添い寝!?
「・・・・・・え?」添い寝・・・?添い寝という単語は、真愛から出てくるような単語ではなかった。だって、いくら甘えん坊になる性格だったとしても、真愛はそのようなことを言わない。なら考えられることは二つ。俺をからかっているだけか、俺のことを好いているか・・・・・・?いや、それはない。だって、あの真愛だぞ。忘れている人もいるかもしれないから、一応説明をいれておく。俺の名前は無叶大和。そして、今日一緒に遊びにきたこの少女の名前は陽村真愛。清楚系のクール美女だ。そんな彼女が今なんと言ったか・・・・・・?・・・そう。「添い寝して」と言い放ってきた。普段ならそんなことは言わない。さて、俺はどうするべきか?このお遊びは、ただの気分転換じゃない。「今日」だけ真愛の彼氏を演じることが約束だ。普通の彼氏を知らないが、アニメや漫画の展開では添い寝するのが付き物だろう。・・・・・・そんな俺に、どういう選択肢が残されているんだ!?「ねぇ。大和」「どうしっ・・・・・・うぐっ」その目はずるいだろ。真愛よ。そんな真っ直ぐとした綺麗な瞳で俺を見つめないでくれ。備考、俺という人間は、押しに弱い。だから、甘い上目遣いで此方を見つめられると、俺はNOと否定することが難しい。・・・それが、俺のだめなところか。「お願いだから・・・一緒に寝て?」「あくまで、このデートは彼氏を”演じる”だけだ。実際には、付き合っているわけではない。・・・・・・なのに、添い寝なんか・・・。やっていいことなのか?」「だってぇ。それとこれは違うじゃん・・・。一人で寝るのが怖いの!」じゃあなんでホラー映画なんか見たんだよ。と、優夢と全く同じツッコミを心の中でいれておく。「一人でって・・・。一応、この部屋にはいるだろうが」「でも怖いの!!・・・・・・お願いだから、もっと近くに、もっと傍にいて?」俺は、俺は・・・。その、誘惑に負けてしまうのか?「ねぇ。大和。幼馴染でしょ?先輩でしょ?不安な後輩を宥めてよ・・・」そこで彼氏設定を捨てるなよ。都合の良いやつか。「・・・・・・」「黙ってないで。ほら、こっちきて」「誘惑してるじゃねぇか!!」真愛がとった行動は、安心して寝るのではなく、完全に俺を誘惑しているのであった。「はぁ・・・。なぁ。真愛」「ん?どうしたの?私と寝たくなった?」「・・・・・・ここで彼氏がとる行動が俺には分からない・・・。なぁ。真愛。教えてくれ」「・・・」「俺は・・・・・・どうしたらいいんだ?」それは、純粋な疑問だった。確かに、俺は真愛の言う通り、幼馴染で、先輩で、”今日”は真愛の彼氏役だ。・・・だが、やっぱり俺にはわからない。正式な「彼氏」という存在が・・・・・・。「・・・・・・私も、わからないよ。”彼氏”っていうのは。だって、私は恋をしてこなかったから。・・・だから、私のこの行動は単なる欲求なんだと思う」「・・・」「いつもお兄ちゃんに構って貰っていて・・・そして、今日は私は大和の”彼女”だから・・・」あぁ。そうだな。「だから・・・・・・単なる承認欲求なんだろうね。きっと。・・・・・・でも、でもね・・・」そして、真愛はその本心を明らかにする。「怖い。っていうのは本当。・・・だけど、近くにいてくれた方が・・・・・・やっぱり、安心できる」きっと、その気持ちは変わらないんだろう。今まで、こいつは俺や進治郎に甘えてきた。・・・なにかあるごとに。だから、「甘える」ことで安心を得ているのだ。・・・・・・俺は、そうやって今まで真愛と関わってきたはずだ。じゃあ、なんで俺は今回真愛と一緒に寝ることを躊躇した?そうだ。今までだって、やってきたじゃないか。昔、お泊まりしたとき、真愛と隣り合わせで寝たことなんか何度もあるじゃないか・・・・・・。そんな事が、今になってできないのか・・・?俺は、「陽村真愛」という少女を甘やかすことはできないのか・・・・・・?いや、できる。だったら、俺は動くしかないだろう。「大和・・・。答えが決まったようだね」「あぁ。真愛」そして、俺は真愛に向かって・・・・・・「一緒に寝るか」と、そうやって笑顔で言うのだった。
「いやぁ~。にしても大和の温もりはほんと安心できるねぇ・・・」「・・・・・・」抱きついて寝るまでしなくても良かっただろうがよ。いや、寝てやる。とは言ったものの、抱きつかれるとは思っていなかった。いやまぁ、真愛が安心できるならそれで良いが・・・(いい匂いだなぁ・・・・・・)・・・・・!!いかにかん。ついつい、真愛のその甘い香りに見惚れてしまう。「ねぇ、大和」「どうした?」「今日一日、私の彼氏を演じてくれてありがとう」「今更どうしたんだよ・・・・・・」「今日の大和の行動。全部ね、とても嬉しかったよ」「・・・と言うと?」「タオルを貸してくれたり、辛いものを食べて痛がってた私に、甘いものを提供してくれたり・・・。大和が今日行ってきた優しい行動、めっちゃ嬉しかった。ありがとう。私は、そう感謝することしかできない」「・・・・・・そうか」内心、結構照れている自分もいた。「その都度、私はもし大和が彼氏だったら・・・・・・きっと今まで以上に幸せになれるんだろうなって感じて・・・・・・。それでね」そうして、やがて真愛はその言葉をいい放つのであった。「その大和の優しいところ、私は大好きだよ」・・・・・・と。別に、優しい行動をしたとは思っていない。だって、俺の中ではこれが当たり前だから。優夢然り、真愛然り・・・。こいつら二人共通して、先のことを考えて行動することができない。だから、俺はある程度のことを予測して生きてきた結果・・・。これが普通の行いになった。「俺のこれは、優しさなのか?」「絶対そうだよ。大和以外にこれまで”彼女”に尽くせる彼氏はいないよ」「・・・・・・そうか」少し、わかった気がする。彼氏という存在が。彼女のことを考えて行動する。それが、真の彼氏という存在なんだろう。何から何まで・・・彼氏は甘やかすのが彼氏の役目。「ははっ。そりゃどうも」「もう夜も遅いし、寝よっか」「そうだな」そうして・・・「ん」「?」目を閉じた真愛なのだが、突然腕を広げて・・・。「どうした?」「大和っていう、最高の彼氏なら、私の求めていることはわかっているんじゃない?」あぁ。そうだな。分かっている。だから、俺は、真愛の背中に手を回し・・・。「おやすみ。真愛」と言って、俺はその瞼を閉じるのだった。




