皆の出した答え
私達は東の妖精の森に帰ってきて長老に調査の結果を報告した。
辺りは暗くなっていた。
東の妖精の森は白い花が一面に広がっていて、暗さと相まって幻想的な雰囲気になっていた。
私達の調査の結果が気になったのだろう、東の妖精の森の妖精達が皆集まっていた。
妖精達はミカネルが長老に話す報告を真剣に聞いていた。
「なるほど、兵器として使われていた鐘が原因だったのか」
「虎の魔物じゃなかったんだな」
ミカネルの話が終ると妖精達はそれぞれの思いや考えを一斉に話し出した。
「木ならいっぱいある。それを鐘の下からつっこんで動かなくすればいんじゃないのか? 確かに燃えたら一大事だが、あんな高い所に火種となるものが飛んで行くなんて事まずないだろう?」
「でも万が一って事も考えられないか? 俺は嫌だぜ、吸い込んだら死んじまうようなものが俺達を見下ろせる場所にぶらさがってるなんて」
「取り外すのが一番なんだけどな」
「でもあんたの力でも無理なんだろう?」
木の大人の妖精がミカネルに言った。
「うん、あの鐘は重くてね、とても俺一人じゃ持ち上げる事は出来ないよ。それに足場も悪くてさ。床が抜けてるんだ。ここにいる皆でも無理だと思う」
「鐘を木の板なんかで囲えばいんじゃないか?」
「でも足場が悪いんだろう? それに木は燃えるじゃないか」
「じゃあ、どうする?」
と木の若者の妖精が言うと皆口を閉ざした。
東の妖精の森の妖精達が鐘に火がつくかもしれない事を恐れるのは理解出来た。
目の前に火の塊である私がいるからだ。
私を気遣ってか誰も私の方は見ないがそれくらいは察しがついた。
先ほど木の妖精が指摘した通り、一般的に考えればあんな高さの所に火種が飛ぶ事はありえないが、私のような者もいるのだ。
私のような者が古城の上空を飛んで、鐘とすれ違う時、うっかりあの鐘に触れでもしたら、私のような者は何ともないがその下で暮らす生物達は息絶えてしまう。
火の特殊精霊はどこにでもいるわけではないが、妖精の岩山のタキビのような者もいる。
「オイラより高い位置にあるなんて生意気だ!」
と、鐘に対してわけのわからない因縁をつけて突っ込もうものなら、タキビは平気だがやはりその下で暮らす者達は大惨事になってしまう。
やはり鐘は下ろして、出来れば城の中に入れるのがベターだろう。
だがどうやってその鐘を下ろすかだ。
私の念力では無理だった。
私の念力はそれほど強くない。ミカネル一人持ち上げるくらいなら出来なくはないが、持ち上げる強さを発揮させるには体の近くに引きつける必要があった。そんな事をすれば当然ミカネルは無事ではすまない。そしてあの鐘は絶対に燃やしてはならないのだ。
「ねえ、スロータイガーって力持ちっぽいよね?」
ミカネルの左肩に乗っていたイヴマリアが脛をクロスさせてブラブラさせながら言った。
「あ・・・・」
翌日。
私達は再び川へ出かけて魚を仕留めた後、スロータイガーに交渉しに行った。
スロータイガーは魚に対しては大層喜んでくれた。
だが鐘を下ろす作業については断られた。
「ムリムリ! 俺が巣を空けている間に未来のお嫁さんが来たらどうするんだ? 俺はその為だけに生きてるんだぞ! おまえらで何とかしてくれ。あ、でも魚はありがたくもらっておくぞ。そこは好きに通って良いからな」
という事だった。
私達は再び東の妖精の森に帰って長老や妖精達と話し合った。
そして出た答えは、妖精の森の妖精達と妖精の岩山の妖精達を呼んで来て、皆で鐘を外すという結論に至った。
各妖精の森への連絡は私が担う事になった。
ミカネル達と共に移動すれば数日かかるが、私一人なら二十分もあれば妖精の森まで帰れた。
だが妖精の森、妖精の岩山の妖精達に事情を話したからといって速やかに事が運ぶというわけではなかった。
それぞれには事情が有り、準備に時間はかかるだろうし、魔物は私一人で対処出来るが彼らを運ぶ事は出来なかった為、東の妖精の森まではやはり全員が歩いて来なければならないので、数日かかる事が予想された。
しかし他に選択肢がなかった。
私はすぐに飛び立ち、先に妖精の岩山に寄ってから妖精の森に帰った。
妖精の森はヒバを中心に、妖精の岩山はジンゴロを中心に力のある木の妖精が集まり、東の妖精の森へと向かった。
予想していた以上に東の妖精の森に着くまで日数がかかった。
妖精達は基本的に産まれた森で育ち、生活して歳月を費やし、森を出る事なく死んでいく。
妖精の森の外の世界はすべてが珍しかった。
珍しい景色に見とれて一人が足を止めると皆も足を止めてしばらく眺めた。
これまで妖精の森同士の交流もなかった。
最初は少しぎこちなかったものの、ミカネルやイヴマリアなど共通の話題もあり、妖精の森の妖精達と妖精の岩山の妖精達はすぐに打ち解けた。
そんな感じだったので東の妖精の森に着くまで大幅に遅れた。
だが楽しそうに話すヒバやジンゴロ達を見ていると、せかす気にはなれなかった。
ミカネルやイヴマリアと一緒に旅をしていると道中はいつもこんな感じでもあった。
私やミカネルが最初に東の妖精の森に来た時、森の入り口で妖精達が待っていてくれたようにミカネルとイヴマリアが待っていた。
数日間かかった事で、ミカネル達は東の妖精の森の妖精達と仲良くなっていた。
花の妖精のホタルとも仲良くなっていた。
魔物の言葉がわかるホタルは語学全般に興味があった。
人間が作った文字にも興味があってミカネルに読み方や単語や文法などを聞いていた。
鴉人は人間の字を使うが、本も収拾していて、古城には本がたくさんあった。
ホタルが興味がある本を本棚から選び、ミカネルがその本を取った。本はホタルの身体と同じくらいの大きさでホタルはページを開く事は出来ても本を持ち運ぶ事は出来なかった。
ミカネルが椅子に座って本を開き、肩に乗っているホタルに読み聞かせた。
ホタルは最初開いた本の前に座っていたのだが本の全体を見渡たせなかった為、本の全体を見える位置を探して、立ち上がったり、後ろに下がったりしていた。高い方が見渡せる事に気づき、ミカネルの腕に登って座った。より高い方が見やすいという事で、最終的にミカネルの肩に至った。
ホタルに、ミカネルの腕や肩に登っているという意識はなく、本に夢中で本から目を離さずに移動していた。
ミカネルと目が合うと我に返って、顔を赤らめて肩から降りようとした。
「す、すいません、つい・・・・」
「全然良いよ。そこが見やすいんでしょ?」
「・・・・はい」
と言って降りかけていたミカネルの右肩に座り直した。
ホタルはミカネルの肩に乗っている時、足を斜めに綺麗にそろえて座るのだそうだ。
イヴマリアは足を組んでいる時もあれば、ブラブラさせている時もあり、座り方にも個性があるとミカネルは言っていた。
本を読む時ホタルはミカネルの肩に乗るようになった。
その時必ず「失礼します」と言ってから座るのだそうだ。
イヴマリアにはそんな風に言われた事がなかったから、ミカネルはホタルが肩に乗る時は姿勢を正すようになったと言っていた。
イヴマリアはいつも通りで「休ー憩ーい!」と言ってミカネルのフードにダイブして、そのまま寝てしまったり、起きて肩に乗ったりと自由だった。
フードで寝て起きた時は、大体はすぐフードを出る事なく、フードに下半身を入れたまま、ミカネルの肩に両腕と顎を乗せた状態でしばらくぼんやりしている。何度か小さなあくびをして完全に目が覚めると肩に乗ってくる。
ホタルがミカネルの肩に乗る事には何も言わないが、フードだけは断固として使わせなかった。
フードの所有者であるミカネルもフードは使っては駄目なそうだ。
「え? 俺も駄目なの?」
「ダメ~! 絶対ダメ~! だって私の部屋みたいなものだから」
フードはイヴマリアのものになった。
ミカネル達は古城にいる風の精霊のヒューとも仲良くなっていた。
リーネがヒューに会いたがるので、ミカネルとイヴマリアとホタルはリーネを連れて毎日古城に行った。
スロータイガーとは顔見知りなので、ミカネルが手を上げるだけでスロータイガーはうなずいて通してくれるようになった。
ヒューのいる部屋に入るとヒューは必ず「ミカネルさん、風を下さい」と言うのだそうだ。
ミカネルは部屋の隅にあった板の破片でヒューを扇いでやる。
しばらく扇いでヒューが元気になると、今度は絵画の前に来る様に調整して扇ぐ。これが中々に難しいらしい。その日によって注文する位置が違うし、ヒューが絵画を観たい位置を細かく頼んでくるようなったからだった。
「もう少し右・・・・もうちょっとだけ右・・・・あ、行き過ぎ」
今までは隙間風に吹かれてその都度位置がかわっていて、絵画が遠かったり斜めになっていてもそれを受け入れるしかなかった。だがミカネルに頼むと自在に位置を変えられる事が出来た。
ヒューの位置が決まると隣にリーネが入った小瓶を置き、全員が座って、絵画を前にして話しをするのだそうだ。
お互いの事を聞いたり話したり、妖精の森の事を話したり、東の妖精の森の事を聞いたり、絵画について話したりと和やかな雰囲気で盛り上がる事が出来た。
古城の中を探索もしたのだそうだ。
古城は上に四階あるが、地下も四階まであり、広くもあって、スロータイガーの縄張りのすぐ近くまで部屋があったのだそうだ。
古城の本棚には物語もあったから、午後になると本を持ってきてミカネルが読み聞かせる朗読会が開かれる事もあった。
風の精霊は元来話し好きだ。
ヒューも例外ではなく、喋るのが好きだった。
そしてリーネは話を聞くのが好きだった。
ヒューは風の精霊でリーネは水の精霊。
二人は種族が違っていたが相性が良かった。
二人はすぐに友達になれた。




