末期
「優夢さん!!しっかりしてください!」必死の叫びが病室内に豪語する。私だけじゃどうしてもいられない。とにかく、ナースコールを・・・・・・!!
私が部屋に入って最初に目にした景色は、布団とベッドが血だらけになっていた。夜中だし、寝ぼけているとも思った。・・・・・・が、優夢さんの苦しそうな声を聞いた途端、夢であっても、夢じゃなくても救わないとと思った。そして、これは現実だった。当の優夢さんは、血を吐いて、やがて意識を失った。あの量だと、恐らく長い時間あの状態だったかもしれない。(なんで、もっとはやく・・・)もっとはやく気づいてあげれなかった自分が、情けなく感じる。私は、優夢さんのお兄さんのはずなのに、それなのに・・・・・・。(もし、救えなかったら・・・)私は、気づくことに遅れたことを、死ぬまで後悔するだろう。「大丈夫でしょうか・・・」心配で心配で仕方がない。今、優夢さんが検査を受けているようだ。「あぁ。なんで・・・」再び、後悔が私を襲う。もっとはやく気づいていれば、妹が長く苦しまなくて済んだのに・・・。なんで。なんで・・・。「兄として、失格だな」そうひどく落ち込む。それから数分後、医師がやって来た。そうして一言。「彼女は、昔の喘息が再発し、末期状態になりました」「っ・・・・・・」聞いたことがある。喘息にも階級があって、それの最恐クラス。・・・・・・そうなってしまうと、手術をしても治らない。と、本で読んだ。ただ、進行を遅らせる程度しか生き延びる方法はない。と。「残念ながら、彼女に残された時間は残り僅かです。恐らく、あなたと同時期の”夏が終わりを告げる頃”でしょうか」「そう、ですか・・・。今、優夢さんはどこへ?」「治療室で横たわっています。意識はあるようですが、まだ目を覚ましていません。一刻も早く目を覚ますように、声をかけてあげてください。夜間ですが、ごめんなさい。そして、少しでも早く優夢さんを発見していただき、ありがとうございます」「こちらこそ、大切な妹を必死になって夜遅くに動いてくださり、本当にありがとうございます」その時、私は自分で発した言葉に驚いた。兄妹とはいえ、記憶のない今は私にとって他人のような存在。だというのに、私の口からは自然と「大切な妹」という言葉が出てきた。きっと、これが「本心」なんだろう。そんな大切な妹に今できることは、寄り添うことだ。さぁ、「大切な妹」がいる部屋まで、向かうとしよう。
「思い出したぞ。優夢」実際思い出したわけではないが、恐らくこんな感じだろう。という憶測で、優夢さんに語りかけてみることにした。「起きろー。いつまで寝てんだ。起きないと・・・」恥ずかしい。実に恥ずかしい。私の記憶が失くなる前の大和を演じてみたが、今は他人と同じようなもの。そんな人に、こんなこと言うのは存外恥ずかしいのである。が、言うしかない。きっと、これが正解なのだから。「起きないと、キス、するぞ」う、うぐぅ・・・。恥ずかしい。こんなこと言うんじゃなかった。言ってから後悔しても遅いのはわかっている。(本当に、こんな感じだったのだろうか)そんな疑問を抱きつつも、(もし、聞かれてたら・・・・・・)って、「聞こえてねぇか」
いや、「思いっきり聞こえてるわ!!」話すことができないので、心の中で叫ぶ。え、なに?どうしたの!?いや、話し方で分かる。お兄ちゃんは、思い出していない。だって、いつものお兄ちゃんと違うし。それに・・・・・・。あのときのお兄ちゃんは、「キスするぞ」なんて言わないし。・・・・・・でも、(キス、されたいなぁ・・・)でも、今はお兄ちゃんであって、お兄ちゃんじゃない。姿はお兄ちゃんでも、中身がお兄ちゃんじゃないなら、なにかそれは違う気がする。いやまぁ、どっちのお兄ちゃんでも嬉しいんだけどね??しかし・・・。お兄ちゃんがもし記憶を取り戻したら、いつも通りの対応になってしまうのかもしれない。今のお兄ちゃんももちろん好きだが、あにかぎこちない。昔のお兄ちゃんの方が、たよりがいがあって、全力で甘えることができた。・・・・・・しかし、今のお兄ちゃんは、甘えようにも少し抵抗がある。昔のお兄ちゃんに戻ることを願った方がいいのだろうか。しかし、お兄ちゃんが記憶を取り戻したら・・・・・・。「って、私も、同時に死んじゃうのか」
そうして、私は目を覚ます「お、おはよう?優夢さん」「あ、さんを付けた。兄妹なんだし、さんつけなくていいんだよ。それと、おはよう」「まだ私の癖が出ていますね。兄妹とはいえ、やはり私からしたら他人のようなものです。何故なら、あなたを知らないから」「まぁ、だよね。無理に思い出そうとしなくてもいいからね。・・・・・・それで、聞いたんでしょ?」「・・・・・・まぁ」「本当に、私達はいつまでも一緒だね」「そうだな」「やっぱり、違和感しかないなぁ。前のお兄ちゃんとは違うから」「前の私はどんな感じだったんですか?」「きっと、前のお兄ちゃんなら”きもい”とか言うんだろうなぁ」「そんな酷いことを言うんですね・・・」「大丈夫だよ。それがお兄ちゃんだから!」それは大丈夫なのか?と、私は思った。「ねぇ、お兄ちゃん」「どうした?」そうして、優夢さんから驚きの言葉が紡がれる。「大好きだよ」「!!」「そんなに驚かなくてもいいよ。いつも言っていたことだから」一瞬、驚いたのだが・・・・・・。「優夢・・・」「え?」「!?」一瞬、記憶が飛びかけた。一瞬だけ、世界が真っ白になったような、そんな感覚がした。「お兄ちゃん、今のって・・・・・・」「ど、どうした?」そうしてまた、優夢さんの口から衝撃な事が告げられる。「今ね、前のお兄ちゃんに戻った気がするの」・・・・・・と。




