鴉人の古城
私達は魚を手に入れるため川に向かった。
川はスロータイガーのいた所からわりと近くにあった。
川に行く道中、ホタルが疲れている様子だったのでミカネルが言った。
「ホタルさん、疲れたよね。フードの中に入って休んで良いよ」
「え?! ダメ~!」
と言ったのはイヴマリアだった。
「何で?」
「ここは、私の部屋みたいなものだから」
「でも今は使ってないから良いじゃない」
「ダメ~ ・・・・あ、肩なら良いよ。肩」
イヴマリアはミカネルの右肩に座っていて、左肩を指差して言った。
「あの、大丈夫ですから・・・・」
とホタルは遠慮した。
だが顔に疲れがにじんでいた。
先ほどスロータイガーと話をしている時ミカネルの背後にいたとはいえ、魔物が近くにいて言葉を訳すという普段しない事をしていた。それに私達とも今さっき会ったばかりでどれだけ信頼できるかというのもわからなかった。疲れるのは無理もなかった。
「そうだ、魚取るなら釣竿作らなきゃ! 俺そこの茂みで道具を探してくるからさ、ラーシリアとホタルさんはここで待ってて」
ミカネルは茂みの中に入って行き、イヴマリアも一緒について行った。
ホタルは小道から少し離れた所の小枝に腰掛けて、ほっとした表情を見せた。
川に着いて、ミカネルは木と蔦で作った即席の釣竿をたらした。
ミカネルは、釣りはした事がないから自信がないと言っていたが、夕方まで頑張ったが一匹も釣れなかった。
明日また釣りをしてみようと言って帰ろうとしたら、水面から大きな魚が飛んできて、背を向けているミカネルに襲い掛かった。
私が銀炎の槍で大きな魚を撃ち抜いた。
「おお、びっくりした・・・・ありがとう、ラーシリア」
「ああ」
「お魚ゲットだね」
今日はもう遅いので明日スロータイガーの所に行く事にした。
翌朝、昨日取った魚を持ってスロータイガーの所に向かった。
「イヴマリア、昨日スロータイガーに話しかけた時、手をこうやってたけど、あれ何でやってたの?」
イヴマリアはスロータイガーに話しかける時、人間の子供が肉食獣を真似する時のように、顔の横に手を持ってきて指を半分だけ握った状態で言っていた。
「ああするとね、スロータイガーになった気分になれるの」
「俺もう一回試してみても良いかな」
ミカネルはホタルから魔物の言葉を聞いて、イヴマリアを真似て言った。
「ガ、ガウガ!(魚持ってきた!)」
スロータイガーは「何?」という表情で見つめるだけで何も言わなかった。
「ミカネルさん、発音が違います」
「そうなの?」
「こうだよ。ガ、ガウガ!」
「ガウ? ガウ、ガーガウガ!(マジ? よし、もって来い!)」
やはりイヴマリアが言うと通じた。
ホタルはミカネルに正しい発音を言っていたがミカネルは違いがわからなかった。私も違いがわからなかった。
「ガウガウ、ガーガーガ。ガウガーガ(約束だ、通って良いぞ。でも端を歩けよ)」
スロータイガーは魚を食べながら縄張りの端を指差して言った。
ミカネル達は縄張りの端を歩き、私は遥か上空を飛んで古城に向かった。
鴉人の古城は大きかった。
城自体も大きかったが、扉、廊下、階段、部屋など人間が作る城に比べて、すべてが大きく広く作られていた。扉の高さや階段の幅などは人間が作る城の三倍は広かった。
古城が大きく広いのは、この古城を作った鴉人のサイズに合わせたからだろう。鴉人は人型の時は一般的な人間と同じサイズだが、鴉に姿を変えると羽を広げると四メートルほどの巨鳥になるのだそうだ。鴉の状態でもスムーズに移動するために大きく広く作られているのだ。
建物内はほとんどが石で出来ていたため私も入る事が出来た。
当然入り口の扉は開けっぱなしにしてある。酸素がなくなってしまうからな。
ギーン ギーン
と不快な音がした。
古城に入ると、嫌な音は大きくなっていた。
「すごい音ね」
「そうだね、やっぱりこの上からするね・・・ん? 今何か聞こえなかった?」
ミカネルが耳を押さえながら辺りを見回して言った。
「何? 何の音?」
「何か助けを求めるような感じの・・・」
「私にも聞こえた」
かすかにだが聞こえた。
だがこの声は人間や妖精の声でなかった。
「そうだよね!」
「え? でもさ、ここって誰もいないんじゃなかったっけ?」
とイヴマリアが言うと皆言葉を失った。
古城は音一つなく静かになった。
「・・・・・・助 け て」
「聞こえた!」
「だよね!」
「私にも聞こえました」
全員が声を確信した。
「恐らく、あの部屋だ」
私は三階の部屋を右羽の先で指した。
「行ってみよう」
私達は階段を上り、声がした部屋の前まで来た。
ミカネルはショルダーバックからフェニックスリボルバーを取り出した。
「じゃ、開けるよ。ラーシリア、魔物とかだったらよろしくね」
「ああ、まかせてくれ。でも多分魔物ではない。恐らく私と同じような者だと思う」
「同じようなっていうと・・・・精霊? そうか直接心に声が届く感じがしたもんね。何で気づかなかったんだろう?」
「私と話す事が日常的になっていたからではないか?」
心に問いかけられる事は人間でも妖精でも一般的にあまりない。ミカネル達は私やリーネなど精霊と自分達と話すのに慣れてしまっているので違いがわからなかったのだと思った。
「そっか、そうだね。精霊なら悪い人はいないよね」
ミカネルがフェニックスリボルバーをショルダーバックにしまった。
ミカネルが扉を開けた。
「助けて・・・・」
部屋の中にいて助けを求めていたのは、やはり精霊だった。
精霊は部屋の真ん中、それも空中に浮いていた。
「風の精霊?」
イヴマリアが言った。
全長十五センチくらいの小さな風の精霊だった。
人間の少年のような顔立ちをしていた。
苦しそうに顔を歪めていた。
「助けて・・・・風を・・・・風を下さい」
「風? 風が欲しいの?」
風の精霊は何度もうなずいた。
「これで良いのかな?」
ミカネルは手で風の精霊を扇いだ。
水の精霊は水に宿り、風の精霊は風に宿る。
水の精霊は水なしでは生きていけないが、風の精霊は空気の精霊でもあるので風がなくてもすぐに死ぬ事はない。だがこの風の精霊は大分弱っていた。
「風だけではダメだ。一般精霊は弱ると体の色が薄くなる。この風の精霊は大分弱っている。精気が足りないのだ」
「え? 精気って?」
ミカネルが振り向いて言った。
「人間の体力に相当するのが精気だ。一般精霊は自分の属性のもの、風の精霊は風に乗る事で精気を補給する。なぜ風の精霊がこんな所にいるかはわからないが長い事風に乗っていなかったようだ。だから瀕死の状態なのだ。人間で例えるなら、普段なら食事でエネルギーを補給するが瀕死の状態になっていると食事だけでは回復しない。それと似ている」
「じゃあどうすればいいの?」
「精気は同種族同士なら与える事が出来るはずだ」
「でも風の精霊なんて俺知らない・・・・あ! ホタルさん! モスクラウドには風の精霊っているかな?」
「いません・・・・」
ホタルは悲しそうな顔で言った。
「相性の良い種族なら回復する事が出来たはずだ。風の精霊は水の精霊が精気を分け与える事ができる」
「水の精霊? リーネちゃんがいるじゃない! ラーシリア、リーネちゃんなら助けられるって事なんでしょ?」
「そういう事だ。私も実際にやった事も見た事もないので保証は出来ないが、妖精の森の長老が言っていた事だから間違いはないだろう」
「君、もうちょっとだけ待っててね。今君を助けられる人を連れてくるから」
私達は古城を急いで出で、リーネのいるモスクラウドに戻った。




