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東の妖精の森モスクラウド

 妖精の森(ミュアルの森)から東に行った所にモスクラウドという妖精達が住む森があった。

 妖精の森(ミュアルの森)の長老から、モスクラウドの妖精達が困った事になっているらしいので助けて欲しいと依頼を受けた。

 モスクラウドには風の精霊を使える者はいないが、風の精霊に毎日「これを聞いた妖精達よ、モスクラウドを助けて欲しい」とモスクラウドの妖精達が言っていたそうだ。

 魔物を退治するという用なら私だけで十分だが、モスクラウドの困っている内容が不明だった為、ミカネルとイヴマリアも同行する事となった。

 私は炎だからそもそも森に入れないのでコミュニケーションを取る事もスムーズにはいかないし、困っている原因が人間だった場合交渉にはミカネルが適任だった。本人はそうは思っていないようだが。

 そしてイヴマリアはミカネルのサポートと妖精達を安心させる為必要だった。

ミカネル(ミカー)! お出かけ~? 私も行きた~い!」

 水の精霊のリーネが両手を振っていた。

「う~ん・・・・連れて行きたいんだけど・・・・」

 ひょっとしたら戦いになるかもしれないという懸念もあったのでミカネルは最初いい顔をしなかった。

 だがその場合ならもっと差し迫った感じで訴えているだろう、と木の妖精のヒバが言った。

 それとリーネの命ともいうべき水もモスクラウドにあるはずだった。妖精の森があるという事は、水は必ずあるという事でもある。なぜなら木や花の妖精は水なしでは生きていけないからだ。水があるならリーネもそこにいる事が出来た。

 シュタ湖に行ってからミカネルとリーネとイヴマリアは妖精の森(ミュアルの森)の中と外をピクニックするようになっていた。

 以前は一般的なケトルの大きさのガラスの瓶にリーネを入れていたが今は長さ十五センチ、細い円筒のガラスの瓶をジンゴロに作ってもらいそれにリーネを入れていた。円筒に横に紐を通す穴があって、そこに紐を通してミカネルの首からぶら下げるようにもしてあった。

 万が一に備えて、ミカネルはガラスの小瓶に水を入れて持ち歩くようになっていた。リーネの入ったガラスの瓶が割れてしまった時リーネを移すためだった。

 リーネはどれほど大きな湖にいれても全長が二十センチを超える事はないが、水の量を小さくすると体もそれに合わせて小さくなる事が出来た。

 こういった備えもあるのだからよほどの事が起きない限りは平気だろうという事でリーネも連れて行く事になった。

 私達はモスクラウドに向かった。



 モスクラウドは白い花が一面に広がっている美しい森だった。

 春夏秋冬にそれぞれ咲く白い花があって、一年中白い花の絨毯に覆われているそうだ。

 モスクラウドはかなり山奥にあったため人間が訪れる事はないそうだ。モスクラウドの妖精は木と花の妖精だけで精霊はいなかった。

 木の妖精が数人が森の手前で私達が来るのを待っていた。

 あらかじめ人間のミカネルとフェニックスの私が来る事を風の精霊から聞いていたにもかかわらず、モスクラウドの妖精達は緊張を隠せなかった。

 ミカネルの肩からイヴマリアが「お~い! やっほー!」と手を振った。

 イヴマリアを見て妖精達は肩から力が抜けたようだった。

 やはり同種族の者がいると安心するようだ。

 私は上空から中心部に行くよう言われ、ミカネルとイヴマリアがモスクラウドの中に入って行った。


 モスクラウドは妖精の森(ミュアルの森)と違って地下空間ではなかった。

 木々が密集して空まで覆っていて一つの空間を作っていた。

 真ん中には樹齢二万年の大木の木の妖精がいて、長老と呼ばれていた。

 妖精の森(ミュアルの森)の長老ほどではないがモスクラウドの長老も周辺の木々は操作出来、木々の一部を開けて私が見えるようにしてくれた。

 モスクラウドの妖精達の悩みはすぐにわかった。

 時折聞こえる、ギーン、ギーンという耳障りな音だった。

 この音は妖精にも精霊にも人間にも不快だった。

「うう~~ 何この音~」

 イヴマリアが両耳を塞いで言った。

 モスクラウドの妖精達もギーンという音がするたびに耳を塞いでいた。

「モスクラウドの長老様、この音はいつからしてるんですか?」

 ミカネルが耳を塞ぐのを我慢して聞いた。

「もう二ヶ月になるかのう・・・・これまでこんな音はした事がなかったんじゃ。鳴る間隔ばバラバラで、朝も昼も夜も何日も鳴り続ける事もあればパタと鳴らなくなる時もある。皆弱っておる」

「音はどこからしてるかわかりますか?」

「あの、古城じゃよ」

 モスクラウドの長老は木々を操作して、木々の天井に新たに丸い空間を開けた。

 小高い丘の上に城が見えた。

「あの古城は鴉人(あじん)が大昔に建てたものじゃ」

 鴉人とは獣人だ。

 (からす)にも人にもなれる獣人。鴉人は竜人に比べて戦闘力は劣るがとても頭が良く、人間のように道具を作り、使う事が出来た。

「古城に行って音の原因を調べられないんですか?」

「あの古城は断崖に建てられており、道は一つしかない。その道の中腹に虎の魔物が住処を作っておってな、近づくと威嚇してくるのじゃ」

「あいつが原因なんだよ!」

 木の妖精の若者が怒って言った。

「俺もそう思う。あの音が鳴り出したのはあいつがあそこに住処を作ってからだ! 絶対あいつの仕業だよ!」

 他の木の妖精や花の妖精も虎の魔物がこの音の原因だと思っているようだった。

「音の場所はわかるが私達にはあの虎の魔物をどうにも出来ない。ミュアルの森の方達よ、私達を助けて下され」

「わかりました。やってみます」

「ホタル」

 モスクラウドの長老が名前を呼ぶと花の妖精が「はい」と言って前に出てきた。

 花から産まれた花の妖精で人間の女子のような姿をしていた。身長は二十センチほどでイヴマリアと同じくらいだった。黒い髪のセミショート、青い目。紺を基調とした服を着ていた。背中には四枚の丸みを帯びた半透明の羽があった。

「この子を連れて行ってくだされ。名はホタル。この子は魔物の言葉がわかる」

「よろしくホタルさん」

「よろしくお願いします」

 ミカネルはモスクラウドの泉にリーネを移した。

「リーネちゃん、ちょっと行ってくるからここで待っててね」

「うん!」

 私達は古城へ向かった。



「魔物にも言葉があるんだね」

 イヴマリアがホタルに尋ねた。

「はい。でも言葉っていうか、一つか二つのかけ声を伸ばしたり連続で言ったりするだけです・・・・あと、皆使えるわけじゃなくて、使える魔物と使えない魔物がいます」

「何でわかるようになったの?」

「喋ってるのを聞いてたら何となくわかるようになったんです」

「耳が良いんだね」

と言ったのはミカネルだ。

 イヴマリアはミカネルの左肩に座っていて、ホタルはイヴマリアの横を飛んでいた。

「虎の魔物は言葉が使えるの?」

「はい・・・・」

「え? じゃあ話した事があるの?」

「いえ・・・・」

「何で話さないの?」

「怖くて・・・・」

「そっか、でも大丈夫だよ。俺らには無敵のフェニックス・ラーシリア(ラーさん)がいるから。そうだ! ラーシリア(ラーさん)はテレパシーで魔物と話せるんじゃないの?」

 テレパシーは心に直接語りかける事が出来るので言葉は必要なかった。そのため魔物と話す事も可能だった。だが・・・・

「今まで何度か試した事はあるが一度としてうまくいった試しがない。魔物は驚いて心を閉ざしてしまうのだ」

 テレパシーは心を覗けるわけではない。心に語りかけるだけだ。だから相手が心を閉ざして拒絶した場合はコミュニケーションが取れなかった。魔物は直接心に語りかけるテレパシーを気味悪がるだけで私の問いかけには応じる事はなかった。

 古城までの道のりはなだらかな坂道だが、中腹くらいの所にだけ、平らで横に広く開けた空間があった。

 左側には木や大きな葉などで作られた小屋のようなものがあった。人間が作ったものとは違い、かなり粗末な作りで遠めには小屋に見えなくないが、木や大きな葉を寄せ集めたような雑な作りだった。

 その粗末な小屋から虎の魔物が出てきた。

 虎の魔物は出てくるなり敵意むき出しで、

「ガウガ! ガーガウガウガ!」

と叫んだ。

「何て言ったの?」

「来るな! ここは俺の縄張りだぞ!って言ってます」

 ホタルは体を縮こまらせていた。

 ホタルが虎の魔物を恐れる理由はわかる。

 この虎は人間のように二本の足で立っていた。

 身長は三メートルほどあり、腕や手足は長く筋骨隆々で、胸板も分厚かった。

 モスクラウドの妖精達はこの虎の魔物があの音の原因だと言って怒りをあらわにしていたが、虎の魔物の前に立てる者はいなかった。

 ミカネルはホタルの前に出て振り返って言った。

「大丈夫。君を絶対に傷つけさせたりしないから」

ラーシリア(ラーさん)、あいつが向かってくるようならお願い」

「わかった。もう少し前に出てみようか? 今虎の視線はミカネルに集中していて私が見えていないようだ」

「うん、そうだね。ラーシリア(ラーさん)が見えれば反応が変わるかも」

 私は虎の魔物の視界に入る位置に移動した。

「ガ? ガガガ! ガウガウガ!」

「何て言ってるの?」

「何だおまえは! 近づくなって言ってます」

 虎の魔物に少し怯えたものを感じた。私との実力差を感じ取ったようだ。

「ガウ! ガウガウガウ! ガガガーガウガガウー!」

「何て?」

「俺はお前を恐れない! 俺はスロータイガーだからな! 死ぬまでやってやるぞって」

 虎の魔物はスロータイガーという種族らしい。

 この手のタイプは自分が死ぬとわかっていても向かってくる。どうやら戦う事になりそうだ。

 ギーンという不快な音がした。

 ミカネル達は耳を塞いだ。

 スロータイガーも耳を塞いでいた。

「・・・・あれ? あいつもこの音嫌なのかな?」

「そうみたいね、耳塞いでるもん」

 イヴマリアが言った。

「スロータイガーの仕業じゃなかったって事か・・・・でも音はやっぱりあの古城からだよね」

「うん、私もそう思う」

 ミカネルはホタルに言った。

「あの音を止めにきたんだ。そこを通っても良いかって、訳してもらえるかな?」

 ホタルは頭を左右に振った。

「私、怖くて言えません・・・・」

「わかった。じゃあ俺が言うから。何て言うの?」

 ホタルは魔物の言葉を言い、ミカネルがそれを真似して言った。

「ガー! ガウガウ! ガーガー! ガウガウガ!」

 スロータイガーが表情が変わった。

「ガウ! ガーガーガー! ガガガウ!」

「何て言ってんの?」

「おまえ何言ってっかわかんねえって・・・・あの、発音が少し違ってます」

「でも少しは通じたのではないか? スロータイガーの表情が変わったぞ」

 さっきまでは戦う気むき出しの表情だったが、ミカネルが魔物の言葉で話しかけた時、今の何?的な顔になっていた。

 イヴマリアがミカネルの肩から飛び立って言った。

「私もやってみる」

 イヴマリアが言った。

「ガー! ガウガウ! ガーガー! ガウガウガ!」

 スロータイガーは少し驚いた表情になった。そして顎に手を当てて少し考えているようだったが、頭を横に振って言った。

「ガウガウガウ! ガーガウガガガ、ガガウ、ガウガウガウーーーガウガ! ガウガウガガ!」

「通じたの?」

「はい、通じてます。イヴマリアさんの発音は完璧です。スロータイガーの言葉を訳すと、ダメだダメだ! あの音は俺も嫌だけどおまえらがここ通ったら俺のダンディーな香りにおまえらの匂いが混ざっちゃうだろ! だからダメだ!って言ってます」

「匂いが混ざる? 何で匂いが混ざるとダメなんだろう?」

 ホタルがミカネルの疑問を魔物の言葉訳してイヴマリアに教えた。それをイヴマリアがスロータイガーに言い、スロータイガーはそれに答えた。

 スロータイガーとやりとりをする事で、スロータイガーの生態がわかった。

 スロータイガーは繁殖期になると自分の縄張りに家を作り、未来のお嫁さんを待つのだが、今彼はまさに繁殖期だった。

 縄張りに他の動物の匂いがあると未来のお嫁さんが警戒して来ない、または来ても去ってしまう事があるため、スロータイガーは縄張りに自分以外の動物が入る事を許さなかった。当然縄張りを横切る事もNGだった。

 スロータイガーのオスは戦闘力は高い方だが、恋に関しては受動的で、縄張りに家を作ってメスが来るのをひたすら待つ。未来のお嫁さんがいつやってくるかわからないから、食料を溜め込んで縄張りの中でとにかく待ち続けるのだそうだ。

 だがここに交渉の余地はあった。

 古城からする音はスロータイガーも不快に思っているように未来のお嫁さんも嫌がるのではないか、とも説明した。そしたら未来のお嫁さんは来ない、または良い雰囲気になっても去って行くのではないか? とも説明した。

 それとスロータイガーがここに居つくようになって二ヵ月ほどだ。そろそろ食料もつきてきているだろうから、私達が調達してこようか、と言った。

 縄張り横切ると言っても一番端を速やかに通るだけだ。スロータイガーの家は左の一番端に建てられているため、私達が一番右端を速やかに歩いて古城に向かえば匂いは問題ないだろうと説明した。

 スロータイガーは縄張りで未来のお嫁さんを待ちながら、食べ物を手に入れる事が出来、尚且つ耳障りな音を止められる、悪い話ではないはずだった。

 スロータイガーは腕を組んでしばらくの間、熟考していたが、一つうなずくと「ガウ! ガウガー!(よし! のった!)」と言った。

 交渉は成立した。

 さて彼は普段何を食べるのだろう、という事でホタルにこの質問を魔物の言葉にしてもらってイヴマリアが伝えた。

「ガー ガウガウ ガウ?」

「ガ ガウガ」

 ミカネルが振り向いてホタルに聞いた。

「何て言ったの?」

「魚、超好きって言ってます」

「魚か・・・・」

 私達は魚を取って来る事になった。


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