第六十五話:サービスエリア攻防戦
「グハッ!」
「フゴッ!?」
龍はこちらに敵意剥き出しで向かって来る偽警官達の顔面を軽く殴っただけで気絶させ、啓吾は自分が出る幕もないなと銃だけ重力で取り上げ、後から追ってこないように偽パトカーのタイヤに全て銃弾を撃ち込んでおいた。
「啓吾、片付いたぞ」
「おお、お疲れ」
僅か二分で偽警官十数名を片付け、とりあえず自分達の進行に邪魔なものを龍は積み上げておいた。
おそらく、そのうち本物の警察が全て片付けてくれるだろうと全く気にする様子もない。
「さて、俺達だけに敵は寄越さないよな?」
「だろうな。あいつらもやり過ぎてないと良いが……」
といった瞬間、駐車場で大爆発が起こる! こんな派手なことをやるのは間違いなく自分達の弟妹が原因だ。
「龍」
「全くあいつらは……」
何で少しぐらい大人しく敵を倒せないんだよ……、と龍は内心深い溜息を吐き出しながらも二人は急いで車に乗り込みアクセルを踏み込んだ。
そして、派手な爆発の原因は龍達がガソリンスタンドへ行った後から始まる。
「美味しい〜!」
「うん! 美味しいね」
「紫月、そっちの一口くれよ」
「いいですよ」
年少組はサービスエリアに来るなり、アイス屋に目を付け早速それぞれが違う味を選んで食べ始める。
こういった場所では地元ならではの商品や珍しいものが結構並んでいたりするため、ついつい手が伸びてしまうものだ。
そして、こういった場所で一番最初に食べて感想を述べるのは当然、食欲魔神の翔だった。しかし、今回は特産品ということもあり味わっているようだ。
「う〜ん、スイートポテト味だな」
「そのままの感想しかないんですか。それだけ食欲旺盛だというのに食のレポーターには程遠いですね」
「だってさ、御当地の特産物って珍しいから美味いとかよりこういう感想にならないか?」
「まぁ、気持ちは分からないこともありませんが」
「じゃあ、こっちも食ってみろよ」
「いただきます」
スプーンでクリームをすくい口の中に入れるとやけに濃厚なミルクキャラメルの味がした。
「これはヒットですね」
「ああ、選んで正解だよな」
アイス屋が聞けばさぞ嬉しい言葉が二人からこぼれる。特に味の評価に結構厳しい紫月からヒットが出るということはかなり凄いことでもあった。
それからアイスを食べ終えた年少組は秀達と合流しようと建物内に入ろうとした時、いきなり純と夢華は大柄なアメリカ兵に抱き抱えられ拘束された。さらに翔と紫月も囲まれる。
「うぅっ〜! 離してよっ!」
夢華はジタバタ暴れるが超人ではない彼女はすぐに抜けることが出来ない。
「おじさん達、誰!」
純が睨み付けて尋ねると夢華の蟀谷に銃が突き付けられた。それに翔と紫月は怒りを表情にする。
「日本を守ってる正義の味方さ。お前達のような悪がいると困るんでね、捕獲しに来たんだよ」
「……否定出来ないよな、確かに」
「まぁ、少なくとも自衛隊の敵には違いないでしょうね」
先日、演習場でかなり大暴れしているので彼等にとって自分達は悪に違いないだろう。それだけ多くの被害を出したのは事実だ。
ただ、アメリカ兵には一昨日しか手を出してないんだけどな、と翔が言えば紫月は深い溜息を吐き出した。どうやら今回の元凶は隣にいたらしい。
「翔君の所為ですね」
「だってさ、沙南ちゃんや柳姉ちゃんが危ないかなって」
「それでやり過ぎたと」
「いつもよりは軽傷だって!」
やられた側からしてみれば「どこがだ!」と苦情の一つ来そうな言い分である。しかし、息の根まで止めないよう、翔なりに力の加減はしているのだ。
「だけどそれで大人しくするのは天宮家らしくないからさ」
「そうですね、それに夢華に危険なもの向けないでほしいですし」
「だったらお姉ちゃん、私も戦っていい?」
「いいえ、力が勿体ないですからちょっとだけ待ってて下さい」
「分かった!」
好き勝手繰り広げられる会話にアメリカ兵は苛立ち、さらに夢華の蟀谷に銃口を強く押し当てた! これ以上嘗められる訳にはいかない!
「静かにしろっ! このガキの頭ぶち抜くぞ!!」
その刹那だった。翔は夢華の蟀谷に当てられていた銃を握り潰し、紫月は男の顔面に上段回し蹴りを決めて吹き飛ばした!
「速いっ!!」
「よっと!」
純もアメリカ兵の腕から抜け出し腹部に一発パンチを叩き込むと、彼は膝を折ってその場に崩れた。
「男に銃はきかん! 女共を撃てェ!!」
「やらせるかよ!!」
発砲される前に、翔は向かって来る巨体のアメリカ兵の手首を掴んで力一杯投げ飛ばした。
「うわっ!!」
三人がその巨体の巻き添えになって倒れる。そして、紫月も銃弾は御免だと風の力を利用して相手を片っ端から吹き飛ばしていく。
「小僧がぁ!」
「遅いよ!」
翔はアメリカ兵の顎を殴り、さらに腹部を蹴り飛ばして再度立ち上がろうとしていた兵はその巻き添えをくらった。
「くそっ!!」
明らかに劣勢と悟ったアメリカ兵の一人が乗って来た軍事車両から機関銃を取り出して来た!
「夢華ちゃん!」
純はすぐに夢華を抱き寄せ盾になる。それを見たアメリカ兵は舌打ちしてもう一人の少女に銃口を向けた。それは風に乗り舞い上がる少女。
「紫月! 逃げろっ!!」
翔が叫んだ瞬間、機関銃は紫月に発射された! そして彼女は血を噴いて落とされるはずだったのだが、それとは全く逆の光景を彼等は目にした。
「無傷だと!?」
「……余計な力を使わせないで下さい」
紫月の目は白い光を放つ。彼女の周りには強力な風が纏わり付いていた。それが銃弾を止め、弾道を逸らしたのである。
「ついでにお返ししておきます!」
「うわあああっ!!」
遠当て。紫月は腕を振り下ろしてアメリカ兵を吹き飛ばした。それを見て末っ子組は目をキラキラさせて称賛する。
「お姉ちゃんかっこいい!」
「紫月さんすごい!」
全て片付いたな、と紫月は力を緩め地上に降り立とうとした時、翔が片手で軍事車両を抱えているのを見る。
そして、遠くからは軍用ヘリコプターがいかにもこちらに攻撃してきそうな雰囲気を漂わせて迫って来た。
「翔君、まさか……」
「紫月! どいてろ!」
紫月は瞬時に飛んでその場から離れると、翔は豪速球で軍事車両を投げ飛ばし、ヘリコプターを墜落させるとそれは大爆発を起こし爆風を生んだ!
「きゃっ!!」
「おっと!」
紫月は翔に抱き寄せられて吹き飛ばされるのを避けた。その瞬間、紫月は少しドキッとする。成長期途中といえども翔は男の子だと当たり前なことを思った。
それから爆風がやみ紫月は顔を上げた直後、翔の後ろから容赦なくげんこつを落とす者が現れた。
「いってぇ!! 何すんだよ秀兄貴!」
「ヘリに車をぶつけるなんて何考えてるんですか!」
「だって、またあいつら撃って来ようとしてたじゃないか!」
「ぶつけるものを選びなさい!」
「秀さん、ヘリ自体を落とすことに問題があるんじゃ……」
うんうんと末っ子組は紫月の意見に頷く。とはいえ、通常ヘリコプターは落とすものではないと龍に言われているため、二人はそれに従っているだけなのだが。
「純君、夢華ちゃん、大丈夫だった?」
「あっ、沙南ちゃん!」
「柳お姉ちゃん!」
秀に遅れること十数秒、沙南と柳も一行に合流した。手には買い込んだサービスエリアの食と飲料の数々を持たれており、暴れた後はエネルギーが必要でしょ、と沙南は笑った。
そして秀と翔の喧嘩が始まる直前、ガソリンスタンドから戻って来た長男達は叫ぶ。
「早く乗れ!」
「翔っ! お前何やった!」
「ヘリを墜落させただけだよ!」
だけ、というのが絶対間違ってるなと紫月は思うが、どうやら御仲間達がさらにやって来る。長居は無用だ。
運転手を交代してる時間などなく、秀は助手席に乗り込んだ。
「啓吾さん、運転頼みましたからね!」
「へいへい。やっぱり普通の休日とはいかないよなぁ……」
久しぶりにゆっくりしたかったのに……、と啓吾はがっくりと肩を落とすのだった。
ヘリに車ぶつけて落とすって……
そりゃ派手に爆発したでしょうよ、秀さんがげんこつ落とすでしょうよ……
だけど爆風で吹き飛ばされそうになった紫月ちゃんを翔が抱き寄せちゃった!
紫月ちゃんがちょっとドキッとしちゃったよ!
いつもなら秀がおいしいところを持っていくのに対してはドキドキなんかしないのに、やっぱり翔だと意外なのか!?
だけどそろそろ啓吾兄さんがお疲れモードに入りそうですね……
でも次回はカーチェイスが待ってるぞ(笑)