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天空記  作者: 緒俐
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第八十三話:翔の説教

 龍達に帰るように言われていた沙南と紗枝は、車の中から赤く染まる空を見ていた。ハワード国際ホテルから上がった火の手は、至る所に被害を及ぼしているようだ。


「心配?」

「うん、皆無事なのかなって……」


 沙南は車の窓から見える景色から目を離すことはない。それはこの火災の中心にいるだろう、家族のことを思うから……


 不安そうな沙南の肩に手を置いて紗枝は優しく告げた。


「大丈夫よ、皆頑丈だもの。無事に帰ってくるわ」

「うん……」


 そう答ながらも、沙南は窓の外を見続けていた。



 柳泉が秀の元へ飛び立っていった直後だった。ホテルからまばゆい光を発見した翔と純はそのすぐそばにいた篠塚家の面々と合流を果たした。


「啓吾さん! 紫月!」

「夢華ちゃん!」

「お前ら、無事だったか!」

「うん、何とかね」


 純が水で体を覆ってくれたおかげで二人は火傷はおろか、煤で黒くなることもなかった。しかし、ここにもう一人の人物がいない。


「龍は?」

「龍兄貴は屋上に行ったよ。秀兄貴を元に戻すつもりなんだと思うけど……」

「そうか……」


 それ以上啓吾は言えなかった。秀を元に戻す方法を知っているかは分からないが、おそらく龍でなければ元に戻せない、それだけは全員が感じていたことだった。


「それより、いま空に飛んで行ったのって柳姉ちゃん?」

「ああ、っていうか柳泉だな」

「ってことは姉ちゃんも秀兄貴に影響されたってこと?」

「ああ、多分な。おそらく次男坊が元に戻ればあいつも戻るんだろうけど……」

「……俺はまた何にも出来ないのかな」


 それを聞いて啓吾はポンと翔の頭に手を置いた。


 しかし、純がいきなり意外なことを言い出す。


「……ねぇ、翔兄さん」

「なんだ?」

「やっぱり僕達も龍兄さんのところにいったらダメかな?」

「……純、お前なぁ、龍兄貴に逆らったらどんだけ怒られるか分かってるだろ?」

「でも……」


 珍しく反論してくる純の両肩に手を置いて、これまた珍しい説教を翔はし始めた。


「あのな、純。俺みたいに日本一説教するのに向いてない兄に説教なんかさせるんじゃないぞ」


 確かにそうだよなぁというのは篠塚家一同の意見である。


「龍兄貴は秀兄貴のことだけでも大変なのに、俺達がぶら下がってると余計な苦労を背負わなくちゃいけなくなる。

 分かるよな? あの歳であそこまで父親みたいな貫禄を醸し出す独身者なんてそういるもんじゃないぞ?」


 案外的を得てるよなと啓吾は感心した。説教臭くはないが、小学生には分かりやすい。


「それに純が大学卒業したら自分のことを考えるなんて言ってるんだ」

「あっ、それお兄ちゃんも同じだよ!」

「啓吾さんも?」

「まあな。だけど俺は龍と違って沙南お嬢さんがいるわけじゃないし」

「そうなんだよ、純が大学卒業するのを待ってたらあと十年はかかる。沙南ちゃんもそこまで待ってくれないだろうし、何より沙南ちゃんが嫁に来てくれなかったら龍兄貴なんて本気でボンコツ医者になるぞ?」


 啓吾は腹を抱えて笑い始めた。それを紫月は宥めるがあながち間違った予測ではなさそうだ。

 しかし、話が逸れたことに気付くあたり三男坊は立派だった。


「つまりだ、俺が言いたいことは龍兄貴の邪魔はしちゃいけないってことだ」

「うん、でもね翔兄さん」

「純……まだ何かあるのか?」

「うん、あのね、僕って元に戻った後裸だったんでしょ?」

「ああ、そういえば」

「だったら秀兄さんも柳さんも大変なんじゃない?」


 その瞬間、一同に最悪な予測が立った。秀はともかく柳は嫁入り前の女の子というわけで……


「まずい!!」

「わわっ!! お姉ちゃんがどうしよう!?」

「兄さん! 上着貸してください! ないよりマシです!」

「いや、俺のはスリットが深すぎ」

「翔君の上着も短そうですし……」


 とにかく服を調達しなければと思うが、周りに見えるのは服屋と無縁な建物ばかりで、しかも消防車や救急車、おまけに自衛隊まで出て来られては動くのも困難そうだ。


 その時だ、ホテルの中庭まで乗り上げて来たジープが一行を取り囲み大型のライトで照らす。


「そこの不審者! 動くな!」


 英語でそう言われて全員の頭に同じ作戦が思い浮かぶ。啓吾は大型ライトを重力の力で破壊して翔に命じた。


「三男坊! 瞬殺しろ!!」

「オウ!」


 事は一刻の猶予もない。翔は地を蹴ってジープに飛び乗り、アメリカ兵達を一瞬のうちに悶絶させた。

 それを確認した啓吾はとりあえず一番小柄なアメリカ兵のシャツとズボンを剥ぎ取ってそれを紫月に渡した。とはいっても、それでも柳には大きいだろうが……


「紫月、お前が一番早い。これ届けに行け」

「分かりました」


 紫月は服を受け取るなり強い風を纏い始める。おそらく最高速度で飛ばなければ上空の火や煙を吸い込んでしまうだろうと感じた。

 それだけ上空の視界も悪く何より危険だ。


「だが気をつけろよ。次男坊が有り得ないぐらい荒れてるからな」

「はい」


 そう返事するなり紫月は一瞬のうちに舞い上がっていった。


「さて。夢華、俺達ももう一度非常階段で上がるぞ。柳と紫月だけ危険地帯に向かわせるわけにはいかないし」

「うん!」


 夢華は水の力を発動して啓吾と自分の周りを水で覆った。


「……純、俺達もいくぞ」

「えっ?」

「アメリカ兵がまたやって来た。これは龍兄貴に知らせないといけないよな?」

「うん!!」


 にやりと笑う翔にぱあっと表情を明るくして純は頷くのだった。




行って戻って……

ホテルの非常階段を上り下りしているにも関わらず翔も純も平然としています。

さすがは超人的な体力の持ち主です。


にしても服のことに気付いて良かったよ……

純君偉いぞ、もし気付かなければ啓吾兄さんが有り得ない勢いで荒れていたでしょう。

秀は喜んでただろうけど……(えっ!?)


さあ、今回は余談話にしてしまいましたが、次回はどうなるのかなあ?




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