表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/40

第20話 草薙の器

願いを叶える赤髪の一族のルールとは

第20話 草薙(くさなぎ)の器



「何か力になれないのかな」

 二人から逃げるように家を飛び出したものの行く当てもなく、早朝にただ散歩する人になってしまった。

 静かな澄んだ空気が頭の中を少しだけすっきりさせてくれる。

「おはようございます」

 ぼんやり歩いているとすれ違う人に会釈をされて、慌てて挨拶を返した。

 またぼんやり歩いていると頭に浮かんだのは今にも壊れてしまいそうなほど苦しんでいた千歳さんと体の中から聞こえたバケモノの蠢うごめ(うごめ)く音。


「願いを、叶える一族……」

 そんな話聞いたことないなと天を仰げば目に入った赤髪。

 ふと、トキと暮らし始めた頃に言われた言葉を思い出した。

『わからないなら、教えてもらわなければいけません』

 頭の中のトキが説教した途端、私の頭にぽんっと壮助さんの顔が浮かんだ。

「私より、私に詳しい人いる、いた!」

 ぱたぱた小走りで壮助さんの家に向かった。


 頭が冷静になったのは壮助さんの家の前に立ってすぐのこと。

 こんな朝早くに訪ねるべきではなかったと戸を叩くのを躊躇していると先に戸が開いた。

 開いた戸に驚いた私と開いた戸の前に人がいたことに盛大に驚いている苗子さんと目が合った。

 お互に大きな声を出してしまった。

「なんだ、こいちゃんーびっくりしたわ」

「ごめんなさい、朝早くに」

「どうしたの、何か急用?」

「えっと、壮助さんに聞きたいことがあって」

「壮助さんね。もうすぐ起きると思うわ。あ、そうだこいちゃん朝ごはんは食べた?」

「……まだです」

「じゃあ、一緒にどう?」

「いいんですか?」

「その代わり、宵を起こしてもらえる?」

 私が頷くとよろしくねと苗子さんは茶目っけたっぷりに片目を閉じた。

 宵の寝ている部屋に入ると、とても寝相の悪い宵がいた。

「気持ちよさそうに寝ているのを起こすのは、申し訳なくなる」

 身体を揺すると宵は唸りながら寝返りを打っただけだった。

「宵、朝だよー」

 さらに声をかけながら、身体を揺すると目を半分くらい開けてくれた。

「えーこいちゃん……なんでえ」

 宵はむくりと身体を起こして布団の上でぼんやり座っている。

「おはよう」

「んー」

「もうすぐ朝ごはんだよ」

「うん」

 宵は寝ぐせそのままに立ち上がって部屋を出ていった。

 ふらふらな宵を後ろから支えながら食卓へ誘導する。


 食卓には宵とそっくりな寝ぐせと寝起きの顔をした壮助さんがいて私の顔を見るなり水をかけられたように目を見開いた。

「え、こいちゃん!?」

「お、おはようございます!」

 壮助さんの声に宵も意識がはっきりしたようで同じように驚いていた。

 苗子さんは無駄のない動作で素早く食卓にみそ汁とご飯を置いて、卵焼きと魚の煮つけを並べた。

「煮つけは昨日の残りね! さぁ、食べましょう」

 

 4人の食卓はご飯を食べる前から美味しく感じた。

 ほかほかなご飯とじんわりしみるみそ汁、身体が緩んでほっとするのを感じた。

 昨日からどれだけ身体が強張っていたかを思い知った。

 ここに千歳さんがいたら、もっと美味しかったかもしれないなと咀嚼しながら考えた。


 朝食終わり、壮助さんがお茶を飲みながら私を呼んでくれた。 

「俺に用があったって苗子から聞いたけど」

 唐突に話題を振られて、何も言葉が出てこない。そう、私はどう話を切り出すかを考えていなかったのだ。

「眉がハの字になってるよ?」

「えっと」

「何か、困りごと?」

 困っている事というかくすぶっていると言うのか、その全てを話すのはあまりにも憚られる。

 どう聞けばいいのだろうかとしどろもどろになる。

「あの、噂で」

「うん、噂?」

「なんでも願いを叶えてくれる一族がいるって話を聞いたこと、ありますか?」

 宵のお父さんはうーんと唇に手を当てて考えていた。

「それをこいちゃんが気になっているってことは、その一族の特徴が赤い髪と瞳だった、とか?」

 言い当てられて、大きく数回首を縦に振った。

「……隼兄の家系の話か」

「知っているんですか!?」

 知らないなぁって言われることを想定していただけに想像よりも大きな声がでてしまった。

「私の知らないお父さんの家系のこと教えて下さい!」

「こいちゃんが知りたいなら、喜んで話すよ」

「ありがとうございます!」

「願いを叶える一族って言うのは尾ひれがついているみたいだけどね」

 宵のお父さんは両手を使い、指を使い、掌を使い、私に勉強を教えるように説明をし始めた。



 草薙(くさなぎ)家の嫡子は総じて、赤い髪と瞳を持っていた。

 草薙家は代々、器を作る職人だった。


 草薙は依頼人から叶えたい願いを依頼されて器を作る。

 その器は依頼人の願いを叶える力を持っている。

 厳密にはその器には依頼人の願いを叶える人としての器を作る力を持っていると言われていた。


 例えば、お金持ちになりたいと言う依頼人の願いを叶えるため、お金持ちになる人としての器とは何かを双方で決め、叶えたい願いにした上で依頼すればその器が手に入る。

 お金持ちになるのはあくまで結果という考え方。

 

 草薙に器を依頼するには規則がある。

 一、器の対価は草薙が決め、必ず支払うこと。

 二、人を呪ったり、殺したり、私利私欲のためであったり、他人の願いを叶えるための器は依頼できない。

 三、依頼できる資格を持つ者は草薙の職人と直接の知り合いか、紹介のみである。そして、他人に紹介した者は二度と依頼することはできない。



「願いそのものを叶えるわけではないっていう話を隼兄に聞いたような気がする。実のところ俺は作ってもらったことないから本当かどうかはわからない。けれど、器を受け取った人が泣いて喜んでいるのを見たことがあるから、ただのでたらめではないとは思う」

「願いを叶えるための器……」

 そんな器を生み出せる力が私の中にあるとは到底思えない。

 自分の掌の皺をあみだくじのように流し見ながら落ち込んだ。

「言葉は難しいよね。最初、聞いた時は俺もさっぱり意味がわからなかったなぁ」

「……むずかしいです」

「これだけで力になれたかい?」

「はい! ありがとうございます。お聞き出来て助かりました」

 頭を下げて、壮助さん、苗子さん、宵にお邪魔しましたと声をかけてお家を出た。

 


「こうして! こう! フッ!」

 私にすごい力があれば、千歳さんの力になることができるのに。

 お家に戻る途中、手を開いて力を出すように押し出したり、空気を握ったりしていると背中から声がした。 

「見つけた!」

「オァッ!」

 腕を引っ張られて体が後ろに傾いていった。振り向くと息を切らしている花宮さんがいた。

「トキさんが!」

「トキ?」

 まだ何も聞いてもいないのに、血の気が引いた。

 そして、頭が、真っ白になった。



こいちゃんからしたら気が気じゃないですよね。

次回はトキさんの元へ駆けつけたこいちゃんの話

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ