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第24話 音羽先生(前編)

旭の提案とは



「あれ?」

 千歳さんは旭の声を追いかけるように辺りを見渡した。

「誰の声?」

 そして、千至極真っ当な質問でこの静けさを打ち破った。


「聞こえるんですか!?」

「そのぬいぐるみ?」

「えっと、はい」

「見せて」

 千歳さんは私から旭を受け取って首を傾げていた。

 ぬいぐるみを耳にあてたり引っ張ったりと声の出所を探しているようだった。

「どこからだろう」

「はじめまして、千歳。俺は旭。人の子から見ると……そうそう神様って呼ばれる存在かな」

「神……」

「旭、神様だったの!?」

「あれ、言ってなかった? こいは小さかったからなぁ」

「知り合い?」

「小さい頃にお父様からもらったぬいぐるみで……私の話相手だったというか」

「本体はこの首飾りか?」

「そうなんですか!?」

 ずっとぬいぐるみに話しかけてたけど、鏡が旭なんだ……。

「ねぇ、千歳さんの身体にあるのが旭の作ったものなら、どうにかならないの?」

「うーん」

 旭は唸るだけで出来るとも出来ないとも言わなかった。

「本来、人の子の身体の中にあるってこと自体があり得ない事なんだよ」

「どういうこと?」

「うーん。どう説明しようかなぁ。俺よりもすごい先生の意見も聞くしかないかなぁー。 気は進まない。ほんとーうに気は進まないけど」

「先生?」

「そう、音羽単語(おとわ)先生。俺の師匠」

「師匠、先生……」

「この辺りに鳥居はある?」

「あるけど」

 私は花宮神社の鳥居を思い浮かべながら頷いた。

「じゃあ、明日の朝。俺を下げて鳥居に行ってくれないかな」

「旭をさげる?」

「首飾りだけでいいから」

 あぁ、本体の事ね。

「わかった」

「千歳も一緒に行くんだよ?」

「俺も?」

「もちろん!」



 夜が明けてすぐは夜の空気を引きずっていた。

 かちかちと歯が震えて音を立てるくらい寒い。

 吐く息だって例外なく真っ白だ。

「寒いですね」

「あぁ」

 私だけではなく、千歳さんも肩を震わせている。

 

 花宮神社の鳥居を見上げ、石段を登り始めると私の胸元の首飾りから旭が忠告をした。

「鳥居をくぐる前に千歳はしっかりこいの手を握ってね。到着する前に離すとはぐれちゃうから」

「はぐれるとどうなるの?」

「うーん。はぐれたことないけど、二度と会えないんじゃないかな」

 その言葉に私の方が怖くなって手を差し出した。

「責任重大ですね。遠慮なく、力の限り握ってくださいね」

「力の限りか」

 あと一歩で鳥居をくぐるというところだった。

「出発するね」

 旭がとても陽気に言うので道中はさほど険しくないのかもしれないと思ったが、そんなことは全くなかった。


「ぁぁぁぁあー!」

 まずは地面が抜けたように真下に落ちていく、内臓が浮いているのがわかった。

 次は真下からの強い風に押し上げられるように上昇していく、顔の肉がぶるぶる震えているのがわかった。

 次は上も下もない急旋回を繰り返し、目や内臓がぐるぐる体の中で暴れているのがわかった。

 千歳さんに力の限り握ってくださいと言っておきながら、私の方がしがみ付く形になってしまった。


 あまりにも、情けなく、無念です。


「無事に着いたみたいだ」

 腕にしがみついている私の肩を千歳さんが何度か叩いてくれて目を開けた。


 音羽(おとわ)と名前の書かれた部屋の前だった。

 まだぐるぐる視界が回っていて、気持ちが悪い。

 なぜ、千歳さんは顔色一つ変えないんだろう。

「ウッ」

「そんなところで吐かないでくれよー?」

 顔を上げると白衣を着た女性が眉をひそめていた。

「すみません」

 ぽそぽそ謝ると女性は私に近づてきて、顔を覗いた。

 途端に大きく目を見開いて態度と声色を変えた。

「あぁ赤い愛し子。息災か、名前は?」

「こ、こいです」

 眉をひそめていた女性は私の背中を優しくさすり、ぼさぼさになっている髪を整えてくれた。

 労わるようにそのまま肩を抱き、部屋の中へ招き入れてくれた。




第0話ぶりの音羽先生です!

ようやく物語は後半にはいってまいります!

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