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最終話 ナマズの器

音羽の辿り着いたナマズの器の答えとは

最終話 ナマズの器


 

 モオオオオ――

「今日は日が暮れたら帰るからそれまでは牛舎で休んでいてくれ」

 白い愛牛は私の言葉を理解すると初の宮の牛舎にゆっくり移動していった。


「縁さん、先日運ばれてきた神の容態についてですが」

 初の宮に入ると縁が他の神たちに囲まれていた。

 私のいない時間は縁に判断を仰ぐようにとの言いつけを皆が忠実に守っている。

 縁が結びの宮を追放され、私の助手となってどれくらいたっただろう。立派に私の代理を務められるようにまでなった。

 ついに私にも後を任せる神が出来た。安心したような、むしろ気苦労がふえたような複雑な想いがあり、我が師もそうだったのかと思いを馳せる時間が増えた。語弊がないように、これは不満でも悪口でもない。どちらかと言えば喜びだ。

「音羽先生!」

「やあ、縁。忙しそうでなによりだ」

「音羽先生はごゆっくりなご到着でなによりです」

「悪い悪い。旭の様子を見てから来たんだ」

「旭はどうでした?」

「歩くのに苦労していたよ。ぽてぽてしていた」

 私が旭の小さい器に翻弄されている様を思い返して笑っていると縁はふっと息を吐いて微笑んでいた。

「そうですか。では、私は学び舎の視察に行ってきます」

 頭を下げた縁の三つ編みが揺れたの見て、ふと思い出したことを聞いた。

「ちょっと待って、そういえばこの前言いかけていたことって、結局なんだったんだ?」

 それは縁とナマズの生態資料をまとめていた最中。

 縁は突然思い出したように何かを言いかけ、口を噤んだ。理由を聞いたところ、もう少し経ったら話すと言われていたことだった。

 縁は顎に手を当てて思い出すように説明をはじめた。

「私の力が暴走してしまう直前、人の子で言う走馬灯のようなものが見えたんです」

「走馬灯?」

「えぇ、走馬灯から聞き覚えのある声がしたのです」

「へぇ、聞き覚えのある声か」

 旭の声か?

「聞き覚えのある声だなと思っていたのですが、すぐに思い出すことが出来ませんでした。でも、つい最近気づいたのですが……音羽先生の声だったんです」

「私の?」

「全てを慈しめる神になりなさい」

 それは小鳩の受け売りで何のために、誰のために器をつくるのかを考えた先の答えだった。

 

 言うなれば、器に込めた私なりの愛だ。


「これはナマズの私しか事例のないことなので、仮定の話です。聞かれますか?」

「あぁ、聞こう」

「……ナマズは稀に誕生してしまう異質な神ではなく、作り手の愛を受けた神なのではないでしょうか?」

「愛を、受けた神か」

「感情だけ先行して発現するだけで、いずれ実感の伴う愛をもって後天的に水晶が備わる。そういう可能性も、あるのではないでしょうか?」

「……そうか」

「と、すれば。私はナマズであったことは恥ずべきことではありません。何故なら、欠陥などないからです。誕生より愛をくださったのは他でもない音羽先生なのですから、あなたのおかげで私がいる」

「やめてくれ」

「音羽先生!?」

 私は自然と涙を流していた。縁は慌てて手ぬぐいを取り出し、手渡しながら話を続ける。

「でも、たとえその仮定があっていたとしても……ナマズの、私がしてしまったことは消えません。仕方ないとも言えません。私の力が尽きるまで人の子の幸せを守り続けます。ここ、初の宮から」

「あぁ、私もそうだ」

 縁との会話に割り込むように白衣を着た神が大声で私と縁を呼びながら駆け寄ってきた。


「音羽先生! 縁さん! 」

「なんだ?」

「どうしました?」

「ナマズです!」

 私は縁と目を合わせて、笑ってしまった。 

「縁、学び舎への視察は延期とする。君の仮定が正しいかどうか確かめに行こうじゃないか」

「かしこまりました、音羽先生」

「お急ぎください!」

「はいはい、わかったわかった」

 

 初の宮責任神として、神に生まれてきてよかったと思ってもらえるように尽力しようじゃないか。

 私などいなければよかったと思う神が誕生しないように愛を持って向き合っていこう。



 これから生まれる君に幸おおからんことを。




『ナマズの器』これにて完結いたします!

約一か月間、はじめてのWEB連載を見守って下さりありがとうございました!!

読了後の皆様に良いことが起こりますように。

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