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天空記  作者: 緒俐
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第九十三話:連行された医者達

 一晩明けて、朝から龍と啓吾は医院長がいない間の最後のオペに取り掛かり、終了したのは六時間後だった。


「縫合完了」


 龍は持針器を置くと啓吾と目が合った。マスクの下でも啓吾がニヤリと笑っていることが分かる。この一週間のオペは全て無事に成功したということだ。



 着替えて医局に戻れば、紗枝がニッコリ笑って迎えてくれた。他の医師達も歓迎ムードで口々に称賛する。


「一週間全オペ成功おめでとう!」

「ああ、そっちは?」

「バイタルも安定してるみたいだから、よっぽどのことが起こらないかぎり二週間もすれば退院できると思う。本当はもう少し早くオペしてあげたかったんだけど……」

「まぁ、小児科となると親の許可もあるからな」

「仕方ないわよ。私は龍ちゃんみたいにゴッドハンドってほど知名度があるわけじゃないしね」


 紗枝は肩を竦めた。どれだけオペをしなければいけない状況と分かっていても、やはり我が子に辛い思いをさせたくない親心はあるもので。


 それを説得して医院長まで説得しなければならない紗枝は、本当に大したものだと龍も啓吾も感心している。


 しかし、彼女は絶対に折れない。何も出来ずに亡くなる子供を診てきて来たからこそ、その強さが培われているわけだが。


「だけど龍先生、明日は大変でしょうね」

「ああ、だけど医院長の小言ぐらい聞くさ」

「三分だろ?」

「それ以上聞く理由がないね」


 失敗しているなら三時間責められても仕方がないと思うが、今まで医院長の許可が下りなかったために先延ばしになっていたオペをやっただけの話だ。


 しかも形式的な手続きは一切怠ってはいないので責められる理由などない。しかし、外科部長を通り越して、何故かいつも自分に直接抗議して来るのはやめてもらいたいところだが……


「とりあえず、俺ちょっと休憩。さすがにきつい」

「ああ、そうだな。コーヒー飲むか?」

「アイスコーヒー」

「龍先生いいわよ、お祝いに私がいれたげるから」


 ニッコリ笑って椅子から立ち上がり、紗枝は三人分のアイスコーヒーを準備する。基本は徹夜もあるためブラックだが、オペの後はミルクにガムシロップがはずせない。それも糖質を欲するほど集中した証だ。


 それから二人にそれを渡し、ホッと一息ついてるといきなり医局の扉が乱暴に開けられ幾人もの刑事が入り込んで来た。何事かと全員が注目すると、一番上の階級なのだろう、中年手前の刑事が荒々しい声を上げた。


「警察だっ! ここに天宮龍、篠塚啓吾、菅原紗枝はいるか!」


 ああ、来たのか、と啓吾と紗枝は心の中で深い溜息をつく。他の医師達はざわつくが龍は冷静さを全く失わずに答えた。


「僕が天宮龍ですが何か御用ですか?」

「お前達を先日のハワード国際ホテルの放火の重要参考人として取り調べる。署まで来てもらおうか!」


 中年刑事は龍の腕を掴んで引っ張っていこうとしたが、龍は全く動かなかった。


 そして、ここの医師達もやはり天宮家の教えを継ぐ医師の集まりなのか、何を言ってるんだと呆れ返っている始末だ。


「何をしている! さっさと来い!」

「ちょっと待って下さい。いくら何でも強引すぎやしませんか?」

「確かにそうだな。俺達はあそこに飯を食いに行ってたのは確かだが放火なんかした覚えはないな」

「その前に一般市民をあんな大火災の犯人に仕立てあげようなんてひどくない?」


 まぁ、火を付けた張本人は確かに知ってるけど、と啓吾は心の中で呟く。しかし、まさか二百代前の秀がやりました、と言っても信じてもらえないだろうが。


「だが、お前達がホテルから最後に出て来たという証言が上がってるんだ。屋上にいて火を付けたのはお前達なんじゃないのか!?」


 無茶苦茶な言い掛かりだと思う。紗枝は深い溜息をついて告げた。


「あそこの最上階って階一帯がスウィートルームなんだけど……」

「放火の相談場所にしては豪華過ぎるね。その前に宿泊リストを調べたんですか?」

「まさか調べもせずに疑ったりしてないよな?」


 どうやら図星だったらしく、中年刑事は顔をしかめた。今回は大したことはなさそうだな、と啓吾はそう感想を抱くが、中年刑事の開き直りは早かった。


「うるさいっ! とにかく署まで来てもらう!」


 部下達に命じて三人の身柄を無理矢理押さえ込む。普通なら相手を叩きのめしているところだが、さすがに医局で暴れるわけにはいかない。

 龍はやれやれと思いながらも外科部長に告げた。


「外科部長、すみませんがちょっと行ってきます」

「ああ、冤罪になるような取り調べを受けるんじゃないぞ」


 明らかに冤罪だと分かっているのか、他の医師達も苦笑した。そして、紗枝も念のためと頼んでおく。


「すみません、ついでに土屋警視にも連絡入れていただけます?」

「そうだな。もし今晩拘束されて出られないようだったら連絡入れてくれよ」

「はい、ありがとうございます」


 なんて軽い連行なんだ、と思いながらも、とりあえず龍達は取り調べという名目で大人しくしておくことにした。



 一方、騒ぎが起こっているのは病院だけではなかった。


「ただいま〜」

「ああ、おかえりなさい沙南ちゃん」


 苦笑いして秀は旅行から帰って来た沙南を迎える。


「どうしたの? 何かあった?」

「それがですね、困ったことに電気、ガス、水道、おまけにキャッシュカードも使えなくなってしまったんですよ」

「えっ? 何それ」

「それと沙南ちゃんは携帯無事です?」

「携帯って今朝は使えてたけど……、あれ? 圏外?」

「ああ、やっぱり」

「やっぱりって今度は何?」


 尋ねた直後に秀の携帯電話が鳴る。なぜか彼の携帯は止まっていないようだ。理由は敢えて聞かないが……


「はい、もしもし」

『秀さん、一体今度は何に巻き込まれたんですか?』


 開口一言目に紫月はそう尋ねた。どうやら篠塚家も何か被害を被ってるようだ。


「そうですね、言うならば大君二代目を狙う愚者達にでしょうか」

『なるほど、私達の家は文明的な生活を奪われてますが』

「篠塚家もですか。でしたら紫月ちゃん、今日は家でキャンプでもしませんか?」

『キャンプ、ですか?』

「はい、折角の夏休みですからね。たまには文明的な生活から離れて楽しむのもいいかと」


 秀はニッコリ笑った。どうやら彼はこの状況を楽しんでいるようだ。


『……分かりました。姉と夢華を連れてお邪魔します』

「はい、気をつけてきてくださいね」


 秀は携帯を切った。その顔は久しぶりに柳に会えるからなのか、ワクワクしているのを隠し切れていない。


「秀さん」

「大丈夫ですよ。高原老になれなかった愚者が仕掛けて来てるだけですからね。さっ、沙南ちゃん、お風呂だけは沸いてますから入ってきてもいいですよ」

「えっ? どうやって?」


 ガスも水道も使えないのに、と思ったが、この家には生きた貯水池と熱源がいることに気付いた。


「水と火だけは純君と僕に任せておいてください。ドライヤーは紫月ちゃんが来るまで待ってて下さいね」

「……電気以外不自由ないのね」

「ええ、だからきっとすぐに片付きますよ。相手はそれだけ勉強不足なんですから」


 秀は優美な微笑を浮かべるのだった。



龍達が警察に連行されちゃった!?

だけどあまりに馬鹿馬鹿しくて反応の薄い医局です(笑)

外科部長なんて部下が連行されてるのに実に暢気な御様子……

戻れなければ連絡しろって……やっぱり大物?


そして沙南ちゃんが旅行から帰って来たら天宮家も篠塚家も文明的な生活がストップしているようで。

まさに兵糧攻めですが秀さんと紫月ちゃんの携帯が止められていません(笑)

なぜかというとまあ……二人にはいろいろね。


さあ、次回は取り調べですがまともに医者三人組から事情聴取なんて出来るのでしょうか??




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