幸せ
あれから、長い月日が経過していた。それまで、思い出したりすることは1度もなかった。ただ、話を聞いて理解する程度だった。約束通り、優夢とはあれから沢山語り合い、また少しずつ悪化していく優夢だが、それでも笑顔を絶やさないでいる。ほんと、俺の妹は強いのである。そして、月は9月へと差し掛かっていた。記憶は思い出せないままだったが、それでも優夢と語り合ったあの時は楽しかった。恐らく、最期に記憶を取り戻すときに、全てを思い出すことになるのだろう。徐々に死が近づいているというのに、何故か怖さをあまり感じていなかった。一方、優夢の状態は悪化に更に悪化を付け加えたような状態になっていた。喘息と同時に、癌の進行が発見され、現在はもう点滴生活だ。意識はあるから、辛うじて話すことはできるが・・・。話すたびに咳き込んでしまい、見ても分かる通り辛そうだ。そして、そんな状況の中、構わず医師は告げてきた。「正式に言います。貴方達二人の余命は正式に1週間となりました。貴方、大和さんに関しては、治療法が未発見な上、薬もございませんので、誠に遺憾ながら、ただその刻を待つのみです。優夢さんは、手術をすれば、多少は長生きできますが、ただもう手遅れでしょう。それに、もし手術に失敗するようでありましたら、更に死の刻が早くなってしまう恐れがありますので、点滴で生活することになるでしょう」と。医師はそう告げた。。最期の一週間は、特に関わりが深かった人物達全員が、見守りに来るそうだ。最期を見届けるべく、医者も配慮してくれたのか、僕を優夢と同じ病室へと移してくれた。そろそろ、全員到着する時間らしいのだが・・・。と、その人達を待っていた、その時・・・。ガラリと、扉が開く音がした。「失礼しまーす」「久しぶりだな。大和」「えっと、誰だっけ・・・」「進治郎だよ。幼馴染の」「あぁ。進治郎」「俺の事もやはり覚えていないか?」「そうだな。悪い」「泰星だ。しっかり覚えておいてくれよ?」「泰星か。わかった。そして、そこの二人は・・・・・・この前の」「そうだよ。真愛と」「來向だよ」「真愛と來向か。そして、確か・・・・・・」「お父さんだ。それと、安心しろ。休養は取ってきた」「は、はぁ。そうですか」別に、気に留めていなかったが・・・・・・まぁいいだろう。「大和、お前は大丈夫なのか?」「ここ最近は、症状は見られないな」「そうか。それはよかった。ただ、優夢は・・・・・・」「大丈夫だ。ただ寝ているだけだ。昨日は少し話しすぎてしまってな。妹は爆睡中だ」「そっかぁ。あ、そうだ。大和。私達ね、全員病院に泊まり込みになるらしいよ」「そうなのか。わざわざありがとう。俺達のために」「何いってんだ?当然だろ?」「俺も、お前とは大事なライバルだったしな。寂しい気もするが・・・・・・ライバルの最期くらい見届けてやるよ」「そうか。俺だけじゃなくて、優夢の最期も見届けてやってくれ」「当たり前だ」まだ、何も起こっていないというのに、心の中では徐々に死が近づいていることに恐怖する。それと同時に、この人達から楽しさと愛情を感じる。あぁ、願うならば、ずっとこの時間が続けばいいのに。と、そんなたらればな話を想像してしまう。「まだ・・・・・・死にたくねぇよ」と、思わずそんな感想が吐露してしまう。何故こんな不幸に見舞われたのか。何故、なんで・・・俺達が・・・・・・!!と、願っても叶わない願いを込めてしまう。俺の全ての記憶が取り戻されるまで、あとどれくらいだろうか。もう、そんなことを考えなくてもいいか。どうせ、1週間が経てば死ぬんだ。・・・・・・だったら、考える必要もないだろう。それまでは楽しく、みんなと談笑するとしよう。
あれから、3日が過ぎた
優夢の体調は、もう薬でも止められなかった。肺の侵食が80%程まで進行を進めており、そのせいで優夢の意識が朦朧としていた。それに対して、俺はというと、やはり体に異変は生じなかった。そんな俺は今、真愛と雑談をしていた。「まだ、離れたくないんですけどね・・・・・・」「仕方がないことだ。時というものはそれほど残酷なものなんだ」忘れている人もいるかもしれないから、一応説明をしておこう。2週間ほど前、俺はこの少女に告白を受けた。だから、真愛は平気で離れたくないなどとか言えるのだ。「ですよねぇ。いつ、全て思い出すんでしょうね」「それは俺にもわからない。・・・・・・恐らく、最終日だろうか」「たぶん、そうだね」・・・・・・そして、暫く静まり返った空気が流れる。「ねぇ、大和」「どうした?」「”来世”でも、私達は巡り会えるかな」「それは・・・・・・わからない。来世にならないと、その答えを知ることはできない」「だよね。でも、また会えるといいね」「それはそうだな」「ねぇ、もしさ、来世で会ったきに、その時に向けて、今なにか合言葉を考えておかない?」「本当に会えるかどうかわからないぞ?・・・・・・それに、会ったとしても前世の記憶があるかどうかなんて、相当確率が低いぞ」「それでもいいの!!・・・・・・それで、どう?その少ない可能性を信じて、合言葉を考えておかない?」「まぁ、ありだな」実際、真愛の事は大切だ。それに、また来世でも会えるなら、何度だって会いたい。・・・・・・それなら、その可能性を信じて、合言葉を決めることも悪くないか。と、そう考えて、俺はその合言葉を決めるために、暫し悩んだ。・・・・・・そして、俺が絞った答えは・・・「”再輪”なんかどうだ?」「さいりん?」「あぁ」「それは、どういう意味?」「輪廻転生をどれだけ繰り返しても、再び俺達は再会を繰り返す。とか?」「うん。いいね!!」「いいんだ」「それいいじゃん!!じゃあ、来世で会うことができたら、その言葉を放とうね!!」「あぁ。わかった」「・・・・・・ねぇ。大和君」「どうした?」やがて立ち直ったように、体をこちらに向けて、俺の顔をじーっと見つめる。「後悔が残らないように、改めて言うね」「お、おう?」そして・・・。「大和君。大好きだよ」優しく凛々としている彼女から発せられたその言葉は、とても可愛らしく見えた。そんな彼女の告白に対して俺は、軽く受け流そうとする。と、その時・・・・・・。「あっ」_________。




