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天空記  作者: 緒俐
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第九十九話:龍の決断

 午前中の回診がすんだ後、一週間会議で不在だった医院長はやはり龍を医院長室に呼び付けたところまでは予測通りだったが、昨日警察署に連行された所為か啓吾と紗枝も一緒に呼び出されていた。


 警察署に連行された件で呼び出されたのは仕方がないかと思うが、呼び出された直後に言われたことに三人は目を丸くした。


「クビ、ですか?」

「……医院長、俺達が何かしました?」


 心あたりはありすぎるけど、と心の中で啓吾は付け加える。それには同意見らしく、紗枝も心の中で苦笑を堪えていた。

 だがそれとは対称的に、誠一郎は顔を真っ赤にして怒鳴り付ける!


「したも何もないっ! 君達はこの前ハワード国際ホテルに行き放火した罪で昨日連行されたんだ! 犯罪者を雇えるほどこの病院は寛大じゃない!!」

「確かに病院側に不安を与えたことは事実ですけど……」

「医院長、誰のために龍先生はわざわざホテルに足を運ぶことになったんですか?」

「ぐっ……!!」


 啓吾に言われて誠一郎は早くも二の句が告げなくなった。


 龍達がハワード国際ホテルにいったのは自分達の平穏な生活を乱す相手を叩きのめしに行くのが目的ではあったが、表面的なものは誠一郎がハワード財団に渡した病院の株の半数を取り返しに行ったとなっている。

 それを頼んだ張本人に放火犯と言われるのは不愉快窮まりないが、まだ皮肉を言う余裕はある。


「それに僕達が本当にそんなことをやっていたら今頃牢獄の中ですよ」

「黙りなさい!! 理由はそれだけじゃない! 私がいない間、君達は副医院長を脅して無理矢理オペに踏み切ったと聞いている!」

「脅してなどいません。ちゃんと今までの経歴も踏まえた交渉はしました。それに患者はずっとオペを望んでいました、医者として間違ったことをしたとは思えませんが」

「結果的に全オペ成功させてますし」

「結果が良かっただけだろう! だいたい君達はまだ医者になって何年なんだ! 言ってみろ!」


 そういえば……と全員考え込んだ。生まれたときから医療の現場がいつもそばにあった龍、育ての親が世界的スーパードクターの啓吾、そして医者になりたいといって最高の環境を用意された紗枝の会合が始まる。


「えっと、今年二十四になるんだから……、俺は二年目か」

「なんだ、啓吾先生も二年目か。てっきり四、五年はやってそうな腕だと思ってたが」

「そりゃシュバルツ師匠の元で過ごしてんだ。あんなスパルタ教育受けてたら嫌でも腕は良くなるさ」

「ああ、そういえば助手として立ちあった時、絶対ついてこいって言われたもんな……」

「ってことは紗枝先生はまだ一年目か!?」

「いいえ、二年目よ。メディカルスクールの卒業早かったし」

「そうか、よく考えたらまだ二年だったか」

「早いんだか遅いんだか……」


 実に彼らの経歴を知らないものから聞けば非常に恐ろしい内容である。ちなみに研修医時代は計算に入れてはいない話ではあるが。


「そうだ! 全員まだ二年目のヒヨッコだ! そんなヒヨッコが難解なオペばかりやらせろなど生意気過ぎる!」

「いや……医院長、そんなこといってたら救命なんてどうなるのか」

「君達は外科医だ! 何よりこれだけの問題を起こしているからクビだと言っているんだ!」

「医院長……、どこの医療現場にオペを成功させてクビにされる医者がいるんですか……」

「そうね、医師免許を持たずにオペをしたならまだしも……」

「どのみち君達の医師免許は剥奪されるんだ!!」


 そう叫ぶとははーんと啓吾は納得し、そういう事ねと紗枝は呆れた。そしてそれを一番嫌う医師が静かに事の真相を語り始めた。


「……医院長、今回は医師会からの要求ですか?」

「なっ! 何を言い出すんだね!」


 どうやら当たりらしい。本当に隠し事が出来ないなと啓吾は素直な医院長に苦笑した。

 そして静かにキレてる医師は相変わらずの覇気を誠一郎に発しながらさらに追い詰めていく。


「本当はいうつもりはなかったんですが、言わせていただきます。

 今朝、秀から電話がありまして俺達の医師免許が剥奪されかけ、おまけにうちの土地や財産までおじさんのものになりそうだったとか」

「医院長! いいえ、おじ様! 一体どういうことなんですか!?」

「へええ、そいつは聞き捨てならないな」


 さすがにそれには紗枝と啓吾も食いかかる。自分の利益のためにいくら気に入らないからといって、医師免許はおろか人の財産までを奪っていいはずがない。

 しかもさっきの発言から考えても誠一郎は龍が言った内容を承諾していたようだ。


「いや、それはだな……君達の行動は何かと問題視されていてだな……」

「それで言い訳になると思ってるんですか! おじ様!」

「紗枝先生、ここは病院」

「自分の理想のために私を取引の道具にしただけでも許せないのに、龍ちゃんから勝手に財産まで取り上げようなんて、それが医院長としてやってもいいことだと思ってるんですか!」

「というより人間性を疑われるよな。けっして表に出ないことなのだからといって自分は手を汚さず利益だけを手にする。医院長は俺達以上の悪人になれますよ」

「ぐっ……!!」


 紗枝と啓吾の口撃こうげきに誠一郎は目を白黒させる。どうやら今日は高血圧で倒れることはなさそうだと、医院長の顔色を見て龍はさらに追い打ちをかけることにした。


「おじさん、俺達がまだ経験不足なのは認めます。だがそれだけの理由で医師免許を剥奪される覚えもうちの財産をおじさんに没収される覚えもない!」

「それとおじ様、聖蘭病院も立場があるかとは思いますけど、おじ様がこれ以上医師会の命令通りに動くというのなら菅原財閥からの寄附は一切断ち切らせていただきます!」

「俺からも師匠に一筆かいて今後一切の聖蘭病院との関係は断ち切るようにさせていただきますよ」


 誠一郎にとってはまさに宝船が三隻、自分の元から去っていくような感覚に襲われた。

 しかし真っ青になりながらも、誠一郎は自分の身を守り尚且つ龍達を遠ざける言葉を叫んだ。


「とっ、とにかく! 医師が犯罪に関わってる疑いがある以上勤務は認めないぞ! 全員自宅謹慎を命じる!」


 まだ言うのかと紗枝は相手を叩きのめしてやろうと口を開こうとしたが、それを啓吾がやめとけ、龍を見てみろと目で合図する。

 そして一度目を閉じて何やら考えたのだろう、静かに語り始める。


「……そうですね、日本の黒幕がおじさんに圧力をかけてるなら仕方がない。大人しく休みをいただきます」

「なっ! 何を!?」

「ただし! これ以上天宮家に手を出すつもりなら俺は天宮聖の孫としておじさんと話し合うつもりなので!」

「ひっ!!」


 そう釘だけ刺して三人は医院長室から退出した。誠一郎は腰を抜かし、暫く立てなくなったのは言うまでもない。



 それから医局に戻る廊下で龍は普段通りの表情に戻る。


「自宅謹慎か……」

「まっ、いいんじゃない? 患者の術後の容態も悪くはないみたいだから他の先生達がちゃんと診てくれるわよ。だけど龍ちゃん、さっきはかっこよかったわ〜」

「ああ、さすが次期医院長って感じ」

「あのな……」


 減俸じゃなくてよかったじゃねぇか、とからからと笑う啓吾に真面目な家長は深い溜息をついた。


「だけどどうする? まだ相手の情報あんまり集まってないんだろ」

「そうよね。黒幕四人潰しても似たり寄ったりの奴らが出て来るのでしょうし」

「ああ、だけどハワードのダニエル・フラン博士が勤務している研究所は分かってるからな」


 龍がさらりと告げた言葉の意味を二人は理解した。


「龍、お前……」

「ああ、乗り込むよ。俺達が暴れれば多分全部まとめて出て来るさ」


 にっと笑う龍はやはり翔の兄だけあって……。しかし、それに二人はワクワクさせられる。


「やっぱり俺、龍が一番好きだな」

「あら、女の子好きの趣味じゃなかったっけ?」

「ああ、趣味はな。だけどこれほど男受けのいい男なんてそういないし?」

「それもそうね。だけど龍ちゃん、沙南ちゃんが悲しむような道のはずし方はしないでね?」

「そうそう、どんなお前も否定したくないけど次期医院長が男好きだと」

「お前らな……!!」


 勝手に話が変な方向に逸れていく二人に青筋を立てつつも、龍は今後のことを考えるのだった。




医者三人が自宅謹慎……

啓吾や紗枝は患者の容態さえ安定してればオッケーというノリですが、

やはり真面目な龍兄さん、ちょっとがっくりしています。

でも敵を片付けるためには仕方がないと承諾したわけですが。


そしてこの医者三人、実は医者としてはまだ二年目ということらしいです。

ですが聖蘭病院の看板を背負えるほどの腕の良さ。

育った環境が良すぎますからね、この三人。

だけど腕のいい医者の実力を信じきれない誠一郎医院長がいるため、

毎回龍達は気苦労するわけですが……


そんなこんなでとりあえず病院は自分達の疑いが晴れるまでお休み、

だけどゆっくりなんてもちろん出来ませんよ(笑)




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