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森の長老

「長老様? 起きられたのですか?」

 ヒバさんがどことなく上に向かって話しかけると妖精の森全体に響き渡る大きな声がした。

「ああ・・・・ふう・・・・・おはよう。みんな」

 森にいる全員が見上げて「おはようございます」と口々に言った。

 長老様はテレパシーで会話をする。

 心に直接問いかけてくるんだけど、上から聞こえるような感じがした。

「あ、長老様、俺らの声で起こしちゃいましたか?」

 俺も見上げて言った。

「俺ら、って何よ! あなただけでしょ!」

「え? イヴマリア(師匠)も結構大きな声だったよ」

「違うわよ! あなただけよ!」

 俺と師匠がまた言い合いになると、「ハ、ハ、ハ、違うよ」と穏やかな声で長老様が言った。

 妖精の森には長老様がいて名をムウゼンと言った。

 長老様は、最初は妖精の森の中心にある大きな木だったけど、今は妖精の森を含めたこの森そのものになっていた。

 妖精の森の入り口は大きな木の幹で、普段は閉じられているけど、長老様が認めた者は地下空間に入る事が出来た。

 長老様は眠っている時もボンヤリと意識はあるから、俺達は長老様が寝ている時でも自由に妖精の森を行き来する事が出来た。

 今俺が座っている椅子や机は一本の木の根が曲がってそういう形になっていて、誰かが切ったりくっつけたりして加工してない。

 長老様の意思で自由にそういう形にできた。

 長老様は十万年生きていた。

 そして世の行く末をずっと見てきた。長老様の話だと人間は四度滅びかけたらしい。そしてその都度また繁栄した。

 今の人類は五期目なんだそうだ。四期目の人間の世界は今のように魔法を使える者はいなかった。かわりに科学というものを人は使っていたそうだ。

 そしてこの辺りは昔日本という名の国だった。

 長老様は、人の身体に触れる事でその人の前世を見る事が出来た。

 俺の前世は人類の四期目の日本という国に生まれていて、名を加藤頼路(よりみち)と言った。俺は長老様から自分の前世の話しを熱心に聞いた。

 加藤頼路は、一般の中小企業に就職していた。

 平日はまじめに仕事をして、休日はゲームやアニメ、ネットに時間を費やしていた。顔は悪い方ではなかったが、傷つく事を恐れて彼女が出来た事はなかった。それとひっそりとガスガンやモデルガンを集める事を趣味にしていた。

 長老様は普段は寝ている事が多いけどたまに起きるとこんな風に前世の事を話してくれた。おかげで人類の四期目の事はかなり詳しくなった。

 距離はセンチやメートル、重さはグラムなどと言っていたそうだ。速さにもキロという単位を使ってそうだ。

 今の世界にも長さを測る単位はあるけど、専門の職業以外使う事はなかったから存在は知っていたけど覚えようとしなかった。だが覚えてみると結構便利だった。

 俺が長老様から頻繁に前世の事を聞く事で妖精の森では俺の前世の言葉が流行った。

 皆もわかるようになっていて、単位だけでなくあの時代の言葉も普通に使われるようになった。俺達が暮らしている地面は一見平らなように見えるけど、遠くから見ると実は丸くなっていて、地球と呼ばれていた事も知っていた。

 俺の前世、人類の四期目にも、その前の人類の三期目にも妖精も精霊も存在していた。でも、精霊を見れる人間は極一部の人しかいなかった。

 人間の魔力が低かったからだ。

 でも妖精は精霊と違って実体があるから魔力がなくても見る事ができた。だから注意力のある人間が妖精を見かける事がたまにあった。

 でも長老様が木や草を操作できるから、それで妖精達を隠したり、人間を違う方向に誘導する事が出来たから世界のあちこちで目撃はされても噂の域を出る事はなかった。

 人類の四期目が終った後に、地球に隕石が降ってきた。

 その隕石には魔力が含んでいて、地球上に魔力が降り注いだ。その影響でその時わずかに生き延びた人類だけなく他の生物も魔力を持つようになった。

 それから生物は進化し、魔力を帯びた魔物や頼路の時代で御伽噺の存在だったドラゴンが生まれたり、人間にも姿を変えられる獣人なんかも生まれたって長老様が言っていた。

 長老様が起きたんだから、後でまた前世の話でも聞こうかな。

 俺は前世の事は今の自分の年齢より先の事を聞かない事にしていた。だから俺が知っているのは西暦2025年までだった。一気にすべて聞くよりもちょこちょこ聞いた方が俺は好きだった。

「大変だ! フェニックスが森の近くに来てる!」

 木の妖精の子供が走ってきて言った。

「フェニックス?」

 皆がざわついた。

 フェニックスは隕石によって生まれたのではなく、妖精や他の精霊と同じくずっと前から地球上に存在していた。

 昔から有名だけどほとんどの人が見た事はなかった。

「ワシに会いにきたんじゃよ」

 長老様が言った。


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