第17話 とめどなく(前編)
千歳さんの話を終えた花宮さんは膝から崩れるように座り込み、膝を抱えて丸くなった。私も同じように花宮さんの横で身体を丸めて座った。
「バケモノなんて言うべきじゃなかった。言っていい言葉じゃなかった。寄り添うべきだった……」
「……」
私だって同じだ。何も知らないまま彼を引っぱ叩いてしまった。
「地震は自分たちの住んでいる街だけの範囲じゃなかった。もうなにもかも、兄さんに押し付けるようにして逃げた」
頭を抱える花宮さんに今この時まで語られていない疑問を投げかけた。
「どうして……私を探していたんですか?」
「兄さんからは逃げたけど、自分の出来ることはしないといけないと思って……縁を探しながら同じような事象がないか、解決策はないかと調べていた時に噂を聞いたんだ」
「噂、ですか」
「知人の不治の病が治ったって」
「不治の病?」
「何人の名医と言われる優秀な医者に見せても治らなかった病が……ある男が作った器を手に入れた途端に良くなったって」
「おとぎ話みたいですね」
「調べてみたら願いを叶える一族がいることを知った」
へぇ、そんな一族がいるんだと思っていると花宮さんは私をじっと見つめていた。
「……えっと、続きは」
「その一族に特徴は真っ赤な髪と瞳」
「へぇ」
私みたいな人が他にもいるんだ。
他人事のように聞いていると力ない拳でこつんと花宮さんは私の肩を押した。
「もしかして、私ですか!?」
「察しが悪いな、話の流れからそうだろ」
「お分かりのように私にそんな大それた力ないですよ!」
「その話が嘘でもよかったんだよ。真っ赤な女の子がいたって言うのは事実で、僕はそれに縋らないといけないくらい八方塞がりだったんだ。歩き回った先で様々な人に声をかけた。その内の数人から帝都で見かけたと聞いた。でも、見つからなかった。また人伝、人伝に話を聞いてようやく辿り着いたんだよ」
「そこまで探してくださったのに……私には何も出来そうになく、すみません」
期待の分、落胆も大きかったに違いない。
「何も出来てないってことはないよ。君が来てから兄さんはずいぶん楽しそうだった」
「楽しそう、ですか? あれで」
思い当たる節がなく、首を傾げると花宮さんは鼻で笑った。
「お祭りに行くから浴衣を仕立ててほしいって連絡が来たときは驚いたよ。素直に嫉妬した。僕とは一度も行かなかったのに……それにさ! 僕にはあれ以来、名前を呼ぶなって言っておきながら君には呼ばせているし!」
花宮さんは不貞腐れたように口先を尖らせていた。
いつもの飄々として雰囲気とは真逆でなんとも幼く見えてしまう。
「なんといえばいいか、すみません」
そっか、あれは千歳さんがわざわざと思い返しては嬉しさがこみあげてくる。
「僕は兄さんに恨まれているから、君が仲良さそうしてるの見るのは素直に羨ましい……むしろ妬ましいくらいだ」
「……そんなこと」
「全てを知った上でもうここにいたくないって気持ちも理解してる。けど、あと一ヵ月……兄さんと一緒にいてくれないかな。報酬は変わりなくその上で必ず色を付けるから」
お願いしますと頭を下げた花宮さんにふたつ返事でわかりました! なんて言えるはずもなく、間を開けて小声で善処しますとだけ返し、春の頃よりは伸びた前髪を触った。