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始まりの物語  作者: 柴田優生


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34/43

事故

・・・・・・刹那。スタジアムには鈍い音が響き渡る。何があったのかと言うと、ゴールをした。次の瞬間・・・。お兄ちゃんが、転んでしまい・・・。そのままの勢いで、強く地面に頭を叩きつけた。確実に、人体から鳴るような音ではなかった。私は、お兄ちゃんの名前を連呼しながら、ダッシュでお兄ちゃんのそばへ駆け寄る。喘息なんか、お構いなしに、とにかく、全速力で駆け寄る。「お兄ちゃん!!大丈夫?・・・・・・って、えっ?」なにやら、手に変な感触が伝わる。何故だろう。お兄ちゃんの頭部を触っただけなのに、どうして・・・?疑問に思った私は、自分の掌を覗く。すると、私の掌には、大量の血が付着していた。「ねぇ!!お兄ちゃん!!お兄ちゃん!!」体を揺さぶっても、何度も何度も呼びかけても、お兄ちゃんは反応しない。「えっ!?嘘!?」「大和君!?」「なにがあったの・・・?」お兄ちゃんが転んだことにより、会場が騒然となる。「大和!!しっかりしろ!!・・・って、なんだその血の量!!」「と、とりあ・・・、あ・・・」あぁ。私も、どうやら限界に達したらしい。会場の観客が五月蝿うるさくざわめくが、その声はだんだんと遠くなっていく。そして、同時に意識も遠退いていき・・・・・・。

 「はっ!?」気がついた私は、見知らぬ天井が視界に写っていた。「ここは・・・どこっ・・・ゲホッゲホッ・・・」「優夢さん。無理して走らないでと、言いましたよね?」声がする方に、視線を飛ばすと、何やら医者のような人が立っていた。・・・・・・とどのつまり、ここは病院?「そ、そういえば、お兄ちゃんが・・・!!」「まず、状況を説明します。陸上のレース直後、お兄様が倒れました。それを、貴女が走って助けにいきました。しかし、喘息持ちの貴女も、意識が遠退いていき、あなたたちは病院へ緊急搬送されました。・・・確かに、大切なお兄様のために全速力で駆け寄る行動は素晴らしいことです。・・・が、無理に走ってしまったら、喘息が悪化しかねません。もしそれで末期状態に陥ったらどうするんですか」「そんな、喘息の事なんかどうでもいいの。私は・・・私なんかより、お兄ちゃんの方が大事なの!!」「・・・」「それで、お兄ちゃんはどうなったの?」「只今、別室で検査を行っています。現在の結果としては、頭部を強く叩きつけたことにより、記憶がないらしいです。・・・所謂、記憶喪失というやつです」漫画やアニメでよく目にする単語だろう。記憶喪失・・・?つまり、お兄ちゃんは・・・。「ただし、一時的なものなので、そのうち復活すると思います」安堵していいのか、悲しんだ方がいいのかわからない。一応・・・。命に別状はないみたいだけど、それでも、お兄ちゃんに私の存在が忘れられているのだとしたら・・・・・・。自然と、涙が溢れ出そうになる。しかし、ここでくよくよしていても、お兄ちゃんは私の事を思い出すことはできない。・・・・・・なら、今から、お兄ちゃんに会いに行こう。「じゃあ、ちょっと、お兄ちゃんの部屋に・・・」「だめです。行きたい気持ちは十分わかりますが、今はお体を安静にしてください」「でも、お兄ちゃんが・・・」「治まってからにしてください。今はまだ、何が起こるかわかった状況ではないんです。・・・・・・だから、今は休んでください」「・・・・・・わかりました」医者にそんなことを言われてしまったら、流石に会いに行くことはできない。・・・・・・大人しく、この静かな病室のベッドの上で、休んでいることにしよう。

 「やぁ。大和。元気か?」「申し訳ありませんが・・・。私はあなたの事を存じ上げていないようです」気づいたときには目を覚ましており、俺は白い服を着た男性に、「記憶喪失」と告げられた。・・・・・・記憶喪失、という意味を、正直わかっていない。そして、この目の前の男性にも、見覚えがないので、その症状が本当なのかを疑う。頭には、包帯がグルグル巻きにされていて、そのせいか、頭がヒリヒリするような感覚を覚える。「なるほど。記憶喪失か・・・。大丈夫そうだな」「どこを見て大丈夫と思ったのでしょう・・・・・・」思わず、そんなツッコミが口から出てしまう。・・・・・・一体この人には、頭に巻かれている包帯が目に入っていないのだろうか?「まぁ、そうだな・・・。改めて自己紹介をするか。俺の名前は陽村進治郎。幼馴染で、、同じ陸上のチームに所属している」「幼馴染・・・なんですか」「あぁ。ちなみに、お前という人間はスポーツ全般得意で、日本中で注目を集めているんだぞ」「私って有名人なんですか!?」「あぁ。そうだぞ。誇れよ。自分を」「それで、なんですが・・・。自分の名前を知らないので、自己紹介ができないんです・・・・・・。すみません」「なら教えてやるよ。お前の名前は無叶大和だ」「大和・・・・・・。良い名前を授かっているんですね」「ははっ。そうだな」何も、わからない。その事実がどれだけ怖いことか、思い知ったことはあるだろうか。進治郎・・・・・・さんと同級生と考えると、恐らく10年以上は生きているのだろう。・・・・・・なのに、何も覚えていない。ということはあるだろうか。いや、流石にあり得ない。・・・・・・とどのつまり、「記憶喪失」という症状の意味は、「記憶が消えること」なのだろうか。・・・・・・だとしたら、辻褄は合う。進治郎と名乗る人物が幼馴染だということが・・・・・・。「失礼します」「あぁ、えっと・・・。看護師さん。でしたっけ?」「はい。そうです。検査の結果が出ましたので、お伝えします。検査の結果、記憶喪失以外の目立った外傷は特に見当たりませんでした。なので、もう自由に歩き回っても大丈夫ですよ。・・・・・・しかし、一応頭部の傷は癒えていませんので、走るなどの、激しい運動はお控えください」「はい。わかりました」「・・・・・・それでは、失礼します」そう言って、看護師さんは去っていった。「なんか、その謙虚な姿勢の大和を見ていると違和感がすごいな。まるで、人が入れ替わったかのように」「記憶があるときの私はどんなのだったんでしょう・・・・・・」もしかしたら、ヤンキーで、暴れまわっていたりしていたのだろうか・・・。「それはともかく、お前には、もう一人会っておくべき人がいる。立てるか?」「は、はい」「そっか。それじゃあ、ついてこい」そう言って、病室を出た進治郎さんを追いかけるように、私も病室を後にするのだった。

 その会うべき人がいる病室に辿り着き、病室の扉を開けた、その刹那・・・・・・。「お、お兄ちゃん・・・・・・!!」「うわっ!?いきなりどうしたんですか!!」お兄ちゃん?その言葉に、疑問を抱く。・・・・・・だって、こんな美少女が私の妹だって?・・・はて、前世でどんな得を積んだらこんな美少女が妹になるのだろうか。「彼女の言うとおり、お前の妹だ。名前は、無叶優夢という。・・・・・・しかし、お前たちは、血の繋がった兄妹じゃないんだ」血が繋がっていない・・・だと?更に、話が難しくなる。「血の繋がっていない妹にしては・・・似ているところがたくさんあると思いますが」「義妹とはいっても、長い間一緒にいるからな。似ている部分の一つや二つはあってもおかしくないだろ」「そんなものなんでしょうか・・・・・・」まだ、優夢と名乗る少女は、私から離れるのをやめない。いきなり抱きついてきた限り・・・。兄妹という点も含めて、所謂、「シスコン」というやつだろうか。まさに、神様が本気を出して産み出したような人間だ。恐らく、とてもモテるのだろう。忘れてはいけないが、この少女はとても可愛らしい。・・・そして、この世の殆どの人は人を容姿で決めるらしい。そして、こんな美少女がモテないはずもないだろう。義妹と知っている今、普通は惚れてもおかしくない。だって、義妹で、更には記憶がない。・・・・・・だというのに、何故か、優夢と名乗る少女に、(よこしま)な感情を抱くことはなかった。一つ、記憶を思い出したような気がする。「あ、あの。それで・・・。離れてくれませんかねぇ・・・」「やだ。お兄ちゃんの充電が必要だもん」「充電って・・・・・・」(?)「ぐっ・・・・・・!!」·······························。

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