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天空記  作者: 緒俐
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第九十話:男運

 三連休が終われば病院に缶詰状態、家に戻ったのは一日のみという相変わらず多忙な心臓外科医は、ここ数日の連続オペをようやく終わらせた。

 あとは緊急オペさえ入らなければ、今夜は家に帰れそうだ。というよりそろそろ帰りたい。


「あ〜終わった」

「お疲れ様」

「おう」


 啓吾は医局に入るなりぐったりと机の上になだれ込んだ。成功したようね、と紗枝が問えば、当然と答えは返ってくる。


 そして、机の上の小さなカレンダーを見て啓吾は小さな溜息をついた。


「明日までか、医院長がいないのも」

「そうね、またオペ交渉に余計な時間を食うのよね」

「かといって今日まで詰め込むだけ詰め込んだから、そろそろ俺も限界かも……」

「同じく。だけど全部成功なんて調子良いんじゃない?」

「まぁな。龍がいてくれるとこう何て言うのか……」

「死んでしまった人でも生き返るような気がしちゃうのよね」

「ああ、そんな感じだな」


 二人は笑った。本当に龍がこの病院にいてくれて有り難いと思う。


 約一週間、今まで必ずといっていいほど難易度の高いオペは止められていたが、医院長がいないのをいいことに反医院長派の外科や小児科は、これ幸いとオペを出来るだけ詰め込んでいたのである。


 それがまた多くの患者を退院させる結果になるわけで医者としては大歓迎な訳だが、金に執着する医院長のこと、帰って来たらまた龍に散々文句をつけるに違いないだろう。


 しかし、それを覚悟でやり遂げたオペは全て成功と、聖蘭病院の評判はこの一週間でかなり良い方向に向かっていたのであった。


 だが、この病院内ではもう一つのニュースがやってきている。その噂の種に啓吾は興味本位で尋ねた。


「ところで紗枝先生、最近お前を尋ねてくる男がいるって聞いたが何者なんだ?」

「あら、気になる?」

「そりゃ龍と嫁のもらい手がいるのかって心配してるし?」

「なんだ、少しは妬いてくれたらいいのに」

「妬いてほしいか?」

「そうね、妬いてくれると助かるわ」


 紗枝はいたずらな笑みを浮かべると啓吾は苦笑した。表情はいつもどおり笑っているが、どうやら珍しく彼女はお困りな様子である。


「で、一体どこの馬の骨だって?」

「楢原代議士」

「ああ、あのテレビできれいごとばかりほざいて行動に移さないって評判の若手か」

「そうそう。完全な思考肉食系の行動草食系代議士ね」


 随分な言われようである。しかし、思考肉食系というところを啓吾は聞き逃さなかった。ちゃんと人の話を聞くときは聞いているのである。


「でもそういう奴が行動を起こしてるって事は何か裏があると」

「正解。それでね、宮岡記者に探ってもらったらこれがまた面白いのよ」

「何があった?」

「なんと私にぞっこん!」

「それと?」

「……本当に妬かないのね」

「妬いてほしいのはもう一つの情報だろ?」


 当たってる分だけ腹が立つのは何故だろうとは思うが、それが事実なのだから仕方がない。


「そうだけどね、大君の二代目の座を狙う一人ってわけ」


 大君と聞いてようやく啓吾は納得した。天宮家をあれだけ翻弄した高原の後釜を狙う一人とくれば、紗枝の気持ちも分かるものだ。


「なるほど、確かに俺に妬いてくれと言いたくなるな」

「でしょ? 最近家に戻ったら、いつの間にやら盗聴器やら小型カメラが設置されてるのよね」

「龍は知ってるのか?」

「多分、秀ちゃんが言ってると思うわ」


 その辺は紗枝も全く心配してないらしい。一応、彼女は財閥のお嬢様なのでいざというときは守られるはずだ。


「で、そのバックを芋づる式に引っ張り出したいから、その協力者が必要なわけ。じゃあ、思考肉食系を大胆な行動に移させる方法といえば?」


 男女の駆け引きだけは上手いんだから答えなさい、と紗枝は非常に楽しそうに笑った。


 彼女のこういった相手をはめる作戦を実行に移すのが好きなのは、短い付き合いでも充分過ぎるほど理解している。なんせ秀の姉貴分なのだから。


「思考肉食系は好きな女が自分より格下と思ってる男に取られてるなんて知ったら、それなりの行動はしてくるってわけか」

「そういうこと。だけど普通の男性に頼んだらさすがにね……」

「そりゃな、高原二代目候補となれば日本を敵にするようなもんだからな」


 なんせ一般市民にミサイルを撃ち込んで来た男の二代目を狙っているのだ、とてもまともな神経の持ち主では彼女のナイト役など務まらないだろう。


 それに菅原財閥も相手が相手となれば、確実な証拠を掴まない限り動けないのも事実だ。


「それで俺にその楢原をおびき寄せる餌になれと……、次男坊の策か?」

「そうよ。龍ちゃんに彼氏役なんて頼んだら沙南ちゃんに悪いんだもの」

「へぇ、次男坊にしちゃ、けっこう気を遣ってるんだな」

「嫉妬に荒れ狂う沙南ちゃんなんて見たい?」

「いや……、あの二人の関係を乱す勇気なんて天地がひっくり返ってもない」


 啓吾は心の底から答えた。龍と紗枝が敵を引っ掛けるための恋人役なんてなった日には、きっと理解はしてくれるだろうが沙南が恐ろしく沈む気がする。


 そして、その嫉妬は紗枝には向かずに龍や自分に向く気がするのは正しい予測だろう。


「まっ、そういうことだから節操無しの実力楽しみにしてるわよ」

「お前な……、俺は絶対お前を口説きはしても手を出さない自信だけはあるぞ?」

「う〜ん、私、やっぱり他の女医や看護士の女の子達より魅力がないのかしら?」

「いや、魅力はあるさ。ただ、普通の男が手に負えない性格してるだけだろ?」

「最高の口説き文句ね、啓吾先生!」

「そりゃどうも」


 ニヤリと啓吾は笑う。だが、それは正しいと龍がこの場にいても納得するだろうが。


 その時、紗枝の机の電話が鳴り響いた。


「はい、菅原です」

「紗枝先生、今受付に楢原代議士が来てそっちに向かってるわよ!」

「医局に!?」

「そうそう、何だか紗枝先生の婚約者とかいって行っちゃったけど警備員呼ぶ?」


 さすがにそれは予想外だった、と紗枝は面食らった。何度か尋ねて来てるとは聞いてはいたが、まさか本当に乗り込んでくるとは……


「いいわ、こっちで解決するし、まだ啓吾先生がここにいるから変なことはしてこないでしょ」

「分かったわ、気をつけてね」

「ありがとう」


 紗枝は受話器を置いて額に手を当てて深い溜息をついた。本当に眩暈でも起こしそうだ。


「おい、まさか……」

「敵は思った以上にバカらしいわね。少なくとも楢原代議士が高原の後釜にならないことだけは分かったわ」

「……どうする?」

「やるわよ。余計な奴らは駆除するのが早ければ早い方がいいもの」


 私って本当男運ないのよね、という紗枝に、啓吾が珍しく本気で同情したのは言うまでもない……




今回は啓吾兄さんと紗枝さんのやり取りです。


この二人互いにS同士なのでいうことがほんと容赦ないというか……

だけど自分達にちょっかいを出してくる者達に容赦しないという見解なので、

そのためには啓吾兄さんに彼氏役を演じなさいと紗枝さんは啓吾兄さんをいけにえ……いえ、あくまでもお願いしてるわけです。


なんせ紗枝さんが言うように、一般人では潰されてしまう相手ですから天宮家の面々か啓吾兄さんしかいけにえ……いえ、お願いできませんからね。

でも天宮家の長男、次男は相手が既にいますから。


さあ、ですが敵はわざわざ乗り込んで来てくれたようで……

節操無しの実力は発揮なるか!?




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