水の精霊のリーネ・前編
オカリナが出来るまで結構時間がかかるという事だったので、俺たちは一旦妖精の森に帰る事にした。
妖精の森では俺達の帰りを今か今かと首を長くして待っている精霊がいた。
水の精霊のリーネちゃんだ。
妖精の森はほとんどが木の妖精と花の妖精達で、リーネちゃんは唯一の精霊だった。
精霊は大きく分けて二種類に分ける事が出来る。
一つはラーシリアのように火そのものを体に持つ特殊精霊。もう一つは火や水、風などに宿る一般精霊。
リーネちゃんは水の一般精霊だった。妖精の森には小さな泉があってリーネちゃんはその泉に宿った。
風の精霊は風に宿る。
風の精霊は噂好きで、様々な情報をもたらしてくれた。
その一つが、今年は妖精の森の一番近くにあるシュタ湖で水の精霊達が集まってフェスティバルをやるというものだった。
「フェスよ! フェス! フェスなのよ! きっとすごいんだから!」
リーネちゃんは自分以外の水の精霊に会った事がなかったから、ずっと前からフェスの事を楽しみにしていた。
ラーシリアのような特殊精霊は自分の意思で好きなように好きな所へ移動できるけど、リーネちゃんのような一般精霊は自分の意思では移動できる所が限られていた。
リーネちゃんは水の精霊なので水のない所には移動する事が出来なかった。でも逆に水のある所だったら、数十メートルの高いビルでも昇れるし、数ミリの隙間でも通り抜ける事も出来た。水分さえあれば何キロでも移動する事が出来た。
今は梅雨の季節なので、雨が降れば草木や地面が濡れる。各地にいる水の精霊が一つの湖に集まる事が出来るから、リーネちゃんは この梅雨の季節が到来する事を心から待っていた。梅雨は水の精霊にとってはお祭りの季節でもあるんだ。
でも今年は空梅雨で雨が降らなかった。
他の地域では雨が降ってるらしいけど、妖精の森があるラーシリア地方だけ雨が降らなかったんだ。
全く降らなかったわけじゃなかったんだけど時々パラパラ降るくらいだったからとてもシュタ湖まで移動なんか出来なかった。シュタ湖は妖精の森から一番近い湖だけど歩いたら数日かかる距離にあった。
しょんぼりしていたリーネちゃんを見て気の毒に思った木の妖精のヒバさんが、俺達を思い出してひらめいた。
陶器の瓶に水を入れればリーネちゃんをシュタ湖まで連れていけるんじゃないかって。そしたらリーネちゃんはフェスに参加出来る。
それを聞いたリーネちゃんの喜びようはなかったそうだ。
だから俺達は妖精の森に戻ってすぐに、リーネちゃんを陶器の瓶に入れて、フェスのあるシュタ湖まで行く事になった。
精霊だけでなく妖精もだけど性別はない。
でもイヴマリアは人間の女子と同じような容姿だし、木の妖精のヒバさんは人間のおじさんみたいな容姿だ。
生まれた場所の影響でそうなるんだそうだ。
生まれた場所が男性的だと男性の容姿、女性的だと女性の容姿なるのだそうだ。
妖精の森の泉は女性的だから、リーネちゃんの容姿も女性的だった。
髪が腰まであって顔もスタイルも性格も人間の女子のようだった。身長はイヴマリアと同じくらいで20センチくらいだった。水の精霊だから身体は半透明なんだ。
ラーシリアは精霊だけどフェニックスはフェニックスから産まれるそうだから親に似るのかな? 俺はマザーフェニックスを見た事がないからわからないけど多分鳥っぽい姿なんだと思う。
シュタ湖まで直線距離の方が断然早いのだけど、そうなると大きな町を横切らなければならかった。
ハルホトの笛の件で人に対して苦手意識は、以前よりはマシにはなった。
笛の作者のおじいさんだけだったなら苦手意識は大分なくなってたと思うけど、柄の悪い連中に絡まれたりしたから、完全には克服出来なかった。
遠回りになるけど山のルートで行く事にした。
遠回りといっても三十分、かかっても一時間くらいの違いしかないだろうから、町を横切る場合それほどかわらないはずだった。
シュタ湖は広かった。
俺は湖を初めて見たからその広さに圧倒されたよ。
イヴマリアも湖は初めてだった。
「すっごいね! ずうぅぅぅぅぅっと水!」
「うん、そうだね・・・・」
湖の広さに感動して俺もしばらくは浸りたかったんだけど、あまりの静けさに不安になった。
フェスというくらいだからリーネちゃんみたいな水の精霊達がバシャバシャと皆ではしゃぎ回って騒いでいるのを想像してたから。
「ねえ、ミカネル、リーネちゃん出してあげなよ」
「うん・・・」
俺は陶器の瓶の栓をあけて、シュタ湖に水を注いだ。
「リーネちゃん、シュタ湖についたよ」
「本当!」
リーネちゃんは水と一緒に飛び出てきた。
「わあーーーーー! すっごーーーーい! 広っっろーい!」
リーネちゃんは、最初は俺達の近くを行ったり来たりしていたけど、少しずつ遠くに行きだした。
俺はリーネちゃんより背が高いから遠くまで見えたけど、水の精霊は見えなかった。
不安が更に強くなった。
リーネちゃんは右に左に移動して、キョロキョロと辺りを見回してた。
自分以外の水の精霊を探しているようだった。
「へぇ~ こりゃ珍しい! 人間と花の妖精の組み合わせなんて初めてみたよ」
後ろから声がして、振り返ると木の妖精が立ってた。
木に魂が宿ったタイプの妖精だった。
「ん? んんん? フェニックス? フェニックスもいるの? 僕初めて見たよ」
木の妖精はラーシリアを珍しそうな顔で見た。
「うん、まあそうなんだ。あのさ、君この辺の妖精?」
「うん、そうだよ」
「そこのシュタ湖で水の精霊のフェスがあるって聞いて来たんだけど・・・・」
「フェスなら昨日終ったよ」
「え?」
「盛大にやってたね! 毎年ここでやればいいのにね!」
「あ・・・・そうなんだ・・・・」
「何だ、君達フェスを見に来たの?」
「いや、俺達はつきそいなんだ。そこにいる水の精霊のリーネちゃんをフェスに参加させたかったんだよ」
「そうだったのか・・・・そりゃ、かわいそうだけど・・・・もう、終っちゃったからね」
俺が町を迂回したからだった。
町を迂回して山道を歩いている時、俺は下り坂で転んだ。その時左手を地面について軽く捻挫してしまった。
その先に三メートルくらいの崖があって普段なら難なく登れたのだけど、捻挫した左手は力が入らず右手だけはとても登れなかった。その崖を迂回した先には沼地があって更に迂回しなければならなかった。結局、かなり遠回りになってしまって、一日も時間をロスしてしまっていた。
山道を遠回りしていなければ間に合ってたんだ。
町を横切るだけで良かったんだ。この前みたく換金したり笛を買ったりして人と接する必要もなかった。町を選んでいたら崖を登る事もなかったから、転んで捻挫しても平気だった。
俺のせいだ・・・・
リーネちゃんは湖にポツリと立たずんでいた。
俺達のやりとりが聞こえてたんだろう。
「リーネちゃん・・・・ごめんね・・・・俺が町を避けなきゃ、遠回りしたから・・・・本当、ごめんね」
「・・・・ううん・・・・いいの・・・・」
とリーネちゃんは言ってくれたが後ろ姿が悲しそうに見えた。
「ねえ! シュタ湖には水の精霊は普段いないの?」
イヴマリアが重い雰囲気をやぶるような明るい声で言った。
「そうだ。こんなに広いのだ。一霊、いや数十霊いても不自然ではない」
ラーシリアが続いて言った。
「ああ、いるよ。主がね。呼べば出てくるんじゃない? 僕はあいつが嫌いだからもう行くよ。じゃね」
俺達は木の妖精に手を振って見送った。
俺は全力でシュタ湖に問いかけた。
「シュタ湖の水の精霊さあああああああん! 出てきてくださああああああああい!」
俺は自分の出せる最大限の声で叫んだ。
俺のせいでフェスに間に合わなかったんだ。リーネちゃんにはせめて自分と同種の水の精霊と会わせてあげたかった。
「シュタ湖の水の精霊さあああああああん! お願いでえええええええす! 出て来てくださああああああああい!」
首の血管が切れそうな感じがしたけどかまわなかった。切れても良いと思った。
「シュタ湖の水の精霊さぁぁぁん! 出て来てぇぇぇ! お話しとかしようよぉぉぉ!」
イヴマリアも叫んでくれた。
「シュタ湖の水の精霊さあああああああん! 妖精の森から来ましたあああああああ! ミカネルですうううううう! こっちはリーネちゃんですうううう! あなたと同じ水の精霊ですぅぅぅぅぅ!」
「もう・・・うるさいな・・・・」
シュタ湖の水の精霊が姿を現した。




