黒い服の一団
私とミカネルとイヴマリアは妖精の岩山に来ていた。
星型の火の特殊精霊のタキビを連れてきた時、ジンゴロがミカネルにフェニックスリボルバーの調子を聞いた。ミカネルの意見を参考に改良したいのだそうだ。
あの時ミカネルは何も浮かんでこなかったが、振り返ってみると改良して欲しい点がいくつも出てきて、それを伝えるためにやってきていたのだった。
「タキビ君は元気?」
「ああ、元気だ。あとここは岩の妖精が多いから相性が良い。あの子は火の精霊だが岩の妖精にくっついても平気だからな。それになあの子の火で合金を作ると同じ材料でも違う物が出来上がるんだ」
「へぇ~ そうなんすか」
「新しいフェニックスリボルバーに使ってみるつもりだ」
「わかりました。タキビ君は今も合金作る所にいるんすか?」
「ああ。でも今の時間は寝てるだろう。あの子はよく寝る子だよ」
「リーネちゃんも、水の精霊もよく寝ますよ・・・それで前に言ってたフェニックスリボルバーの事なんすけど、やっぱり変えて欲しい所があって」
「おう、どこだい?」
ジンゴロの家でミカネルがフェニックスリボルバーについての改善点をジンゴロに話していると、入り口の方から「大変だ! 人間が大勢でやってきた!」と木の妖精が血相変えてやってきた。
ミカネル達が入り口の方に行ったので私もついていった。
入り口には黒い服を着た人間の一団がやってきていた。
二十人くらいはいそうだった。
後でミカネルに聞いたがあの服装はゴシックロリータというそうで基本的には人間の女子が着るものなのだそうだ。全員黒いゴシックロリータの服装をしていて、やはり全員が女子だった。
「何ここ、汚らしいわね」
「本当・・・・掃除しましょう」
彼女達は竹ほうきを荷台から取り出すと掃除しだした。二十数人の女子達がほうきで一斉に掃除し出したので、ほうきが地面をこする音が妖精の岩山に響いた。
妖精の岩山の岩の妖精や木の妖精達の視線が一斉にミカネルに集まった。
おまえ人間だろ、事情を聞いて何とかしろ、という圧だった。
ミカネルはそれを感じ取ったようで、
「あ、あのう、何の用でしょうか?」
と聞いた。
だが無視された。
ミカネルはほうきの音で自分の声が聞こえなかったと思ったのだろうと思ったようで、さっきより大きい声で同じ事を言った。
するとゴッシクロリータを着た女子達が一斉に手を止めてミカネルを見た。
ミカネルは圧を感じてたじろぐと、女子達は見下ろすような不適な笑みを浮かべた。だが何も言わなかった。そして何事もなかったかのようにまた掃除しだした。
「ちょっと! あなた達! 何しに来たのって聞いてるでしょ!」
イヴマリアがミカネルの左肩に立って言った。
ミカネルと違って腕を組んで堂々としていて、声もミカネルより大きかった。
ゴシックロリータを着た女子達はイヴマリアを一瞥して言った。
「何あれ?」
「知らない」
「かわいい虫だわね」
最後の女子の一言はイヴマリアの怒りに触れたようだった。
「む、虫ぃ?・・・・」
イヴマリアが怒りを爆発させる前にミカネルがなだめにかかった。
「ちょっと待ってイヴマリア、相手の目的を聞いてからにしようよ」
「はあ~?! あの人達は敵よ! 敵! 私を虫って言ったのよ!」
イヴマリアは魔法を撃つ体勢に入っている。
それをミカネルが手でおさえながらなだめた。
「イヴマリアは虫じゃないよ! 遠くだからちゃんと見えてなかったんだよ! 彼女達は掃除してるだけじゃない。敵かどうかはまだわかんないよ」
「何言ってるの! あなただって無視されてたじゃない!」
ミカネルとイヴマリアがもみ合っていると、ゴシックロリータのリーダー格の女子が「もう良いでしょう」と言った。
全員ほうきを荷台に入れて、横一列に整列した。
一言も口を開いているものはおらず、真っ直ぐにこちらを見ている。
彼女達の中で一人だけ突き抜けて背の高い者がいた。掃除している最中でも目立っていたが、横一列に並ぶと際立って大きいのがわかった。
この黒い服の一団は全員女子なのだが背の高い者はそうは見えなかった。ミカネルと同じ性別、男であるように見えた。髪が長めで、遠目には女子に見えなくはないが、細身だがガッシリとした体系と顔立ちは明らかに男だった。
髪の色は青く、瞳の色は黒だった。切れ長の目、すっとした鼻筋、男前と呼ばれる部類の大分上の方だった。だが女子っぽくはない男前の方で、化粧などをして女子っぽくあろうともしていなかった。
ミカネルも長身の男に気づいたらしく、訝しげな表情で背の高い者を見ていた。
ミカネルと長身の男が目が合うと、長身の男は最初顔を背けたが、ミカネルが凝視している事に気づくと顔を真っ赤にしてにらみつけてきた。
長身の男は注目されたくなかったようだった。自らの意思でゴシックロリータの服を着ているのではなく、何か事情があって着ているのかもしれない。
ミカネルはそれを察っして彼から視線を逸らした。
だがイヴマリアは違っていた。
「ミカネル、私見つけちゃった」
イヴマリアはいたずら者の笑みを浮かべて言った。
「ん? 何を?」
「見て、変態がいる」
ミカネルの声は抑え気味だったが、イヴマリアは声を抑えていなかったので向こうにハッキリと聞こえたようだった。
「ダメだよ、イヴマリア、指差したら」
ミカネルはイヴマリアが指を差しているのをやめさせようとしているが、イヴマリアはそれをかわして指を差し続けた。
「私は変態ではない!」
ゴシックロリータに女装した長身の男は顔を真っ赤にして否定した。
「ええ~? 何で~? どこからどうみても変態じゃない」
イヴマリアがニヤニヤしながら言った。
「だから私は変態ではない!」
長身の男が大きな身振りと大声で、全力で否定した。
すると仲間であるはずの並んで立っている女子達がクスクスと笑い出した。
長身の男は更に顔が赤くなった。
それを見たイヴマリアはさっきよりも更にいたずら者の顔になって言った。
「あ~~ 変態が怒った~~」
並んでいた女子達はケラケラと声を出して笑い出した。
「キッッッサマァァァァ!」
ゴシックロリータに女装した長身の男はもうこれ以上顔は赤くならないだろうというくらい赤くなっていた。目には涙が浮んでいた。
「何のさわぎかしら」
ゴシックロリータの一団の後ろの声がすると、彼女達は顔を引き締め、一斉に真ん中から左右に割れた。
真ん中から白を基調としたロリータファッションの小柄な女子が歩いて来た。
青く長い髪はふんわりとしていて、橙色の瞳は挑戦的な雰囲気を出していた。
長身の男は白のロリータファッションの小柄な女子にひざまずくと「すいません、ゼシル様。何でもありません」と言った。
「あら、そう」
彼女は興味なさそうに言うと、私達全体に向けて言った。
「私の名前はゼシル。ここに魔法水晶があると聞いて来たのだけれど・・・・」
「魔法水晶? それがここにあったらどうするんだい?」
ジンゴロが聞いた。
「もらってあげるわ。何でも相当に美しいと聞いたから」
後ろの岩陰から「ヒィィィイ!」という甲高い悲鳴が聞こえた。
臆病で被害妄想が強く、甲高い声の魔法水晶、メラクルの声だった。
「あそこにいるよ」「わああああああ、何でもないよ!」
イヴマリアがメラクルの声がした方を指差して言ったのをミカネルが大きな声でかき消した。
「ダメだよ、イヴマリア」
「どうして? あんな人あげちゃえば?」
イヴマリアがそう言うと何人かの岩の妖精がうなずいていた。
「ダメだよ。彼も妖精の岩山の仲間じゃない・・・・それに嫌がってるみたいだし・・・嫌がってる妖精を無理やりっていうのは良くないよ」
「ええ~ でも~」
イヴマリアは不満そうに口を尖らせたがミカネルの意見が正しいと思ったのだろう、それ以上は言わなかった。
ジンゴロがミカネルに目でありがとうと言って、前に出て言った。
「そうだ、ミカネルの言う通りだ。魔法水晶は自分の意思がある。彼は誰のものにもならない。それにわしらの仲間だ。どこから来たのか知らんが、悪いが帰ってもらえるか」
岩の妖精達は基本的に魔法水晶の事が嫌いであるが、ジンゴロの事は好きだった。ジンゴロがそう言うならという事で、彼らも「帰れ!」などを言って反対の姿勢を示した。
「そうはいかないわ! 私、欲しい物は絶対に手入れるの! リョウザ!」
「ハッ」
ゴシックロリータに女装した長身の男がひざまずいた状態で大きな声で応えた。
「聞いての通りよ。どういう手段でも良いから魔法水晶を手に入れなさい」
「ハ!」
リョウザは不敵な笑みを浮かべてこちらに近づいてきた。
「ラーシリア!」
ミカネルが不安げな表情でこっちを見た。
「ああ。まかせてくれ」
私はリョウザの前に立ちはだかった。




