暖かい家庭
次の日の昼休み。俺はメンタリスト大吾と遊んでいた。「今、あなたは私の事について考えていましたね?」こいつは面白いやつだ。面白いことを言うし、言ってしまえば全てが面白い。なのに、こいつは考えていることとかを全て当てるのだ。将来、占い師などになったら、絶対売れるだろうな。と、そんなことも考えつつ・・・「すげぇ。当たってるわ」「私の手にかかれば、造作もないことです」「大吾ってさ・・・」「はい」「将来とか今現在からでも占い師になるつもりはないのか?」「何度も考えました。確かに、私のこの能力は人並外れた特殊能力です。・・・・・・しかし、この世というものは、すぐに未来がわかってしまえば、タイムパラドックスのような現象が見舞われます。なので、私はできる限りこの能力を使おうとしないんです」「なるほどな・・・・」確かに。聞いたことはある。あくまで2次元の世界での話だが、ほとんどの設定では未来の情報を伝えすぎたら、タイムパラドックスが発生し、世界の軸がずれ、地球が崩壊する。とかだっただろうか。今のところ、大吾の的中率は100%だ。だからこそ、占い師にはなれないんだろう。と、そんな大吾に興味津々になっていると・・・・・・。「大和君。妹さんがいらっしゃるよ」あー。来てしまったか。大吾の面白さに浸っていたのに、来てしまったか・・・・・・。「よし。断るか」今は、大吾と遊びたいし。今日という今日は優夢のお誘いを断るとしよう。と、優夢のお誘いを断ったのだが・・・・・・。「だめだよ?」「えぇ・・・」普通に断られるのであった。「俺今日は大吾と遊びたいんだ。今日はよしてくれ」「大吾って、メンタリストの?」「その大吾だ」「えぇー。私と遊ぼうよぉー。こんなに可愛い妹が誘っているんだよ?」「自分でいうなよ・・・」まぁ、言っていることは間違いではないが。「今日ばかりは無理だ。お願いだから、今日は勘弁してくれ」「私はこんなにお兄ちゃんと遊びたいのに、うぅ・・・」「なんでだ。來向や、真愛とでも遊べばいいじゃないか」「むー。わかった」そうして、珍しく優夢が首を縦に振った。いやぁ、やればできるじゃないか。と感心しながら、教室へ戻ろうとすると・・・・・・。「ねぇ。お兄ちゃん」「どうした?」「せめて、遊んでくれないならさ・・・・・・。ハグして?」はぁ。結局はハグするのか。僕はいつも仕方なく昼休みに優夢と遊んでやってるのだが、別れるときはいつも決まってハグを迫られる。まぁ、たまにしかしてやらないがな。これでも、してやっている俺を褒めてほしい。正直、俺は学校では兄妹でそんなことはいたくない。”昔の事”もあって、周りの目が気になる。だからそんな俺を褒めてほしいのだが・・・・・・。さて、今日はどうしようか。可愛い妹からハグを迫られるだけで幸せ者だろうと思う人もいるかもしれないが、僕は生憎そうでもない。どうせ家でもハグを迫られる。そんな何度もはぐなんかいなくていいのだ。だから俺は・・・「やだ」と言って、優夢の返答も聞かずにダッシュで教室へ戻ったのだった。
放課後、俺は父さんと通話をしていた。「おぉ。今度の休みには帰ってこれるのか?」「言って2日だけだがな・・・」「いいじゃねぇか。2日も戻ってこられるんだから」「俺からしたら2日しか。なんだよ」「まぁ、それもそうか」俺の父さんは、母が死んだことによって、男手一つで俺たちを育てなければならない。そうなると、こんな田舎で働いていたら、養える金額は貰えないのだ。そのため、父さんは東京へ出稼ぎに行っている。父さんが帰ってくる日は、大体有給をとれた日か、盆休み、大晦日しかないのだ。「大和は元気そうだが・・・・・・。優夢は元気か?中学校生活はどうなんだ?」「あぁ。優夢はいつも通りだよ。学校も、特に嫌な思いせず楽しんでるっぽいぞ」「よかった。彼氏はできたか?」「あんなブラコンに彼氏がいるわけがないだろう」「まぁそれもそうだな。大和はどうなんだ?好きな人はできたか?」「できてねぇよ」「大和も実は妹大好きだもんなー」「父さんまでそれをいうか。知ってるだろ。俺はその言葉が嫌いだって」昔、それで俺は虐めに遭っていたからな。「わりいわりい。あと、陽村家はどうだ?」「進治郎たちも特に変わったことはないよ。元気にしてる」「そうか。それはよかった。そんじゃ、今度の休みにそっち戻るから。じゃあな」「はーい」「あ、あと、義妹ということは、まだ言うなよ」「わかってる」と言って、通話は切れた。それと同時に「あ、いたいた!!お兄ちゃんこんなところにいたんだ」「あぁ、優夢」「それと、誰と話してたの?」「父さんだ」「あーお父さん」「父さん、今度の休みに帰ってくるってよ」「おぉー!!戻ってくるって?」「あぁ。父さんの好きなもん買って迎えてやらんとな」「そうだね」我が家は、今日も平和である。母さんがいなくなっても、温かい家庭であることにはかわりない。(母ちゃん、今日も、我が家は平和だぞ)と、心の中で囁く。懐かしいな。まだ2年前の話だが、母さんがいた頃も幸せに暮らしていたか。優夢がいつも俺に甘える姿を見た母は、あの優しい目で見守ってくれてたっけな。またあの日常が戻ってきてほしいと願うものではあるが、生憎そんな願いは届くはずもないもんな。母さんが死んでしまった事実は変わらない。だから、今はこの生活を親しむとしよう。そうして、いつものように・・・・・・、「さぁ。お兄ちゃん。一緒に帰ろ?」と、優夢のそんな問いかけに「あぁ」と言って、手を握るのだった。