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私は、2週間ほど寝込んだそうだ。それは、言うまでもないだろう・・・・・・。改めて、自己紹介をするとしよう。私の名前は、無叶大和といい、実は「代記病」という、不治の病を患っている。代記病とは、名前の通り、記憶を取り戻すことを代償に、徐々に体の機能を奪っていく・・・・・・。そんな、病気。そして、思い出した内容によって、発生する症状はどうやら違うらしい。普段は、吐血をしたりなんだが、今回は、相当重い内容だった。説明をしよう。私は______いや、俺は、俺を思い出した。それは、自分の特徴や性格、これまでの功績などを思い出した。・・・・・・そのせいで、下半身が動かなくなった。と、医師にそう告げられた。嘘じゃなかった。自分にとって、自分を思い出すことはそれなりの代償が必要だったそうだ。正直、体の機能を奪うなんか嘘かと思っていた。吐血はしていたものの・・・そんな事例のない病気の症状なんか、信じられるはずもなかった。実際に足を失って、恐怖心を抱く。それから少々の検査などを受けて、ある程度時間が経った時・・・・・・。「今の状態はどうですか?」「何ともない感じですね。・・・・・・ただ、足が動かないのは、やっぱり不便ですね」「でしょうね。流石に、足を動かせないのであれば、一人で動くことはできないので、これからは車椅子で生活してください。介護は、基本的に看護師が行います」「わかりました。ありがとうございます」人生で、車椅子に乗ることになるなんて思いもしなかった。昔から、健康状態などには気を遣っていたから、骨折どころか、怪我すらも中々しないような体だった。でも、思っていた以上に、車椅子の生活は不便だった。ずっと座りっぱなしで、間が狭い。はぁ。どうしてこんなことになってしまったのか・・・・・・。と、少し俺は落ち込んでしまうのだった。
「お兄ちゃん」「どうした?」「思い出したの?」「あぁ。そうだな。自分の事は思い出せた。が、まだ優夢のことは思い出せていないんだ」「じゃあ、やっぱり・・・・・・。そうなんだ。もう、私達の最後は近づいているんだね」確かにそうだ。時期は、8月の中旬。俺たちの最期は、「夏が終わりを告げる頃」。普通、夏が終わる頃というと、早くても9月の中旬とかだろう。「元気にしていたか?」「・・・・・・悪化するばかりだよ。もう、腸を抜けて肺に向かっているって」「そうか。ごめんな。なにもしてやれなくて」と、自分の情けなさからそんな言葉が零れる。すると・・・・・・「お兄ちゃん、その言い方なに?」「え?」なにか、おかしな事をいっただろうか・・・。「お兄ちゃんも、死が近づいているんだよ!?・・・・・それなのに、自分の事はお構いなしに、いつまでも私の事ばっかじゃん!!確かに、私の体調とかを心配してくれるのは嬉しいよ。けど、少しくらい自分の事心配しなさいよ!!ずっと、ずっと私の事だけを気にかけてさ・・・。すぐそうやて「守ってやれなくてごめんな」って。なんでお兄ちゃんが謝るの!!」「・・・・」「その心配がずっと私を苦しめるの!!お兄ちゃんはなにも悪くないはずなのに、なのに・・・。なんで・・・。それでなに?なにもしてやれないって。もう既に、いっぱいしてもらっているの!!返しても、返しきれない量の恩をお兄ちゃんからもらってるの!!なのにお兄ちゃんは、自分の事を卑下するばかりで、いい加減認めなよ!!お兄ちゃんのその優しさが私を苦しめるの!!」長々と、優夢のお説教が病室内に豪語する。そうか。そうなのか・・・。優夢は、”俺のせいで辛い思いをしていたんだ”・・・・・・。いや、違うだろ。大和。優夢は、そう考えてしまうお前の思考が悪い。と、そう言っていただろう。丁度先程。だったら、もうわかるだろ。俺が今、優夢とるべき行動は。「確かに、俺の体はもう機能を奪われ始めている。その証拠が、下半身が動かないことだ。きっと、そうしているうちに全てが思い出されるのだろう。優夢の言う通りだ。俺は、俺が望んだ”最期の刻”を過ごす」「そうだよ。それであってこそのお兄ちゃんだよ」あぁ。そうだ。昔から、俺の目的は変わっていないんだ。勿論、優夢を大切にするのは当たり前だが、それに連れて守り続けてきたこと。それは・・・”自分のいきたい人生を歩む”事だ。そうだ。じゃあ、その事に気づかせてくれた優夢に、”あの言葉”を告げることにしよう。「なぁ、優夢」「どうしたの?」「_______」「・・・・・・!!」何度も、嘘かと疑ってしまう。これは夢なんじゃないかと、そう疑って頬をつねってみたが、やはり痛みを感じた。それほど、信じられない言葉だった。お兄ちゃんが、嘘でそんなことを言うような言葉ではない。紛れもなく、お兄ちゃんから発せられたその言葉には、”真実”が込められている。「お兄ちゃん・・・・・・その言葉、信じていいんだよね?」「あぁ。紛れもなく、この言葉は本心だ」思わず、私の瞳から涙が込み上げてくる。だって、お兄ちゃんから、その言葉を聞くのは初めてだったから。「お兄ちゃん、それは、どういう意味なの・・・?」「答え合わせは、俺が記憶を全て取り戻してからだ。俺たちのやるべき事はもう決まった。残り1ヶ月、毎日変わり映えのない生活を送る。毎日同じ光景で、同じ景色をただ見つめるだけ。だが、そんな生活に一つの”楽しみ”を作ろう。さて、ここで問題だ。俺の妹である優夢なら、すぐに答えを導き出すことができるだろう。俺たちに共通する、”楽しみ”とは?」「答えは一つしかないね」そう。それが、私達に残された、昔から変わらない楽しみ。お兄ちゃんから繰り出されたその質問に、わたしは回答をする。「兄妹で仲良くお話をすること・・・・・・!!」「正解だ。今日はもう遅いから寝よう。だが、明日から、いっぱい話し衝くそう」「うん!!」「もしよかったら。一緒に寝るか?」「久しぶりにお兄ちゃんと一緒に寝れるなんて。嬉しい」「それじゃあ、医者に許可をえてくる」「わかった」「待たせてごめんな。優夢」「うん。いいよ・・・!!」そうして、お兄ちゃんは部屋を後にした。あの言葉は、死んでも忘れることはできないだろう。それほど、衝撃的な一言だった。そう。その一言とは。「好きだ」__________




