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天空記  作者: 緒俐
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第八話:礼節は守れ

 もはや当たり前というように、本日も紫月は翔に無理矢理自転車の後ろに乗せられて天宮家に向かっている。


 ただ、あまりにも速い暴走自転車はやめてくれと言えば、腰に腕を回すぐらいのスピードに落としてくれる気遣いはしてくれた。


 しかし、それでも一般車より速いということはどうなんだろうとは思うが……


「はい、到着!」

「……普通の女子は絶対乗せない方がいいと思いますよ」

「紫月以外は乗せることないだろ」


 あっさりと返される。彼に好意を寄せる女子がいれば、間違いなく勘違いされそうな台詞を翔はあっさりと言い切るタイプだ。


 だが、それに対して紫月も頬を朱く染めるようなタイプでもないのだけれど。


「ただいまぁ!」

「お邪魔します」


 元気な声と冷静な声が玄関に響く。そして、靴を脱いでリビングの扉を開けると美女が二人、まったりとティータイムを楽しんでいた。沙南と柳だ。


 恋の話でもしていたのだろうか、沙南の表情は花が舞い踊るかのように明るく幸せそうである。


「二人ともおかえりなさい」

「あっ! 姉ちゃん!」

「こんにちは」


 柳は穏やかな笑みを浮かべた。そして、翔は柳の前に立ち頭を下げる。


「先日は傘を貸して頂きありがとうございました」

「いいえ、どういたしまして」


 柳も立ち上がって礼をする。そんな翔の立ち振る舞いに感心した気持ちを柳は言葉に乗せた。


「本当に教育が行き届いてるのね。さっき純君にも同じように御礼されたわ」

「うちの家訓なんだ。礼節は守れってさ」


 天宮家の家長は人として最低限のルールを守ることを重んじている。なので受けた恩は必ず返し、その場に応じて適切な態度を取るようにと弟達に命じてきた。


 当然それを守らなければ、どれだけの時間をかけて説教されるのかは翔の精神的平和とでも言おうか、とにかく脅かされるので考えたくもない。


「それに紫月と仲良くしていただいてるみたいで、どうもありがとう」

「姉さん、違いますよ。課題で泣き付かれただけです」


 ぴしゃりと紫月は言い切った。しかし、泣き付かれては断れない辺り、紫月の面倒見の良い性格が表れてはいるが。


「じゃあ、早くやってらっしゃい。おやつ持って行ってあげるからね!」

「サンキュー、沙南ちゃん!」

「すみません」


 紫月は一礼して翔の後ろに付いていった。そんな二人の後ろ姿を見送って、柳は穏やかな声で告げる。


「本当、凄く楽しそうな家族ね」

「そうでしょう? 私がずっと一緒にいたいって気持ち分かる?」

「ええ、とても」


 沙南は立ち上がるとキッチンの中に入り、棚からグラスを取り出してその中にジュースを注ぎ、冷蔵庫に入れていた沙南お手製のケーキをカットして皿にそれを乗せた。


 いつもそうやってこの居心地の良い空気をさらに快適にしているのだろうな、とその動作を見ただけで伝わってくる。


「それより、沙南ちゃんが話してくれた好きな人の写真も見てみたいな」

「そうだったわね、えっと……」


 リビングの本棚に置かれているアルバムを一冊柳に手渡した。そして、龍が写る写真を指差す。


「この人がそうよ。普段は眼鏡をかけてるんだけど、外しちゃうと大人びた翔君になっちゃうのよね」

「本当、似てるわね」


 確かに兄弟、雰囲気は少し異なりそうだが容姿はやはり似ているところがある。ただ、純とは少し違うかなと思う。

 どちらかといえば、純はふんわりとした美少年という感じがしていたから。


「あとね、天宮家にはもう一人いてね、純君はそっちよりの顔立ちかな」


 沙南が指差した青年の顔に柳は時間を止められた。写真に写る絶世の美貌を持つ美青年に、柳は言葉にならない思いが込み上げて来るのを感じる。


 どこで出会ったのだろう、心のどこかで聞いてもいない彼の名を呼ぼうとする自分がいる……


 切なく、しかしどこからか甘い声が聞こえてきそうで……


「柳ちゃん?」

「あっ、ごめんなさい、凄くカッコイイ人ね」

「そうでしょう? 実物はそこら中の女の子が騒いじゃうぐらいの美貌の持ち主ね」


 まあ、性格は顔に似合わず過激なタイプだけど、と沙南は付け加えたが、柳の耳には届いていなかった。


「じゃあ、ちょっと差し入れ持っていくね。ゆっくり見てて」

「ええ……」


 リビングを出て沙南は階段を駆け上がっていく。その間、柳は写真に写る秀の顔をもう一度見た。そして、写真をスッと指先でなどれば、涙まで溢れ出して来るのを感じて柳はそれに驚く。


 ただ、それを止めようとは思わなかった。いや、止められないとずっと前から分かっていた気までして……


「……この人、胸が締め付けられる。どうしてだろう?」


 その感情の正体は分からないまま、柳が秀と対面する日は近付いていた……




毎日翔君の自転車の後ろに乗って帰る紫月ちゃんですが、恋人みたいな事をやってる割に二人の仲は進展してません(笑)


まあ、紫月ちゃんは非常に面倒見がいい性格らしいので、翔みたいな手のかかる問題児をほっておけないらしいですが……


そして柳ちゃん、秀さんの写真を見て何やら心に引っ掛かるものが出て来てるみたいです。

ですが、一目惚れとかそんな部類ではありません。


じゃあ、一体何なのでしょうか??




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