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音の正体

 水の精霊のリーネをガラスの瓶に入れ、私達は古城に向かった。

 リーネは東の妖精の森(モスクラウド)の妖精達とお喋りをしていて、説明は後でするからと言って、結構強引に連れてきた。

 ミカネルだけでなくイヴマリアもホタルも真剣だった事から、リーネも東の妖精の森(モスクラウド)の妖精達もただならぬ状況だと理解して、引き止めて事情を聞いたりはしてこなかった。

 古城への道中でミカネルとイヴマリアがリーネに風の精霊の状態を説明した。

「うん、わかった。私やってみる」

 風の精霊のいる部屋に入り、ミカネルは風の精霊の近くにリーネが入ったガラスの瓶を置いて、コルクを外した。

「・・・・・」

 リーネは風の精霊を救おうと真剣だったが、精気を分けた事がなかった。

 リーネは風の精霊に手を当てて、色々試していた。

「あ・・・」

「どうしたの? リーネちゃん?」

「出来るかも・・・・こうやって、多分こうやれば・・・・」

 リーネの両手がボンヤリ光ると風の精霊に吸い込まれた。

 風の精霊の身体の色が少し濃くなった。

「あ・・・何これ?」

 風の精霊が不思議そうな顔で言った。

「・・・もう少し風を・・・・人間さん、僕に風を・・・・」

「う、うん」

 ミカネルは手で扇いだ。

「もっと、もっと、風を下さい」

 ミカネルは部屋の隅にあった三十センチ四方の板の破片で風の精霊を扇いだ。

 すると風の精霊は扇がれた方に移動した。

 それを何度か繰り返していたら元気になった。

「人間さん、僕を救ってくれた水の精霊さんの所に仰いで下さい」

 部屋の隅まで移動していた風の精霊をミカネルはリーネの近くまで板片で扇いだ。

「ありがとう! 本当にありがとう! 君は命の恩人だよ!」

「良かった。元気になって」

 だがリーネの身体の色が少し薄くなっていた。

「リーネちゃん、大丈夫?」

 イヴマリアが心配そうに言った。

「平気。少し休めば大丈夫」

「精気は使ったが致命的な量ではないから、リーネの言う通り水の中で少し休めば回復するはずだ」

「君はリーネっていうんだね。僕は風の精霊のヒュー」

「君には名前があるの?」

「あるよ。風の精霊は生まれた時に最初に出会った風の精霊から名前をもらうんだ」

 ほう、それは知らなかった。

 だが考えてみれば当然かもしれない。風の精霊は仲間同士で情報を交換する。それに風の精霊同士の情報を伝達もするそうだから、その時相手を識別する必要が出てくる。

「君はなぜこんな所にいるんだ」

「最初はあそこから迷いこんで来ちゃったんだ」

 ヒューは窓を指差した。

 窓の隙間風からヒューはこの部屋に入って来た。

「隙間風が吹いているなら外にも出れたんじゃないか?」

「うん。隙間風が逆向きの時もあったから出ようと思えば出れたけど、僕はこの絵が好きだからどこにも行かなかった」

 ヒューの視線の先には絵画があった。

 壁に打ち付けられた絵画は、縦一・五メートル横二メートルの大きなもので、赤と青の無数の点やさまざまな太さの線などがいりまじった絵だった。

 抽象画という奴らしい。ヒューはうっとりした表情でこの絵を眺めているが、これの何が良いのかは私にはさっぱりわからなかった。

「あ、説明が書いてある」

 抽象画の横に文字が書かれていたのをミカネルが見つけて言った。

「あなた、鴉人の字が読めるの?」

 ミカネルの肩に乗っていたイヴマリアがミカネルの顔を覗き込んで言った。

「ううん。これは人間の字だよ。鴉人は人間の字を使ってたんだね・・・・この絵の作者も人間らしいよ。そう書いてある・・・・タイトルは[友愛]だって・・・・でもこの絵の良さは俺にはわからないな」

 抽象画は人間でも一部の人にしかわからないそうだが、わかる人には時に涙を流すほど感動したりもするのだそうだ。そして絵画とは、絵とタイトルが合わさって、またタイトルをヒントに絵を読み解いたりもするものらしい。

「友愛! そうだったのか! 何かそんな感じがしてた! 僕達に似てるんだ! だから僕は好きなんだな!」

とヒューはえらく納得していた。

「ねえ、ここには君の他に誰かいるの?」

「さあね、ぼくはここから出た事がないからわからないよ。でも気配は感じた事がないかな・・・・あ、たまにおっきな音がするようになったよ」

「あの音ってギーンっていう音」

「うん」

「俺達はあの音を調べにきたんだよ。君はあの音が何かわかるかい?」

「ううん、わからない。でもそういえばズシーン、ズシーンっていう大きな音がして建物が揺れた事があったんだ」

「建物ってこの古城が?」

「うん」

 この古城が揺れるほどの衝撃か。相当なものだな。何なのだろう?

「その後から、あの音がするようになったんだ。その時から窓の隙間風も少なくなくなったんだよ・・・・それまでは窓の隙間があって、たまに吹く風で元気になってたんだ」

 建物が揺れるほどの衝撃なのだ、窓が閉まっても不自然ではないな。

「そうか。俺達は音を調べに行くけど、君はどうする?」

「僕はここにいるよ。この絵をずっと観ていたいんだ」

「そっか、じゃ・・・」

「あ、待ってミカネルさん! 窓を少し開けて、隙間風が入るようにしておくれよ」

「うん、わかった」

ミカネル(ミカ)、私もここにいて良い?」

 リーネがミカネルを見上げて言った。

「え? 何で?」

「あの絵が気になるの」

「そっか。ヒュー君、リーネちゃんがここにいても良いよね?」

「もちろん! リーネちゃんは僕の命の恩人だし、もう友達だよ! 僕が絵の説明してあげるよ!」

 ミカネルはリーネが入ったガラスの瓶を風の精霊の隣に置いた。

 私達は音のした方に向かった。

 音は上からしていたので、階段を見つけて上がって行った。

 屋上に出ると音の原因が目の前にあった。

 三メートルほどの大きな紫色の鐘が四本の支柱に支えられて屋上のど真ん中にあった。

「あれだよね? 音の原因?」

「うん。そうだと思う。試してみよう」

 ミカネルが小石を拾って紫色の鐘に投げた。

 ギーン

 私以外の全員が耳を塞いだ。

「やっぱり! これよ!」

「そうだね! ・・・・でもどうやって鳴るんだろう?」

「風じゃない?」

「・・・・いや、違うと思う・・・・・やっぱりね。ビクともしないもの」

 ミカネルが鐘を手で触れてみたが動かなかった。

 そもそもこの鐘を吊っている部分は可動するタイプのものではなかった。しっかりと固定されていてビクともしなかった。

「ん? 危な!」

 そう言ってミカネルは後ろに後退(あとずさ)った。

「どうしたの?」

「床が崩れてるよ」

「本当!」

 鐘は宙吊りになっているがその下の床が崩れて中が見えていた。

「部屋があるね・・・・何かレバーみたいなの見えない?」

「うん、見える」

「ひょっとして鐘をコントロールする部屋かな?」

 私もその可能性は高いように思った。

 鐘はミカネルが押しても動かないのだ。当然風でも動かない。であるならば通常の鐘とは違う仕組みで音がすると考えるのは不自然ではない。それに鐘をコントロールするものは鐘の近くに見当たらなかった。

「行ってみようよ」

 私達は屋上の鐘の下の部屋に行った。

 ドアは非常に開きづらくミカネルが相当苦労して開けた。

 先ほどは屋上に居たので床だが、今はそれを見上げているので天井という事になる。天井のレンガの一部が崩れて、鐘が見えていた。

 この部屋のドアだけ他の部屋のドアと比べてやたら分厚かった。そしてドアにも壁にも天井にも布団のような柔らかい素材になっていた。

「何か、ここ静かじゃない?」

 ミカネルの右肩に乗っているイヴマリアが言った。

「そうだね・・・・あ、やっぱりここが鐘をコントロールする部屋なんだよ。上で鐘が鳴ってたらうるさいからさ、この部屋は静かになってるんじゃない?」

 そう考えるのが自然だ。

 壁にレバーが三つあった。

「ミカネルさん、そこに何か書かれてあります」

 ホタルがレバーの下を指差して言った。

 文字が書かれてあるプレートがあった。

「一番左のレバーが一回だけ鳴らす事が出来て、真ん中のレバーが連続で鳴らす事が出来て、一番右のレバーが停止させるやつみたい」

「一回だけ鳴らしてみようよ」

「うん」

 ミカネルが一番左のレバーを操作したが鐘はならなかった。

 真ん中のレバーも停止のレバーも操作したが何の反応もなかった。

 状況から察するに、何らかの原因で鐘をコントロールする部分が壊れてしまった。コントロール部分が何かの拍子に復活し、たまに鐘を鳴らしているのではないか、という結論に私達は至った。

「ミカネルさん、あそこにも何か書かれてあります」

 ホタルが指差した壁にプレートがあってそこに字が書かれてあった。

 ミカネルがそれを読むと驚いた表情になった。

「・・・・これは、ただの鐘じゃない。兵器だよ」

「兵器?」

「うん、不快な音を出して両手で耳を塞がして武器を使わせなかったり、気分を悪くさせるために作られたものだよ」

「それであの嫌な音だったんだね」

 イヴマリアが納得したようにうなずいた。

 鴉人は賢いな。音を兵器とするとは。直接攻撃せずに相手を無力化する、中々に面白い発想だ。

「鐘の中の上部に鐘を鳴らす短い棒みたいな奴があってそれをあのレバーで操作して鳴らすみたいだね・・・・・え? 嘘だろ?」

「何? どうしたの?」

「この城を放棄する時以外は、絶対に燃やすなって書いてあるんだ」

「燃やすとどうなるの?」

「燃えないんだって。特殊な素材で出来てて、燃やそうとすると細かな粒子になって散らばるんだって。それを吸い込むと肺に入ってダメージを与えるみたいだよ。それがこの鐘の最後の使い方みたい」

 ほう、それで屋上には鐘しかなかったわけか。

 音を響き渡らせるためにも、最後に燃やして使うにしても遮るものはない方が良いからな。

 だが燃やせないとなると、私ではこの鐘をどうする事もできないな。

 鐘をコントロールする部分が壊れているのだから、銀炎の槍を連発して燃やそうか、とミカネルに提案しようとしていたが無理のようだ。

「じゃあ、どうするの?」

「う~ん、どうしようか? 足場は崩れかかってるし、鐘は重そうだから俺一人で外すの絶対無理だしね・・・・とりあえず、何かをかませて音をならないようにしよう」

 ミカネル達は古城の中を調べて木材をいくつか見つけた。

 木材を鐘の下から中に入れた。

 固定されてはいるが強風や雨などが降っても絶対もつ保証はなく、また鐘を鳴らす装置が動いたら外れる事も予想されたので、応急処置でしかなかった。だが今出来る事はこれくらいしかなかった。

 私達は一旦東の妖精の森(モスクラウド)に帰る事にした。

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