レトリーフへ
オカリナがそろそろ出来ているはずなので私達はハルホトにある老人の家に向かった。
「ワシ、渾身の作じゃよ」
老人は誇らしげにオカリナをミカネルに渡した。
「ラーシリア、お待たせ。これがハルホトのオカリナだよ」
ミカネルは私にオカリナを掲げた。
「ほう。これがオカリナか・・・・・・・・・・・」
「どうしたんだい? ラーシリア?」
「オカリナはとても心地の良い音がすると聞いた。何も聞こえないが、精霊には聞こえないものなのか?」
「ああ、そうだったのか。オカリナはこうやって音を出すんだよ」
ミカネルはオカリナに口を当てて息を吹き込んだ。
オカリナの穴を指で塞いでピー、プーという音が鳴った。
「・・・・人間はその音で感動するのか?」
「う~ん、しないかな。俺はプロじゃないから・・・・」
「プロ?」
「オカリナを吹く事を職業にしている人よ。オカリナ奏者って言うわ」
ミカネルの左肩に乗っているイヴマリアが言った。
「そうか、ラーシリアは音楽が聴きたかったのか・・・・ごめんよラーシリア。俺は、オカリナは演奏出来ないし、演奏出来る人も知らないんだ・・・・そうだ! おじいさんは知ってますか?」
「オカリナはそんなに難しい楽器じゃないから、ただオカリナを吹けるっていう者は知ってるけど、プロのレベルの者はいないな。昔は近所にいたんだがね。」
「ああ、そうですか・・・・」
私達は妖精の森へ帰った。
オカリナを売っていた楽器店でも、妖精の岩山でもオカリナ奏者を知っている人はいなかった。
だが、妖精の森の長老なら知っているかもしれなかった。
妖精の森の長老は物知りだ。
十万年この世を見続けてきたのは伊達ではなく、多くの事を知っていた。
私達フェニックスの事も知っていた。
長老は二度マザーフェニックスを見た事があるらしい。他の生物に比べてただでさえ数が少なく珍しい我々フェニックスだが、マザーフェニックスと遭遇するのはもっと珍しい。なぜならフェニックスがマザーフェニックスに覚醒するとすぐに太陽に向かって飛び立ってしまうからだ。
だが、妖精の森の長老にもわからない事はある。
オカリナ奏者がいる場所、というようなローカルな情報だ。でも長老は風の精霊を使って探してくれた。
風の精霊は風に乗って世界を巡るため様々な情報を見聞きしている。だからオカリナ奏者を探すというような事も出来た。
風の精霊は誰でも使えるわけではない。
風に乗っている風の精霊に問いかければ答えてくれる場合もあるが、風の精霊はいたずら者が多く、多くの場合真実を話してくれはしなかった。
だが風の精霊は風の精霊同士では絶対に嘘をつかなかった。風の精霊に認められた者は、風の精霊と同じように嘘をつかれる事はなく真実のみを聞く事が出来た。
風の精霊に認められる事は容易ではない。なぜなら彼らは一つの所に立ち止まる事なく常に風に乗って移動しているからだ。
長老は風の精霊に認められている者だった。
そして風の精霊達はオカリナ奏者を見つけてくれた。
ミカネルやイヴマリア、更にリーネを守ってくれた礼なのだそうだ。
妖精の岩山から北に行った所にレトリーフという町がある。
そこに有名なオカリナ奏者がいるそうなのだ。
プロのオカリナ奏者に演奏してもらうには金が必要で、私は、金は持っていたが交渉がうまくいくと思えなかった。
精霊であるフェニックスの私がいきなり目の前に現れて、「これで一曲頼む」と言って金を足元に放って、快く演奏をしてはくれないだろう。
そこでミカネルに交渉を依頼した。
ミカネルは最初嫌そうな顔をした。
理由は大体察しがついた。彼は人間であるが人間が苦手なとても変わった人物だった。だがすぐに「いいすよ」と言ってくれた。
私はミカネルの気が変わるのを恐れたので、すぐに出発するように急がせた。
ハルホトのオカリナはミカネルの首に紐を通してぶら下がっている。オカリナを作ってくれた老人が、ミカネルが誤って落とさないように紐を通せる穴を作ってくれていたのだ。
私とミカネルとイヴマリアは有名なオカリナ奏者がいる町、レトリーフに向かった。
オカリナ奏者のいるレトリーフに行くには二つのルートがあった。
平原のルートと山のルートだ。
山はコムー山と呼ばれていて、平原を行くよりもコムー山を行った方が近道だった。だが、コムー山には山賊が出る事で有名だった。
「コムー山の方に行こうよ。近いから。普段の俺なら絶対山賊のいるコムー山なんか選ばないけどさ、ラーシリアがいるから平気だもんね」
とミカネルが言った。
コムー山は妖精の岩山と山続きだった。
妖精の岩山と同じく岩でほとんど出来ている山だったので私もミカネル達の近くを同行できた。
コムー山を登り始めて、それほど時が経たずにさっそく山賊が現れた。
二十人を超える山賊が血相変えて正面から全速力で走ってきた。
「わわ!? ラ、ラーシリア! お願いします!」
とミカネルが言った。
私はミカネル達の前に出ようと下降した。
「おい! 上を見ろ!」「ちょっと! 上を見なさい!」
ミカネルとイヴマリアが山賊達に向かって私のいる方向を指差した。
だが、山賊達は上を見るどころから立ち止まる事もなく、ミカネルとイヴマリアの横を通りすぎて行った。
「あ・・・あれ?」
「何であの人たち私達を無視して行っちゃったの?」
「さあ・・・・」
ミカネルとイヴマリアは空を指差したまま顔を見合わせた。
「まあでも、いっか」
「そうね」
私達はコムー山を登って行った。
しばらく進むと遠くに煙が上がっているのが見えた。
「何かしらあれ?」
「煙? 何が燃えてるんだろう?・・・・何か嫌な予感がするね」
ミカネルが不安そうに言った。
「私が様子を見てこよう」
私は煙が上がっている所まで飛んで行った。
上空から見ると砦があった。
岩山を利用して人が住めるように工夫されてあった。日用の道具、生活の痕跡、広さなどから、かなりの人数が住んでいるようだったが、どういうわけか山賊は一人もいなかった。
木で出来た扉や机などが燃えていた。それらから煙が出ていて、ミカネル達の所からも見えていたのだった。
ミカネル達が今居る場所とは逆の方向に走って行く山賊の姿が二十数人ほど見えた。
どういう理由かはわからないが山賊はこの砦を放棄したようだった。
私はミカネル達の元に戻った。
「この先に砦がある。だが、誰もいる気配がない。レトリーフの方へ逃げていく山賊達が見えた」
「何でいなくなったのかしら?」
「何でだろうね」
「行ってみようよ?」
「え? でもさ、あいつらが逃げるって事は何かヤバい事があったんじゃない?」
そう考えるのが自然だ。
「でも気にならない?」
「う~ん・・・・気になるね」
「大丈夫よ、ラーシリアがいるじゃない」
「あ、そうだね、行ってみよう」
この先、道は二つに分かれていて、砦に通ずる道と山を下りる道に分かれていた。私達は砦に通ずる道を進んだ。
砦に降り立つとやはり誰もいなかった。
「どうしちゃったのかしら?」
「さあ?・・・」
ミカネルとイヴマリアが首をかしげていると、
「なんだ! 戻ってきたのか!」
岩と岩の間から声がした。




