・・命の恩人だ・・・・だから今度は僕が助けるんだ・・・・さあ、ミカネルさん、窓を開けて僕に風を当てておくれ」

「ヒュー君・・・・」

 ミカネルは色んな感情が混ざった表情になっていた。

 出来る事ならヒューにはここに居させてあげたかった。でもリーネの事を思うと引き止められなかった。

 ミカネルの目には涙がにじんでいた。

「ありがとう・・・・頼んだよ」

 ミカネルは窓を開けた。

 夜空は雲一つなく月が煌々と輝いていた。

 ミカネルは板切れでヒューを扇いだ。

 ヒューは窓から出ると風に乗った。

「絶対! 絶対に見つけてくるから~! 風のよく通る所にいて待ってて~!」

 ヒューは風を次々に乗り換えて、遠ざかって行った。

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