最終話『愛しているよ_________』
その刹那、俺は”全て”を思い出していた。「・・・・・・え」説明をしよう。俺の名前を無叶大和といい、実は代記病という不治の病を患っている。代記病とは、記憶を取り戻すことを代償に、体の機能を奪っていく。・・・・・・そんな病気だ。しかし、現在、俺はすぐに異変を察知していた。医師から聞いた話によると、全ての記憶を思い出したとき、全ての体の機能を奪う。と、そう聞いていたはずなのだが・・・・・・。見ての通り、俺の体には何も起こっていない。まさか、記憶だけ戻って治ったのだろうか?「え?大和?どうしたの?」「記憶が、全ての記憶が戻ったんだ。真愛・・・・・・真愛だよな・・・・・・!!」「うん。そうだよ!!真愛だよ・・・・・・!!って、思い出したのに、何もないってことは・・・・・・?」「その可能性がある。急いで、医者に聞いてくる」そうして、俺は病室を飛び出す。やがて、医者に聞くと・・・・・・。「ああ。遂に、ですか。この病気は、それが普通なんです。最初はなんともないんですが、代償は体の全ての機能を少しずつ奪っていくんです。徐々に全身に広がっていき、そして・・・・・・。全身に回りきったら、実質の”死”を迎えるんです。もう、どうすることもできません。私からは・・・・・・。もう最期の刻をご自由にお過ごしくださいとしか・・・・・・」そうなのか。期待して損したような気がする・・・・・・。その事実を全員に伝えると。「お兄ちゃん・・・・・・全部、思い出したんだね・・・・・・」と、咳を混じらせながら優夢が話してくれる。「あぁ。そうだな」もう既に、俺の体に異変が生じているのを察知していた。あぁ。本当に、終わりが近づいてくるんだな・・・。と、今まで以上に死の恐怖を感じる。
それから、見守りに来てくれた人達は、俺たちの最期が寂しくならないように、と、毎日何時でも思い出を語ってくれた。それはもう沢山。どんなにしょうもない思い出でも、語り続けてくれた。気づけば、もう最終日へとなっていた。医師に告げられた通り、今日が、俺と優夢の命日だ。この3日で、腕の機能を失った俺は、遂に一人での生活ができなくなった。何度も言うが、やはりいつも使っていた部位が動かせなくなる生活はあまりにも不便だった。本当は自分で生活がしたいんだ。・・・・・・だけど。思うように体が動かないというのは、それなりにストレスも溜まる。一方、優夢の意識も更に朦朧としている状態だった。普通、話せないほどの体らしいのだが、やはり・・・・・・。俺の妹なだけあって優夢は強い子だ。喋ることもままならないほどなのに、それでも最期まで会話をしようと自分の体と奮闘を繰り返している。「無理なんか、してないよ・・・」と、優夢はそんな優しい嘘を吐く。「何年兄妹やっていると思ってんだ。わかるんだよ。お前が無理して話していることくらい・・・・・・。無理はするな」「それ、でも、お兄ちゃんと話したいの!!」「・・・・・・そうか。お前がそういうなら、最期まで付き合ってやるとしよう」「うん。ありがとう」「大和・・・・・・」「どうした?」「今更になってだが・・・俺、もっとお前と張り合いたかったよ・・・・・・。小学生の頃からのライバルでさ、お前に勝つためにいつも練習をしてきた。中学に上がってもっとレベルが上がったからいい勝負ができるのか!と気持ちを高ぶらせていたのに、だというのに・・・・・・。こんな結末なんて望んでねぇよ!!もっと、お前と陸上がしたかったよ・・・・・・!!」「・・・・・・ごめんな。いづれは、こうなる運命だったんだよ」「・・・・・・わかってる。わかってるよ、そんなこと。たらればを願っても、叶うことがないんだって。そんな事、わかりきってるよ。でも、だから・・・・・・俺は伝えたんだ」「・・・・・・」「大和に、ありがとうって。俺のライバルでいてくれて・・・・・・」そして、泰星は涙を流しながら、そんな感謝を告げる。「ありがとう・・・・・・!!」「あぁ。こちらこそ。だ。ずっと、俺に勝つために戦ってくれてありがとう」
きっと、神様も俺に微笑んでくれているのだろう。この、最期の1週間、これまで時が流れるのが驚くほどに速いと感じたのに。今日という日は、何故か時が進むのが遅く感じられた。しかし・・・・・・。そんな中、代償を払っていく体の様子は、進行を早めていた。まだ皆には言っていないが、実を言うと、俺も自分の体に限界を感じていた。もう、臓器が侵食されている。痛みを堪えながら、なんとか俺は話すことを続けた。・・・・・・ただ、流石に強い優夢でも、もう話すことができなくなっていた。肺の侵食が進み、遂に心拍数も下がり始めた。そんな俺達は、最期を思い入れのある場所で迎えようと決めた。それは・・・・・・近所にあった、”陽だまりの丘”だ。夕方になると、町の景色はオレンジ色に染まり、心が浄化されるほどの絶景が見渡せる場所だった。小さい頃に、俺と優夢でよく行っていた。医者も、最期の刻くらいは、好きな場所で送らせてやろうと思ったのか、俺達を陽だまりの丘へと運んでくれた。「あぁ。懐かしい」丘の天辺に生えていた、”シリウス”という花が咲く木の匂いが、俺の鼻へと届いていた。やっぱり、いい匂いだ。そして、街を見渡そうと思って、街の方へ目を向けた。・・・・・・のだが、辺りが真っ黒に染まった。なぜだろうか?・・・・・・いや。答えはもうわかっている。それは・・・・・・。「どうだ?大和。久しぶりに見る景色は」「んー」そこで、どう答えようか。と俺は悩んでしまう。普通は言った方がいいのだろうが、俺は最期まで意地を張って黙ろうとした。こんな時まで意地を張らない方がいいだろう。暫し俺は考える。進治郎は、幼馴染なんだぞ?そんな彼に、最期まで嘘を吐き続ける、なんて、不誠実だと思う。・・・・・・だったら、幼馴染に嘘なんて吐く意味がないか。「そうだな。真っ暗だ」「何言ってんだ?今はまだ真っ昼間・・・・・・って、まさか・・・・・・」「あぁ。そのまさかだ。嘘だろ?大和。大和!!」「そう叫ぶなって」「でも、でも・・・・・・!!」「わかってる。けどもう、俺も近いんだ。そりゃあ、俺だって怖いさ。暗い世界に独りで立たされて。何も見えないんだ。・・・・・・だが、ここで落ち込んでは行けないんだ。よく言うだろ?泣いて始まったんなら笑って終われ。・・・・・・と。だから、笑顔になれるように、最後にお別れ会でも開かないか?」「そうだな。落ち込んでちゃ、だめだよな。わかった。開こうか。お別れ会を」「そんな・・・・・・。大和。信じられないよ。最期だなんて」「仕方がない。現実は現実だ。真愛。立ち直れ。前を向くんだ」「んっ」「あぁ。それであってこその真愛だ」「それじゃあ、最期のメッセージを伝えるよ」そうして、俺と優夢の、無叶家兄妹のお別れ会が開催される。
「大和。優夢。14年、ありがとう。大和は、昔からいっぱい遊んでくれたよな。分からないところは教えてくれたし・・・・・・真愛にも沢山構ってやってくれて。優夢も、真愛と沢山遊んでくれてありがとうな。お前達のその笑顔が俺に元気を与えてくれたんだ。大和。優夢。来世でも、元気でな」
「大和。優夢。よく構ってくれてありがとう。いっぱい遊んでくれて、ありがとう。泣いている時は傍にいてくれて、放っておかず、傍に居続けてくれてありがとう。それと、いっぱい我儘言っちゃってごめんね。愛しているよ」
「大和君。優夢。仲良くしてくれてありがとう。大和君に関しては、生徒会とか・・・・・・その、恋愛で関わってくれてありがとう。あなた達の兄妹愛に、私は深く感動しました。あなた達のおかげで、知らないことを沢山知れました。こんな私に構い続けてくれて・・・・・・ありがとう!!」
「大和。いつまでも俺のライバルでいてくれてありがとう。大和のおかげで、俺は諦めずに陸上を頑張れた。お前と陸上を頑張りあえたのは・・・・・・とても楽しかったよ。優夢ちゃんも、大和のライバルである俺にも、応援してくれてありがとう」
「大和。優夢。最後まで、俺はお前達を構ってやれなくて、ごめんな。もっと、お前達と遊びたかったよ・・・・・・!!会いに行きたかったよ!!それでも、文句を言わなかったお前達には、感謝でしかないよ。お別れになってしまうが・・・・・・天国で母ちゃんと存分に遊んでやってくれ。今まで、ありがとうな」
全員、思いを伝えてくれたんだ。最後に、俺からも思いを伝えるとしよう。「皆ありがとう。俺も、みんなとはもっと遊びたかったよ・・・・・・。思い出ももっと作りたかったし、いつまでも笑っていられるような、そんな生活がしたかった!!俺だって、これが最期になるなんて、本当は信じたくもなかったよ。けど、もう。それが運命なんだ。自分でも実感をしている。だんだんと壊れていく、自分の体に。來向。真愛。告白の返事をしていなかったな。ごめんなさい。お前達と、付き合うことはできない。・・・・・・けど、それでも、お前達の事は『大好きだ』俺も、もっと話したかったよ・・・・・・!!」その瞬間、俺の目から涙が零れるのを感じ取った。初めて、泣いたような気がする。今までどんなことがあっても泣く事はなかった。だが、わかる。この涙は、俺の本心なのだろう。こうも話しているうちに、侵食をやめることは許されなかった。話せなくなる前に、俺も最期に感謝を述べようとした。その時・・・・・・。「みんな、ありがとう。私は、皆に会えて幸せ。皆のその愛情が、私は嬉しかった。体が弱くて、何もできなかった私に、構ってくれてありがとう。何もできなくてごめんね。でも、私は最期に叫ぶの。今までの感謝を込めて。お兄ちゃん、最期に、二人で、皆に伝えようよ。私達は、いつまでも『一緒』だからね」「あぁ。そうだな。俺達は、いつまでも『一緒』だ」か弱い声でも、最期の言葉を紡いだ。そんな妹に、改めて強いと感じる。俺は大きく息を吸う。使い物にならないくらいに機能が奪われてしまった肺を頼りにして。最期に、叫ぶ。今までの恩と、最期の愛を。「大好きだよ!!」「お兄ちゃん!!」「お兄ちゃん。甘やかして~」「大和」「大和」「大和君」「大和」「大和」「お兄ちゃん!!」嗚呼。これが走馬灯というやつか。みんなが、俺を呼ぶ。そんな声が聞こえる。もう、皆の声が私の鼓膜に届くことはなかった。・・・・・・が、聞こえなくたっていい。なんだっていい。自分の体の全てが奪われる前に、『最愛の妹』と、声を合わせて、最期に叫ぶ。『今までありがとう。愛しているよ_________」
最期の愛を叫ぶと同時に、優夢の心拍数は0になった。大和も、呼びかけても、触れても反応がない。触った時に、感じてしまった。彼は、もう冷たくなっていた。遂に、行ってしまったのだ。最期に、私達に愛を叫んで。私達は、このまま立ちすくんでいるままではいけない。まだ、最期にやり残したことが残っている。私達は、天に届くように、叫ぶ。『大好きだよ・・・・・・!!」
「あぁ。終りましたよ。ようやく。死にました。えぇ。これで終わりです。約束の報酬はもらえるんですよね?______はい。ありがとうございます。分かっています。これからが『始まり』ですよね。______はい。ご存じです。わかりました。頑張りましょう」
登場人物
・(主人公)無叶 大和
・(主人公の妹)無叶 優夢
・(幼馴染)陽村 進治郎
・(進治郎の妹)陽村 真愛
・(優夢の友達)星 來向
・(大和の陸上のライバル)陸奥 泰星
・(無叶兄妹の父)無叶 和茂
・(無叶兄妹の母※登場なし)無叶 早苗美
・(クラスメイト)メンタリスト大吾
ご視聴ありがとうございました!!大和達に訪れた最期は、とても残酷な結末でしたね・・・・・・。さて、疑問に思った人もいるんじゃないでしょうか?「なんで無叶って書いて『むと』って読むんだろう・・・?」と。私が主人公の苗字を『無叶』にしたのか・・・・・。その秘密を余談として話します。
以外と単純です。「叶」という字は主に「願い」です。そして、「無」という字は「無い」とよく言いますよね。その「無い」と「叶」を合わせて、「無い叶い」にして、あとは送り仮名を消して「無叶」にしました。「じゃあなんで『叶わない願い』なのに、『願い』を使わず『無い』にしたの?」という疑問も浮かび上がってくると思います。それは、「願い叶い」を「願叶」にすると、叶ってしまう意味の苗字になってしまうなーと思ったからです。できるだけ、「叶わぬ願い」を表現した苗字にしようと思って選んだ苗字が「無叶」でした。今回の物語、気に入ってくれましたでしょうか?
さて、話は変わり、これからの小説の投稿についてお話しします。youtubeの個人チャンネルの方でも発表させていただいたのですが、これからは、平日は毎日18:30に1本投稿、休日祝日は2本投稿(たまに気分で3本にする可能性はなくもない)とします。休日祝日の投稿時間は、15:00に1本目、17:00に二本目にします。気分で3本目を投稿する場合は、18:00以降のいつかに投稿します。そして、学生には必要不可欠である、「長期休み」の期間は、平日土日祝日構わず、毎日2本投稿(たまに気分で3本)にします。ただし、投稿時間は長期休み以外の土日祝日のときと変わらず、1本目は15:00、2本目は17:00投稿です。。次の小説は、ある程度準備が出来次第、投稿を開始します。毎日1本以上投稿は、次の小説から始めます。
再度、改めましてご視聴ありがとうございました。




