ヤンデレ
そんなこんなで時間は進むことを忘れず、もう夕暮れの時が近づいていた。「いやぁー。楽しかったねー」「なんやかんや言って、自由気ままに生きる魚をゆったり鑑賞できたことが、心の癒しになったな」俺は真愛と水族館に来て正解だったと思う。一波乱や二波乱はあったものの、その後も水族館を堪能することができた。少し、もう終わってしまうのか。と考えてしまうと、なんだか寂しいな。と、そんなことを考えている自分もいた。「折角だし、最後にそこの海に寄ってく?」「海・・・?何かしたいことでもあるのか?」「いや、ないけど・・・。海辺の水族館にデートをしに来て、その帰り際に何をするかって聞かれたら・・・。そりゃあ定番じゃん」「定番かもしれないが・・・・・・」時期は、もうすぐ6月に差し掛かる頃だから、多少は暑さを感じるようになった。それでも、夕方時は風が吹いていて寒いと思うけど、そんな中浜辺に寄ってもいいのか?と、思わずそんなことを思ってしまう。「夕方だし寒いだろうに。・・・上着はあるのか?」「んー。ない」「でしょうねぇ・・・・・・」「それでも行きたいの!!ねぇ、大和。いい?」「うぐっ・・・」その真愛の甘い上目遣いに、俺は否定することができるはずもなく・・・。「わ、わかったよ」と、頷くことしかできなかったのだった。
そうして僕らは、水族館を出て、砂浜まで来ていた。「わぁ・・・。綺麗だね」「そうだな」夕日が灯る海岸は、空も海もオレンジ色に染まっており、夕方にしか感じられないその景色に、思わず呆然としてしまうのであった。「大和?」「あ、ああ?どうした?」「・・・・・・今日はありがとうね」「は、はぁ?」「その、”デート”をしてくれて」「あぁ。いいぞ。テストも終わっていい気分転換になったよ」「あ、そうだ。テストで思い出したけど、大和はテストどうだったの?」「いつも通りだよ・・・・・・。良くも悪くも。って感じ」「って言いながら、点数は高いんでしょ?」「そんなに高くない。・・・優夢に比べたら」「あの子はまた異常じゃん・・・」本当に、俺は頭なんか全然良くない。この際言ってしまうが、俺のテストの点数は400点くらいだ。「そんな事よりも・・・。大和君」「どうした?」「私がただだらけるだけのために、海辺に来るわけがないということは分かってるね?」「・・・わかんなかった」「・・・・・・。そうか。じゃあ、ちょっと、走らない?」「はぁ?」なんだ。走るって。陸上部の冬トレじゃないんだから。「よくあるじゃん。海辺を楽しそうに走りながらおいかけっこをするカップル」「あくまでアニメの世界の話な」「ほら、それみたいに、おいかけっこしよ!!」「・・・いやだ」「えぇー。なんで」だって、それはもう本当のカップルじゃんか・・・。「じゃあなにするのさ」「帰りの電車に乗るまで、だらけていようぜ」「走りたいんだけどなー。」「二次元を夢見すぎだ」そんな会話をしながらも、その後はなんやかんや言って雑談を繰り広げるのであった。
もう時刻は18時を回ろうとしていた時、今世紀最大の危機に瀕していた。「うっわ・・・・・・」駅に向かう道中、突然土砂降りの雨が辺り一帯を占めるのであった。「これじゃあ帰ることもままならないな・・・」「えぇ。じゃあどうするの?」一晩中外で雨が止むのを待っていると、流石に風邪を引いてしまう。「それに、こんな雨だったら電車も運休するかもしれないな・・・」それほど、大粒の雨が降り注いでいた。こりゃ、今のうちに行動を起こしておかないと、本当に一晩中この屋根の下で雨が止むのを待つしかなくなる。さぁ、どうやってこの状況を打開するか。そう考えた結果、ひとつの案を思い付く。しっかし・・・。(流石に未成年の男女じゃなぁ・・・)その案というのは、近くの宿泊施設に泊まるということ。流石にまずい。宿泊をできるだけのお金は持っているが、流石に二部屋も借りると帰りの電車に乗るための乗車券が買えない。しかし、泊まるという選択肢は避けることはできない。一応、真愛にその相談をすることにしよう。「真愛。流石にこんな土砂降りじゃ電車は運休をせざるを得ない。それに、恐らくこの後からもっと雨が酷くなる。・・・・・・そうなる前に、行動を起こさないと行けないのだが、帰れないとなった以上、打開策はひとつしかないんだ。それは・・・・・・近くの宿泊施設に泊まるということ。なのだが・・・。問題はそこからだ。一応、部屋を借りれるほどのお金はあるんだが、二部屋借りると、帰りの電車の乗車券が買えなくなってしまう・・・・・・。そこでだ。真愛。お前は、この状況をどうする?」と、俺がそう問いかけると・・・。「電車が止まってしまうなら、ならもう近くのホテルに泊まるしかないでしょ・・・。それに・・・」と言って、やがて真愛から紡がれた一言に俺は驚くしかないのだった。「なんで、二部屋借りる必要があるの?一部屋で十分だよ」・・・・・・と。「え、それは、どういう・・・」「たった二人だよ?そんな二人だけなのに、一人一部屋もいる?」「いやだって・・・男女だし、何かあってからじゃ遅いだろ・・・・・・」「本当の彼氏彼女は、わざわざ部屋なんか分けないよ」・・・そのとき、ふと俺が真愛の顔を見た時・・・。「なぁ。なんで、お前は笑っているんだ?」真愛は、まるでこの状況を利用しているかのように、不適な笑みを浮かべる。「この”デート”が終わるまで、私たちは”恋人”関係。というのを忘れたの?」・・・・・・つまりは、そういうことだ。皆も、真愛の言いたいことが分かるだろう。「デートの始めに、約束をしたよね?まさか・・・忘れたなんて言わないよね?」そこで、デートの始めに交わした約束を振り替えるとしよう。「お願い。私の彼氏になって?」という質問に対して、俺は何も言わずに手を握った。つまり、俺は「デートが終わるまで”彼氏”になる」という意思表示をした。そうだ。だから、真愛が言いたいことは、つまりそういうこと。「え・・・だったら、真愛はいいのか?」「もちろん。・・・・・・駄目なわけがない。二人だけなのに二つも部屋はいらない。・・・だから、はやく、最寄りのホテルにいこ?」「あ、あぁ。わかった」そういって、土砂降りの中、最寄りのホテルを探しに駆け抜けるのであった。今の真愛は、ヤンデレ・・・・・・というやつに似ていたような気がする。まさか、真愛ってヤンデレなのか・・・・・・?




