遊園地
そうして、僕らは遊園地に来ていた。「いつぶりだ?遊園地なんか来るの」本当に長らく来ていないと思う。それこそ、僕がまだ小学生の時の頃とかだろうか。それくらいになる。「なんか久しぶりに来たからちょっとテンション上がってる!!」「あんま迷惑になるようなことするなよー」「わかってるって!!さぁさぁ我がお兄ちゃんよ!!早速どこか行こうではないか!!」「わかったから。・・・・・・行こうか」といって、僕らは歩き始める。「まずどこ行くー?」「んー」とは言っても、遊園地って最初が肝心だ。ジェットコースターにしてはまだ早いような気がするし、観覧車はなんか面白味がないというか・・・。「そんな優夢は行きたいところはないのか?」「んー」と言って、辺りを見渡して・・・。「あっ」と、優夢が視線を飛ばしたその先は・・・。「学べや」そう。見てわかる通り、お化け屋敷である。前日の事を覚えているだろうか。昨晩、こいつはホラー映画を見て怖いと言ったばっかだ。一応説明をしておくがこの妹である無叶優夢という少女は、ホラーが苦手である。それなのに、こいつは何度もホラーに挑戦したがる。いや、その挑戦心は尊敬すべきだ。・・・・・・だが、結果は毎回そうだ。結局は泣いて僕に縋るのが落ちである。「いいからいこー!!」と、優夢は小さい子供のように駄々をこねる。まぁ、特に行きたいところもなかったし、折角ならついていってやるか。「わかった。父さんは?」「あぁ。俺はやめておく。生憎ホラーは少し苦手なんでな」まったく、優夢も父親のこういうところは見習ってほしいのである。そうして俺らは、お化け屋敷に向かって足を進める。・・・のだが。<<ギュッ>>突然、優夢の手が添えられる。「今日さ・・・久しぶりに一緒に遊園地にこれたんだ。だから・・・・・・。あ、あのさ・・・」と、優夢は少し行き詰まった様子だが、やがて意を決したのか。「その、恋人、って言ったらまた違うけど、今日は気分を変えて、恋人らしい事をしたい」・・・と。「恋人らしい・・・・・・事?」「うん。だから、手を繋いだり、ハグをしたり・・・・・・。かな。だから、今私は手を握ったのだけど・・・。だめ、かな」正直優夢は俺にとっては義妹にあたる。だから、法的には問題にはならないが・・・。だとしたら、何故優夢は俺に対してそんなことを言ってきたのだろうか。忘れている人もいるかもしれないが、優夢は、義妹である。そして、俺はまだその事を伝えていないのである。つまり、優夢から出てくるような言葉ではないのだ。「いいぞ」まぁ、そんな深いことは考えなくてもいいだろう。今は遊園地にきているんだ。それなら楽しむのが一番だろう。そうして、俺たちはお化け屋敷の中に入るのだった。
その後はいっぱい遊んで、気づけば陽が落ちていた。夜の遊園地は、少し異質な雰囲気を醸し出しているが、それでも街灯が差し込んでより綺麗に見えた。そうして僕は、帰る前に、観覧車に誘った。「ここは、結構都会な方だ。この観覧車が頂点へと達したとき、その町の景色がとても綺麗に見えるんだ。ほら。見てみろ」と、俺が指を指した方には・・・「わぁ!!きれい・・・・・・!!」「よく知っていたな。こんな場所」ここの観覧車は、少し人目のつかないところにある。そこから見える観覧車の景色は、昔真愛と行ったときに強く印象に残っていた。だから最後に、俺はここを選んだ。「なんかさ、この景色を見ていると嫌なこととかどうでも良くなるね」「確かに。それめっちゃわかる。なんか高い場所から見る景色って、神秘的というか、なんというか・・・・・・。とにかく、気持ちが癒されるんだよな」綺麗という感情以外、何も湧いてこない。それほど、この観覧車から見下ろす町の光景は綺麗だった。すると・・・。「え?」いつものように、優夢が俺に抱きついてくるのだが・・・・・・。なんか少し感覚が違う。いつも以上に優しいというか、いつもなら、俺が優しく包むはずなのだが、初めて優夢からの暖かさを感じた。「やっぱり、いつでもそう。私がお兄ちゃんに抱きついているときが一番幸せで、落ち着く。・・・・・・なのに、何故か今日は感覚が違うみたい」それは、優夢も同じだったようだ。「ねぇ。なんで私がお兄ちゃんを抱きしめたかわかる?」「なんでって・・・・・・。抱きつきたいからじゃないのか?」「・・・。違うよ。お兄ちゃん。一度、自分の顔を見てみたら?」そう言われて気づく。ガラスに反射して写った自分の顔は・・・。今、「え、」泣いている。なぜだろう。自分でも気づかなかった。涙が、溢れていることに。そして、泣いていることに気づいた僕の体から、次々に涙が滴る。「私には、なんでお兄ちゃんが泣いてるかはわからない。・・・けど、私が泣いたとき、お兄ちゃんはいつもこうやって優しく抱きしめてくれたでしょ?だから、今日は、私がお兄ちゃんに変わって私から優しく抱きしめてあげる。何があって泣いているのかはわからないけど・・・・・・。お兄ちゃんも人間なんだよ。たまには私に甘えたっていいんだよ」その一言を聞いた瞬間、僕の目から涙が止まらなくなる。自分でも泣いている理由がわからないのに、自然と、僕の目から涙が溢れ落ち続ける。なんでだ。どうして、涙が流れるんだ。と自分でその理由を探っていると・・・。「・・・あっ」そうだ。きっと、理由はそれだった。
その昔、俺は観覧車の頂上で悩みを聞いて貰っていた。彼女は、当時俺が虐めに遭っていることを知っていた。すると、その少女は優しく俺を抱きしめて・・・。「わかってる。わかってるよ。私は。大和君が、妹想いで必死に妹を支えてきたんでしょ?なのに、何も悪くないあなたが妹の事で虐められて・・・。辛かったんでしょ?でも、大和君は一人で耐え続けて。偉いよ。すごいよ。妹を守って、虐めにも耐えて・・・・・・。そんな大和君は、私は大好きだよ。相談してくれてありがとう。もう、悩まなくてもいいんだよ。大和君は、よく頑張った。から、」そう言って、彼女は僕の頬にキスをした。そんな俺は、優しくしてくれた彼女に何も言えず・・・・・・。「凄いでしょ?ハグってね、された時、自然に心が落ち着くんだよ?・・・・・・だから、一緒にこのままでいよう。今は、自分の事を気にせずに、いっぱい泣いたらいい。溜め込んでいたことを、全て私に吐き出してくれていいんだよ」そう言われた途端、過去一番に俺は泣きじゃくった。相手にはみっともない姿を見せたかもしれない。何せ、相手は2個下の幼馴染だったから。
そのような過去を想いだし、きっと俺は泣いているんだろう。あぁ。そうだ。優夢の言う通り、そして、真愛の言う通り、俺は無理をしてたんだ。こういう時こそ、妹に甘えるとしよう。そうして、俺は優夢の背中に手を回す。「ありがとう。優夢」と、そうして・・・・・・。




