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天空記  作者: 緒俐
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第六十三話:情報交換

 龍が医局に戻って来るなり、医院長室でのやり取りを聞いた啓吾は声を上げて驚いた。


「はあっ!? 次男坊と沙南お嬢さんの結婚話!?」

「ああ。だが、ハワードが関わってるから断ったけど」


 いや、間違いなく龍の本心だろ……、と啓吾はつっこみたかったが、龍の機嫌が恐ろしく低空飛行なのでやめておいた。

 こんな顔をするぐらいなら、さっさと自分のものにしてしまえばいいのに、と啓吾は思うのだが。


「それに俺にもハワードの下で働けと言ってきたらしいな」

「へええ、そりゃ今より楽な暮らしは出来そうだな」

「まぁな。だけど俺はこの生活の方が気に入ってる」

「充実感はあるからな。まぁ、徹夜が少し減ればもっと有り難いけど」


 確かにそうだな、と龍は笑った。そして啓吾はカルテを全て書き終えると、思いっきり背伸びをして龍に尋ねた。


「だけど今回は偶然だと思うか?」

「いや、必然かもしれないな。昨日の雇われ兵とハワード、全くの無関係とは思えない」

「だよな」


 啓吾はセディの事を思い出していた。おそらく彼女がハワードの使者としてやって来てるのだろうと手易く想像出来た。天空記の存在を知る自分を啓星と呼んだ女……


「もう平穏とは縁を切れってか?」

「さぁ? ただ平穏と手を切るのが俺達とは限らないだろ?」


 龍は勝ち気な表情を浮かべた。相手が相手と分かっているなら打てる手は打っておくのが龍である。

 人が良い癖に時々見せるその表情に啓吾もつられて笑った。


「俺やっぱり龍が好きだな」

「紗枝ちゃんにも言ってやれ。少しは優しくしてくれるかもしれないぞ?」

「いや、どうせならあいつには愛してると言ってやるよ。あっ、紗枝も赤くなることあんのかなぁ?」

「どうかなぁ〜」


 そういえば見たことないな、と思いながら、本日は常勤のみの紗枝の空いた机に龍は視線を落とすのだった。



 その頃、人気の少ないバーで紗枝はカクテルを飲みながらある人物を待っていた。周りの視線は紗枝を誘おうかと迷っているようだが、慣れているのか彼女は全く気にしてない様子である。


 そして、その視線を送る一人が紗枝に声を掛けようとした時、彼女はバーに入って来た人物に笑顔を向けた。


「久しぶりね、あっちゃん!」

「すまない紗枝ちゃん、少し遅くなった」


 紗枝は兄の親友である土屋淳行と久しぶりの対面を果たした。もちろん、彼も龍の先輩に当たる人物であり、新聞記者の宮岡良二とも幼なじみである。


 土屋は紗枝の座る隣に腰掛け、ウエイターにウイスキーを注文した。


「仕事はどうだい?」

「結構楽しいわよ、最近はアメリカ帰りの篠塚啓吾っていう新しい外科医の家族とも交流出来てるし。警察はどうなの?」

「大忙しだよ。郷田議員のことだけならまだしも、高原老まで死亡した。良二にも聞いたが東富士演習場壊滅には龍達が関わってるんだって?」

「関わってるというより元凶ね。あっ、もちろんこれはオフレコでね、土屋警視」

「ハハッ、この騒動の犯人を匿う警視なんてまずいないだろうな」


 まぁ、龍達がこの一連の騒動の犯人だなんていったところで、あまりにデカすぎる被害にまず信じる者もいないだろうが。


 そして、カウンターにウイスキーが置かれ土屋はグラスを振りカラカラっと氷の音が小さく響いた。


「まぁ、龍達が常人離れしてるのは今に始まったことじゃないが、高原老といいハワードといい関わってくる権力者が世界レベルになってきてるな」

「あら、今回はハワードがちょっかいかけて来てるの?」

「ああ、良二が龍に頼まれて調べてるみたいだ。良二の情報では何故か紗枝ちゃんまでハワードに医者として引き抜かれる話が出てるみたいだけど?」

「それはお断りだわ。だって今の生活、結構気に入ってるんだもん」

「おじさんが嘆くんじゃないかい? それに紗枝ちゃんが見合い話断ってばっかりだって森のやつが心配してたぞ?」

「あのバカ兄にだけは言われたくはないわね」


 紗枝は即答した。彼女の認識では彼よりバカでまともじゃない人類はまずいないである。それが自分の兄、森である。


「そうだな、とりあえずあいつが出て来た時点で話が逸れるから元に戻そう。

 まず紗枝ちゃん、龍がもし高原老の所持品から見っかったら流してくれといった『天空記』。天宮家の家伝書だと話は聞いているがそれだけじゃないんだろう? 事情ぐらい説明してくれるかい?」


 それを聞いて珍しく龍は全て土屋達に話してないのかと思った。確かに話すかどうかは紗枝でも迷う内容だが。


「う〜ん、龍ちゃんが話してないなら私も言わない方がいいんじゃないのかなぁ? それに言ったとしても、私も実際に見てないから信じ難いとこがあるのよね」

「そんなに現実離れした内容なのかい?」

「そうね、東富士の自衛隊演習場で起こったいろんな記録の全てに、天宮家が関わってると受け入れられる土屋警視でいてくれるなら話すわよ?」

「それはすごいな、是非聞いておこう」

「だったら混乱せずについてきてね」


 紗枝はカクテルを飲み干し、先日の東富士演習場で起こった内容をゆっくり話始めた。


 天空記が天界最古の歴史書といいそれを信じた高原が龍達を狙ったということ、東富士の演習場に降った記録的な大雨は天空記に書かれている北天空太子が降らせたもので純が彼に変身したということ、おまけにその従者と言われる篠塚家の末っ子も変身したといって、一度土屋はストップをかけた。


「……確かに龍が混乱しないように気を遣って話さないでいてくれた内容だな」

「本当よ。こんなこと信じてる方がおかしいと思うわ。だけど純ちゃん、水を出せる魔法使いになったみたいだし」

「手品じゃないだろうな、あの兄弟のことだし」


 天宮家の超人的な力を知っていれば魔法と言われるものを使ってもおかしくはないな、と土屋は何とか受け入れることが出来た。


「うん、それは純ちゃんが実際に見せてくれたから信じるしかないんだけど……」

「ああ、その天空記という本に書かれてる全内容はまだ不明でも、純君がその本に書かれている北天空太子に変身して豪雨を降らせ、兵器の数々に落雷を落として破壊したというのが事実だから信じろといわれたら確かに首は傾げたくなるな」

「そういうこと。だから天空記を手に入れたいらしいのよね。龍ちゃんでも手に負えない事態が起こったときに困るからって」

「まぁ、今の内容が事実ならそうしたくもなるな」


 土屋はウイスキーを飲み干し、次は珍しく烏龍茶二つと頼んだ。酔って聞く内容じゃないと判断したからだ。


「だが、ハワードが龍達を狙うのもその天空記が原因なのかい?」

「多分ね。さっき話した篠塚啓吾は天空記の啓星って従者らしくて、一昨日うちの病院に尋ねて来た女が啓星って呼んでいたの。おそらくハワードの関係者だと思うんだけど」

「なるほどね」

「あら、ハワードについてはあっさり受け入れちゃったの?」


 カウンターに烏龍茶が二つ置かれる。土屋はそれを一口飲んで微笑を浮かべた。


「ああ、最近アメリカ軍の動きがやたら激しいと思ってたからね。そこに当然ハワードの名前が出て来てるんだ。医療にハワードの名前が上がることも多々あるが、戦争はさらに多いなんて矛盾してる気がするね」

「だけど医療と戦争、相反するビジネスだけど切り離せない関わりよ?」

「でも、龍がハワードの誘いを絶対受けない理由になるけどな」


 違いないわね、と紗枝は笑って烏龍茶を飲んだ。そして土屋は鞄を開けると一枚のCDを取り出し、それを紗枝のテーブルの前に置いた。


「それは?」

「龍に渡しておいてくれ。今のところ天空記そのものは見つからなかったが、高原老が警戒していた数々の情報が入っている。ハワードもそのうちの一つだ。少しは役に立つと思う」

「分かったわ。それと龍ちゃんから伝言もあるわよ」


 CDを鞄にしまいながら紗枝はニッコリ笑って伝えた。


「忙しくして申し訳ありませんが、今度のうちの酒宴には来て下さい」

「確かに、今年は別荘に行けなくなったもんなぁ」

「折角バカ兄も来れなくなったんだから、まともにナンパも出来たのにね」

「全くだ……」


 土屋は森の馬鹿ヅラを忘れるためにこれから酔うことに決め、ウォッカを頼むのだった。




またまた新キャラ登場。

龍の先輩で紗枝の兄の親友、土屋淳行警視です!

ちゃっかり偉いポジションにいるのですが結構現場好きというお方です。

「捜査は足でするもの」というモットーがあるらしいですが、龍達と付き合ってるとそっちの方が自然と都合が良いようです(笑)


そんな彼が持ってきた情報は一体何に使われるのかは龍ではなく、秀に任せることになりそう。

どんなことに使われるのか……




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