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始まりの物語  作者: 柴田優生


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私達の夏が終わりを告げる頃。

私は、その状況を嘘だと信じたかった。・・・・・・だが、現実は夢を見させてくれない。その刹那、お兄ちゃんが口から血を吐き出した。「お兄ちゃん!!どうしたの!?」「一つ、記憶を思い出したときに、急に痛みがしまして・・・・・・アガッ」「大丈夫?」「あ・・・ぁ・・・・・・」言葉にならない狼狽えが口から出る。吐血のせいで、喉が悲鳴を上げている。そうもしているうちに、私の意識は暗闇へと引きずり込まれて・・・・・・。「お兄ちゃん!!」呼びかけても、反応を示さなかった。何故だろう。この前のような、どこかをぶつけたわけではない。だとしたら・・・・・・吐血?「いや、そうもしていられない」とにかく、ナースコールを・・・・・・!!

 「お兄ちゃんに一体何があったんですか!?」「・・・・・・それが、わからないんです。私共の病院は、世界最高峰です。精密な機械で検査したりもしました。・・・・・・しかし、問題はないと表示されるばかりで・・・」「不良品なんじゃないの!?」「ケチをつけないでください。もう一度検査を行いますから、暫くの間ベッドに横たわっていてください」「わかりました・・・」そうして、ベッドに横たわりながら、私は考察をする。お兄ちゃんは言っていた。「記憶を思い出した時、突然激痛が走った」・・・・・・と。ただ、記憶喪失って、そんな症状があるのか?あくまで、漫画やアニメでしか見ないが、それらの設定でも吐血するという症状は現れていなかったはず。・・・・・・つまり、これは”ただの記憶喪失じゃない”世界最高峰の病院の機械で検査を行っても、問題はないと表示されていた。・・・・・・つまり、精密な機械でも検知できない未知の病気?まさか・・・・・・。そんなはずがないと思って、私は結果を待つことにした。その、数時間後。「それで、どうなったって言うんですか?」「やはり、検査をしても異常無しと表示されるばかりで・・・・・・。流石におかしい。と思って、私は考えました。その結果、私の脳内に、精密な機械でもわからない、未知の病気が思い浮かんだんです」「それがなんなんだよ」「それは”代記病だいきびょう”という病気です」「なんだそれ」「代記病は、字の通り、記憶を徐々に思い出すことを代償に、からだの機能を蝕んでいく病気です。・・・・・・そして、ここからが本題です。先ほど、私は機械でもわからない。と告げましたよね?」「はい」「つまり、前例がない。・・・・・・ので、治療薬も開発できていないのです。確定で代記病と言えるわけではないんですが、恐らくこの病気が一番近いと思います」「その、からだの機能を奪うってのはなんなんだ?」「思い出す記憶によって違うんです。一つ思い出すだけなら、吐血や嘔吐の症状が見られるんですが、全てを思い出した時、体の機能を奪うんです。その体の機能というのは、聴覚、視覚、触覚、色覚などの、全ての感覚が消えるんです。触られても、話しかけられても、何をするにも反応を示すことがありません。所謂、植物状態のようなものです。死ぬわけではありません。が、”人として生きていられるのは”ほんの数秒だと思います。暗闇に放り出され、周りの音も何も感じ取れない。・・・・・・そうなってしまったら、1分をたたないうちに精神が崩壊し、次第には、生きてはいるけど人間としては死んでいる状態になるでしょう」「んだよそれ。治せねぇのか?」「いくら最高峰の病院とはいえ、機械ですら解決できないのならば、私たち人間では太刀打ちできません。記憶を取り戻さないようにしても無駄です。記憶がなくなっているのは、一時的なものです。いつか、全てを思い出すときは、必ず訪れます。恐らく、残された時間は残り僅かでしょう。・・・・・・夏が終わる頃。が最期だと予測されます」「そんな・・・・・・」「それだけ、なのか?」「それだけとは?」「症状は、それだけなのか?本当にもう、夏が終わる頃までしか残されていないのか?」「はい。恐れ入りますが、残された時間は僅かです」「・・・・・・。そうか」大和・・・・・・。「その症状以外、特に何かの感染症はありません。目立った外傷もないですし、恐らく、大和さんの治癒速度がはやいのでしょう。頭部を強く叩きつけた時にできた傷は、傷口がくっつきつつあります。あとは、激しい運動をさせなければ、どこへ歩いても大丈夫です。残り少ない時間ですが、思い出を創ることをお勧めします」「そんな、悲しいことをいうなよ・・・・」わかってる。俺だって、分かりきっている。未知の病なんだ。治せないことも、この医者ですら、なにもできず、ただ見送ることしかできないっていうのは、分かっている。・・・・・・だけど。「思い出を創ることを進めるって、なんだよ」諦めちゃだめじゃないか。もう、諦めるしかないんだろう。本当は。・・・・・・だけど、だけど・・・・・・。「大和が可哀想じゃねぇか」なりたくてなったわけでもないのに、ただ、”最期の刻”を迎えるまで死を待つ。それが、本人はどれだけ辛いことか。陽村進治郎。ここで諦めたらだめだ。治せるとか・・・・・・そういった知識はないが、最後まで、大和と向き合え。それが、お前にできることだろ。「だったら、思い出を創る。っていうのも悪くないか」だったら、一生忘れないように、最高の思い出を創りあげよう。「私も、まだ、お兄ちゃんとしたいことはいっぱいあるの・・・・・・!!」「そうですか。あなたも、病気を治して、お兄さんと最期の刻を過ごせるよう、頑張ってくださいね」「はい!!」その元気な返事が、室内に豪語する。決めた。今度は俺たちが、大和を支える場面だ。だから・・・・・・。

 「・・・・・・ん?」「お、起きたか」「あぁ。おはようございます。えぇっと、進治郎さん。・・・・・・でしたっけ」「敬語じゃなくていいよ。幼馴染なんだし、馴れ馴れしくこいよ」「ですが、私はどうしても意識してしまいます」「じゃあ、それでもいっか。それで、体調の方はどうだ?」「なんともないようです」「そうか。激しい運動をしなければ外出は大丈夫と承認を得たぞ」「そうですか。・・・・・・ですが、今の私には、行きたい場所というのがないんです」「しょうもねぇやつだなぁ」「すみません」「なんで謝るんだよ」とは言われましても、行く当てはないのである。「あ、そうだ。他の人にも会うか?」「まだ誰かお会いしていない方がいらっしゃるんですか?」「あぁ。そうだ。・・・・・・きっと、お前の大切な人達だ」「大切な人達・・・・・・ですか」「あぁそうだ」「きっと、思い出す鍵となるので、是非お会いしたいところです」「・・・・・・分かった。待ってろ」その大和の言葉に、少し悲しみを感じつつも、俺はそんな言葉を返す。そうして・・・・・・。「記憶がないって本当!?大丈夫?大和!!」「大和君。大丈夫?・・・・・・って言っても、大丈夫なわけないか。辛いよね、」「え、えぇっと・・・」「紹介するから」「じ、じゃあ、改めて自己紹介。私は星來向。同じ生徒会で、あなたの後輩だよ」「私は幼馴染の陽村真愛」真愛さん。ですか・・・・・・。真愛さんは、進治郎さんの兄妹ですか?」「うん。妹だよ」「幼馴染。ですか・・・。私は美男美女な幼馴染がいるんですね」「おぉ、急だな・・・」「來向さん?もとても可愛らしいですね。きっと、そのような人達にか囲まれていた私は、幸せ者だったのでしょう」「ふぇっ!?」「なるほど。真愛さん。來向さん。ですか。よろしくお願いします」「私達後輩ですよ?タメ口できてよ」「慣れないですね。・・・・・・申し訳ありませんが、私はあなたたちの事を覚えていないので・・・」「記憶喪失だっけ。まぁそうだね。私は敬語でも大丈夫ですよ。無理はしないでくださいね」「んー。じゃあそのままでいっか」突然現れた人達に少し記憶がごちゃ混ぜになりながらも、その後も、談笑を続けるのであった。

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